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見えてるところには行ける(たいがいはその日のうちに)。

「あの雲の中に突入したらどんな景色が見れるんだろう?」
あれはたしか僕が中学生の時、雨の日。教室の窓から見える、小さな山の頂上付近に雨雲がかかっていた。授業中にボーっとそれを見ていて、ふとそんな疑問がわいてきた。今あの山に登れば、雲の中の様子を実際に確かめられるんじゃないか。
休み時間、「なあ今なら雲の中に行けるんじゃね?」とすぐに数人の友達に声をかけ、「それは行くしかないやん」と決まった。なんだかそわそわしながら放課後を待つ。学校が終わるとすぐさま帰宅し、小雨の中、自転車で集合した。雲が消えてしまう前に、と自転車をかっ飛ばして山へと向かった。部活を引退し、エネルギーを持て余した中学生の行動力は恐ろしい。

結果的には、雲がかかった山の頂上では特に面白い景色は見られなかった。というかどんな景色だったかあまり覚えていない。ただ霧がかかったような景色だったのか、それとも登る途中で雲が晴れてしまったのか…。とにかく、期待していたような面白い何かは見た覚えがない。

というのも、頂上で何を見たのかよりもそこに至るまでの過程が面白くてそっちを思い出として記憶しているからだ。授業中の暇つぶしでなんとなく思いついたことを、その日のうちに実行できている痛快さ。思いつきに付き合ってすぐに行動してくれる友達がいることの嬉しさ。中学生がつるんで放課後にやることが登山て(笑)というおかしさ。そしてそもそもの山登りの楽しさ。いろんな要素があって少年時代の思い出として強く残ってるんだと思う。
登りながらみんなといろいろ喋ったけど、それこそどうでもいいことを話してたんだろう、内容はまったく覚えていない。覚えているのはただ楽しかったということだけ。
あとは山頂で写真も撮ったな。当時、友人が持っていたiPod touchで撮ったあの写真は今もどこかに残ってるんだろうか。

後日この放課後登山が親伝いで学校に伝わり、僕らは校長室に呼び出される。一回だけならともかく、登山の楽しさを知って他の山にも手を出し始めたのが良くなかった。放課後に登るもんだからたまに夜遅くまで帰れず、それで非行を疑われたのかも。蓋を開けてみればみんなで登山をしていただけなわけだが。
それでも、「受験生だから勉強をしなさい。あと危ないから夜に山に登るな」と叱られ、僕らの放課後登山活動は幕を閉じた。

校長室でお説教を受けることまでセットで、中学時代の大切な思い出だ。雨の時期になるとたまに思い出してしまう。

オープンワールドゲームの売り文句で「フィールドの見えてるところには実際に行けます」というものがある。行きたいところにいけるのは空を飛べるゲームのキャラだけじゃない。暇と体力を持て余す中学生だって、もちろん今の僕らにだって、それはできる。行こうと思えば世界のどこへでも行ける!なんて仰々しい話ではなくて、ただ、こっから見えているあの場所はどんなに遠く見えても行くことできるよねっていう話。
それぐらいの軽さは常に心に持っていたいよねって話。

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