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【コンサートミニレポ#11】2人の(本当は3人の)オルガニスト—《オルガンウィーク》東方理紗&濱野芳純オルガン・リサイタル

開催日 2024年9月13日(金曜日)
開催場所 武蔵野市民文化会館 小ホール
出演 東方理紗(オルガン)
   濱野芳純(オルガン)
主催 (公財)武蔵野文化生涯学習事業団

プログラム
W.モーツァルト:自動オルガンのための幻想曲 ヘ短調 K.608(プリモ:濱野、セコンド:東方)
D.ブクステフーデ:トッカータニ短調 BuxWV155(東方)
J.P.スウェーリンク:わが青春はすでに過ぎ去り SwWV324(濱野)
作者不詳:変奏曲 ダフネ(ポジティフ:濱野)
J.S.バッハ:G線上のアリア(東方)
S.カークエラート:ロンド アラ カンパネラ Op.156(東方)
J.アラン:連祷(濱野)

A.ソレール:2台オルガンのための6つのコンチェルトより 第1番 ハ長調(第オルガン:濱野、ポジティフ:東方)
J.C.ケルル:カッコウによるカプリッチョ(ポジティフ:東方、水笛:石川)
C.フランク:前奏曲、フーガと変奏曲(濱野)
G.フォーレ:シシリエンヌ(濱野)
M.デュリュフレ:トッカータ Op.5(東方)
A.ハチャトリアン:剣の舞(プリモ:東方、セコンド:濱野)


第9回武蔵野市国際オルガンコンクールから1年が経つ(このときのレポはこちら)。入賞者の東方理紗さん(第2位)と濱野芳純さん(第3位)を抱き合わせで呼ぶというなかなか贅沢なコンサートである。

東方理紗:技巧の煌めき

このコンサートで圧巻だったのは、東方さんによるカルク=エーレルトデュリュフレである。カルク=エーレルトは半音階を多用したいかにも彼らしい作品であり、デュリュフレは師のデュカスに献呈された作品(ってことはデュリュフレはデュカスの弟子なんだな、デュカスの弟子ってなぜかミッキーマウスが頭にちらつく)。二曲とも非常に技巧を求められる作品なのだが、安定感があって崩れない。それでいて、こぢんまりした演奏ではなく、迫力もある。二作とも演奏後に客席がざわついていたのは、昨年の西村朗のときと同じだ。デュリュフレの演奏が終わってから拍手が起こる前の空白の時間には、客席の誰かが発したため息交じりの「すごい……」という小声が聞こえてきた。

濱野芳純:意外にも軟投派

二人は、全くタイプの違うオルガニストである。しかも見た目とのギャップがすごくある。技巧の求められるアランは少しリズムが危なっかしい感じがしてあまり良さが出ていない。むしろ、力が発揮されるのはフランクフォーレの方だ。しなやかさと歌ごころが聴いていて心地よい。華奢な長身の濱野さんだが、意外にも軟投派。

デュオの難しさ

連弾と2台オルガンは3曲(+アンコール)だったが、十分に合わせきれたとは言い難い状態だっただろう。モーツァルトはセコンドが遅れて聞こえるのが気になった。これは、高音と低音で音色が大きく異なるオルガンならではの問題でもあるかもしれない。しかし、ソロは問題なく聴けるので、デュオの場合にはすり合わせが必要になるのではないかと愚考した。

2台オルガンのソレルは偽ハイドンみたいな作品だが(貶しているわけではない、私はハイドンの偽作がすごく好きです、Hob.XVI:D1とか特に)、演奏はすごく良かった。特に、第2楽章(終楽章)のミニュエ(メヌエット)は変奏曲だが、第4変奏の掛け合いなどすごく楽しそうで、大オルガンとポジティフが離れているからこそ聴きごたえがあった。

プログラムの最後を飾ったハチャトゥリアンは、フィナーレを飾るにふさわしいレパートリーのはずなのだが、その前のデュリュフレのインパクトのあとでは、数段も印象が薄くなってしまった。アンコールの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》(プリモ:東方理紗、セコンド:濱野芳純)に関しては絶対練習してなかったやろーと突っ込みたくなる出来で、アンコールだからまあ良いのだけれど、それならデュリュフレをプログラムの締めにして、《剣の舞》をアンコールにすればなどと、終わってからなら何とでも言えてしまう。

ということでデュオは低調だった……とまとめることもできるけれど、二人はふだん別々に活動しているわけだし、いきなりデュオで合わせることは難しいというのは私にもわかる(いちおうピアノで連弾の経験あり)。二人のソロが素晴らしいからこそ、デュオの困難さが浮き彫りになったとも言い換えられる。こういう企画である以上、デュオをやらない訳にはいかないし、これは仕方のないことである。ソロ奏者にとってデュオはお祭りのようなものなのだから、楽しければそれでよしと考えた方がよいだろう。

石川優歌:陰の立役者

今回大活躍だったアシスタントの石川さんは、見たことあるなーと思ったら昨年のコンクールでも二人のアシスタントを務めていたとのこと。ストップ操作と譜めくりは重要な役割である。カルク=エーレルトはストップと譜めくりのタイミングが重なってすごく大変そうだった。楽譜出版社は配慮しないのだろうか……。

しかし、石川さんの大活躍は思わぬところでである。ケルルの演奏中、どこからか突然鳥の鳴き声が聞こえてきたのだ。バカな私はてっきりラウタヴァーラみたいに音源を流しているのかと思ったのだが、何と石川さんが裏で水笛を吹いていたのだった。この水笛は、東方さんがフライブルクの野外マーケットで買ったもので、石川さんは前日に3時間練習したという。こういうサービス精神は多くのピアニストが持ち合わせていないもので、オルガニストならではの発想のように感じられる。

さらに、ケルルのあとには石川さんもトークに加わり、突然MCとしてその場を回し始めた。前半のトークではMC不在でぎこちない感じだった(それで会場から爆笑も起きていた)が、石川さんの回しが上手で両演奏者のおもしろエピソードをどんどん引き出していた。

石川さんもトークで少し話していたが、アシスタントは「ただの譜めくりではなく」、偉大な存在である(ということが最も象徴的に表現されているのはマウリシオ・カーゲルの《付加された即興》であろう。おそらく本邦未演。お金があったら企画したい作品の上位にはいる)。その意味でも、今回のコンサートは非常に魅力的だったし、石川さんの演奏を今度はここで聴いてみたいとも思わせられた(ってことで、石川さんのヴィエルヌ貼っておきます)。

文責:西垣龍一

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