友人への下手なアドバイスを後悔した件

30代前半当時の話

 数年前、同学年の親しい友人が「転職しようと思っている」と私に言った。その頃私達は30代前半で、友人は理学療法士をしていた。資格を持っている彼女が転職したいと言っていた先は、「事務とか、なにか別のこと」ができる職場とのこと。当時の私に彼女が近況報告がてらに語ったことだったので、そこまで深刻な相談という感じでもなかった。そして、その話を聞いた私が当時返した言葉は、確か「辞めちゃうの(ちょっと)もったいない」というようなことだった気がする。昔のことで多少記憶が薄れてしまったが、自分の言ったことを後からひどく後悔した。後から、というのもだいぶ時間が経ってからだったので、数年越しに過去の自分の発言を恥じた。
 その当時の私は、視野がだいぶ、かなり、本当に狭かった。その時は2人目の子が生まれたばかりの頃だったと思う。通勤して会社に行って仕事して帰ってきて子どもの世話をして…という毎日がルーティン化し、会社でも保育園でも必要なこと以外は手を出さないところがあった。それは忙しい自分を守るためでもあったと思うし、元々社交的にあれこれ行動範囲をあえて広げるのは苦痛に感じていたので、そういった性格面も相まってより狭い世界に「閉じて」いたのだと思う。
 転職したいと言っていた彼女は、理学療法士という資格を持っていたし、あえてその他の業界に行ってみたい、という気持ちがあったのだろうと思う。だが、私はキャリアが変わることを自分に置き換えて、「一つの業種でキャリアを磨くほうが良い」という固定観念に囚われすぎていたために、先の「もったいない」発言につながったのだ。

自分の中のバイアスに気づく

 結局彼女は、程なくして異業種に転職した。年収面では下がったと語っていたが、彼女が選んだ道は、今も続いている。その後5年ぶりくらいに彼女と対面できる機会があったので、その当時の私の発言を詫びた。元々、軽い近況報告の中での会話だったので彼女は気にもとめていない様子だったが、私だけが、その当時の自分自身の発言を今でも後悔している。その当時の私の狭量な視野も、彼女の進む道を後押しできなかったことも。
 その後、私自身も働き方に疑問を持ち、最終的には転職することになるのだが、その経験があったからこそ、当時の彼女の気持ちもよく理解できたし、そしてその当時の私の発言の後悔にもつながったのだ。たとえ他人がどれだけ「もったいない」「今の環境のほうがいい」と言っても、その本人が違和感を感じていたり不満に感じているのだったら、その「もったいない」には意味がないのだ。それは、私自身も同じことを他人から言われ、まさにそのように思ったから。ただ、その他人からのアドバイスももちろん正論でもあるとも同時に感じている。一般的な見方ではやはりもったいない、と思うような条件なのかと気付かされるし、現状維持が楽なのも事実だ。結局、いつだって自分が選択した方の道を正解にするしか無いのだ。
 自身の経験から、自分の中のバイアスに気づくことができたし、新しい価値観を手に入れることができた。私も彼女と同様に、今は選んだ道を正解にしていく道の半ばだ。
 この時は数年越しに気付いたが、もしかしたら一生涯気づかないこともあるかもしれない。自分はいつでも間違いながら生きている、ということを忘れずにいたい。

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