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ショートショート:陶器の犬

 とある商店街で出会った陶器の犬。手のひらに乗るサイズの黒い柴犬だった。箸置きに使うものらしい。お利口に伏せた犬の背中に箸を置くのだ。犬は口角を上げて目を細めている。ボクに任せてよとでも言いたげな顔。なんてかわいいのだろう。

 犬は一点物ではなく、店の棚にいくつも並んでいた。ひとつずつ手作りのため表情に若干の違いがある。自分だけの一匹を選ぼうと手を伸ばしかけて、止めた。陶器を無事に持って帰る自信がなかった。帰り道でどこかにぶつけて、家に帰ってから犬が割れていることに気づいたら泣いてしまうかもしれない。

 しかし、あまりにもかわいい。でもかわいいからこそ割れたら悲しい。しかし、いや、でも……。しばらく悩んだ後、結局私は犬を買わずに店を出た。

 もしも陶器の犬が、本当の犬だったら。後ろから「わんっ」と呼ばれたら、きっと買いに戻ったのに。そう思った瞬間、かわいらしい鳴き声が聞こえた気がした。


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※みんなのフォトギャラリーから素敵なイラストをお借りしました。ありがとうございます。

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