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久しぶりに読んだ小説が昔の記憶を運んできた

たとえば金木犀の香りや花火の煙、秋の風の匂いで、
たとえばかつての繰り返し聴いた曲が不意に流れて、
いつかの記憶や感情がよみがえることが誰にでもあるだろう。

最近、小説を読んだ時にも同じことが起きた。
吉本ばなな「キッチン」。小学生か中学生の頃から繰り返し手に取り、引っ越しのたびに連れて回っている文庫本は、とうの昔に黄ばんでいる。

ページをめくり始めてすぐ、一番辛くて苦しかった時間が蘇ってきた。小説で昔の気持ちを思い出すなんて、初めての体験だった。

友達にも話せない、頑張っても解決法はない、忘れたいのに忘れることもできなくて苦しんでいた日々。東京でひとりで暮らした部屋でベッドに座りながら本を読んでいた自分、物語に没頭して余計なことを頭から追い出したかった息苦しさが、ぐわっと一気に広がった。

そのうちに小説を読んでいるんだか、当時を思い出しているんだかよくわからなくなった。文が頭に入ってこないので、同じ箇所を何度も読み直すことになり、読み直すたびに新しく昔を思い出した。

生々しくよみがえった感情はあるけど、同時に、あの出来事は私の中で過去になっていたんだなと思えた。ようやくだった。4年も必要だった。不意に引き戻されて戸惑ったけど、どこか自分を客観的に見れたことが嬉しい。

ずっともがいていた自分にがんばったねと言いたくなった出来事だった。

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