君に贈る火星の【ショートショートnote杯⑩】

八太は、2年近くの月日をかけて火星に無事着陸し、今まさに、ステーションに入ろうとしている。

ハッチを慎重に開け、中間室で宇宙服を洗浄し。更に奥のハッチを開けた。

パーン!

それはクラッカーの、鳴る音だった。

おめでとう!ようこそ、火星へ!

八太は、咄嗟には、事情が飲み込めなかった。

なんと、妻の百合子と健一が待ち受けていたのだ。

この2年の間に、科学は急激に進歩し。テレポーテーションマシンが開発された。そして、先回りしてサプライズしてくれたのだという。

呆気にとられている八太を尻目に。百合子と健一が、言った。

「そろそろ帰るね。」

その時、八太が思い出した。

「健一、石だよ。火星の石。持ち帰るって、約束したよな。」

そして、大切そうに、その石を健一に手渡した。

「ありがとう。また明日ね!」

健一は手を振り、テレポーテーションして地球に帰って行った。

1人残された八太は、ぼんやりと、窓の外の上弦のガニメデに目をやった。

「君に贈る火星の……」

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