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絶体絶命

今から書く記事は、下述の記事の、続編である。家内に、「大罪」だと断じられ、肩身の狭い思いをしてきた私だが、千載一遇のチャンスを得て、その免罪符を手に入れた、というお話である。



では、本編に入ろう。


11月末の金曜日。帰宅すると、家内が、ゴミを捨てに行き、ポストから郵便物をとってくると言って、家を出ようとする。

今、私は、帰宅したところだ。

帰宅と同時に、ゴミ捨てなどに出られたら、あとから気持ちもいいし、効率もいいのにと、いつも思っていて。だが、一向に、そうは、ならない。我が家は、準備が、いつも、不足している。それは、家内だけではなく、他ならぬ、私自身が、悪いのであるが。

帰宅したところで、家内が、そう言い出して、今にも家を出そうになっているので、こう、言った。

とってくるから。だから、任せてくれたらいいよ。

だが、家内も、なかなか頑固で譲らない。自分が行くといって、譲らない。だから、結局、二人で一緒に行くことになった。


ゴミを捨てて、郵便物と小荷物を持ち、ふたたびわが家の前に来たときに、事件が起こった。


なんと、あろうことか、家内が、家の鍵を、排水溝に落としてしまったのである。

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わが家のマンションは、今年、大規模修繕の年になっていて。ありとあらゆるところが修繕途中で、排水溝のフタが、一時的に取り外されていたのである。



心の中の、リトルkojuroが、残念そうに、つぶやいた。

この小さな穴の中に、意図的に入れるのも、難しいよ。


這いつくばって、棒やガムテープ、ハンガーを加工してフックを作ったり、色々したが、もう、鍵が見えなくなっていて。辛うじて、アクセサリーの端っこが確認できるような状態で。いわゆる、絶体絶命だった。


四苦八苦しても埒が開かないらちがあかないので、諦めて、翌日の土曜日の朝、フロントサービス経由で、修繕の業者に、ダメもとで話そうという事になった。

幸いにして私が鍵を持っていたので、家には、入ることができた。


悶々として、家内と、鍵の再発注について調べているところに、次女が帰宅してきた。家内が事情を説明すると、次女は、鼻ですすり笑いをしながら、ボソッと、こう言った。

エージェント・コジも、役立たずか。

できなくて悔しくて、コジ、こんな顔をしてるの?


私は、その時、どんな顔をしていたのだろうか。きっと、ミッション・インポッシブルに苛まれて、情けない顔をしていたに違いない。



心の中の、リトルkojuroが、自嘲しながら、つぶやいた。

見透かされているな。悔しいけれど。


晩御飯は、あんまり味がしなくて。不貞寝ふてねのように、マッサージもせずに、眠りについた。



早朝、夢か幻か。目の前には、マイクロテープがあった。


おはよう。コジくん。

今回のミッションは、簡単だ。あの、絶体絶命の鍵を、何とか、救い出してくれ。

わかっているとは思うが、確たる理由無く、途中で挫折したり、諦めたり、自暴自棄になったりという、エージェントにあるまじき行為だけは、決してしないように。


例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。


プシュ〜。


ミッション伝達の、マイクロテープは、消え失せた。



さて。実は、私は、寝ながら考える癖がある。早朝に、試してみたい手があったのだ。それは、磁石とフック作戦だ。

こういう、にわか作りの道具を準備した。

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鍵には、実は、おさるのジョージのアクセサリーがついている。これは、鉄製で。その、端っこだけが、僅かに見えている。そこを、強力磁石で、引きつける。その後、そのアクセサリーの根元にあるリングに、フックをかけ、二重の仕掛で、引き揚げるという、寸法である。

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ほんとうに、鍵は、落ちてしまっていて。僅かに、ジョージの端が、見えるだけ。いわゆる、絶体絶命の状態だ。

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心の中の、リトルkojuroが、つばを飲み込みながら、つぶやいた。

恐らく、最後のチャンスだ。

慎重に、いこう。


慎重に、マグネットの棒を、おろしていく。配管の入り口が鉄製で。配管にくっつき、なかなかうまく下に、マグネット部分を降ろせない。両手で棒を持ち、周りの配管部分に付かないように、慎重に、降ろしていく。

そして、音が、微かに、した。

カチッ。

しめた。ジョージが、くっついてくれた。慎重に、慎重に。そこからも、慎重に、引きずり出す。だが、どこかが、引っかかって、出てこない。ゆっくり、鍵の角度を、いろいろと揺らす。そのうち、ジョージのアクセサリーの付け根のリングの部分が見えてきた。

しめた。リングが、見えてきた。


もう一つの棒を、持ち出す。そして、これも慎重に、慎重に、降ろしていく。そして、リングの部分に、引っかかった。


やった。リングにも、引っかかった。


二つの棒で、しばらく、その引っかかりを除くように、慎重に、慎重に、ゆっくり、ゆっくりと、二つの棒を回したり、引っ張ったり、戻したりを繰り返していくと、鍵の、下からの抵抗が、緩んだ。


とうとう、引き上げられそうだ。

リングから、フックの棒を外し、後は、マグネットの棒を両手で持ち、配管にくっつかないように慎重に、ゆっくり、鍵を、引き上げる。

出た。とうとう、救出成功だ。


部屋に戻り、家内は、まだ、ベッドの中だったが、鍵を、ゆっくりと視界に入れ、鍵を見た瞬間に、言った。


タッタラ〜!


心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、つぶやいた。

それは、ドラえもんが道具を出すときの効果音だな。


すると、家内が、びっくりして私に尋ねてきた。

どうやってとったの!

すごい!


一部始終を説明すると、拍手で、凄い凄いを繰り返した。


心の中の、リトルkojuroが、また、ボソリと、つぶやいた。

女王陛下に、ここまで褒めてもらったのは、正直、初めてじゃないか?



家内の拘りポイントは、ポイ活と、クーポンと、節約である。前夜に、鍵の購入代金があまりにも高額なので、打ちひしがれていたが、それが助かったことが、よほど、嬉しかったのだと思われる。


私は、言った。

エージェント・コジ。とっても、役に立つ男だろ。



心の中の、リトルkojuroが、またまた、ボソリと、つぶやい た。

お金が助かったことにしか、興味は無いと思うよ。


そして、私は、ここぞとばかりに、家内に、言った。

なんか、ご褒美は?


すると、家内が、淡々とこたえた。

そんなこともあろうかと、多摩動物公園の予約をしておいたのよ。ご褒美は、それね。

土日は、多摩動物公園は、入場するのに、予約が必要なのである。このご時世で。


すると、次女が起きてきた。

誇らしげに、鍵を見せて自慢しようとすると、次女がボソリと言った。

五月蠅うるさかったから、知ってる。


次女は、朝食を食べ、すぐに外出し。私と、家内は、多摩動物公園に、出掛けることになった。


そのお話は、また、明日。


ジョージのお陰で、鍵は、絶体絶命のピンチから助け出された。そして、私の大罪は、免罪となった。ほんとうに、ジョージ、大活躍の巻、であった。


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