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贈る言葉

今日は、この、企画ものがめっぽう苦手で、ほとんどやらない私が、おだんごさんの企画に参加することにした。

この企画、「贈りnote」とされていて、たったひとりの誰かに贈るnote。あるひとりの人に、思いを伝えるという企画である。

先週の日曜日の、ショートショートのシロクマ感想文に、たまごまるさんの作品を選んだのだが、その後、もうひとつ、たまごまるさんの記事を読んだとき、奥様へ贈る言葉を綴られていて。いい記事だと思うと同時に、いい企画だとも思ったのだ。


今、私が書くとすれば、次女H(注1)に、だろう。


Hは、小学校の1年生の秋から、マイナーな、ある競技をしている。地元の、強豪でもなんでもないチームに友達を誘い、自ら見学に行き、入って、楽しくやっていた。

監督はもう、おじいちゃんと言っていい年齢だったが、昭和の人で。厳しい人だった。だが低学年の子供たちには優しく。Hは、練習で疲れたらマットで昼寝をしているような、そんなチームだった。

初デビューは、3年生の時。最後のプレーは、Hが交替で入り、ミスをして負けて、大泣きをした。それを6年生達を含めて上級生が全員で慰めて、それでも泣いている姿は、どことなく微笑ましいものだった。

その夏、七夕の短冊には、こう、書かれてあった。

「うまくなって、ユニフォームをきて、しあいにでられますように」

その短冊は、密かに私の机の引き出しの中に、今も大切に保管している。

何の因果か、すべての大会が終わり、6年生の引退試合は、ある強豪チームの主催試合で。そこに、ひょんな縁から参加して、なんと、スカウトされてしまった。


全く予測もしていないようなことが起こり、本人も私たち親も悩み、迷ったが、最後はHが、競技を続けると言い出した。

弱小チームから入ったHは、ユニフォームなど着れるわけがなく、ベンチにも入れず、土日は試合や遠征ばかりで休みなどなく、下積み生活だった。強豪から来た選手、何人かがやめていった。

中学3年の夏に初めてユニフォームを着てベンチ入り。そこから、スタメンとなった。

全国大会にも行き、高校に上がり、それから先も、全国大会に何度となく出場し。強豪チームの辛さをいやというほど味わったHは、その競技が嫌いになっていた。

自由も休みもない世界。それが嫌だと、ずっと言っていた。

大学にも行きたくないとは言っていたものの、ある大学から誘われ、その大学の先輩にも説得されて、あと4年だけと決めてその競技で進学した。

1年生は突然の先輩の故障でなんとなくスタメンで過ごしたが、2年と同時に、例の流行病があって。期せずして競技が出来ない憂き目に遭った。

それが理由ではないのだとは思うのだが、あれだけ嫌いで、もう続けないと言っていた競技を、誘われた実業団で続ける決意をして、今、ある地方都市に行っている。

実力はなく、ベンチ入りがやっとだ。でもそれは本人が一番よく知っていて。アンダーエイジの日本代表には選抜されたことが無い。

口癖は、「私は、弱いから。それは、自分が一番よく知っているから」だ。


だから、先がなくて、なおかつ好きでも無い競技を続けるのかどうか、これ以上モチベーションを上げられるのかどうか。

それを、Hは、いつも、自問自答している。そして今でも、競技をやめて、家に帰りたいと、呟く。


そんなHに、贈る言葉を、書こう。




「今シーズンのゲームは、できる限り、さっちゃんと見に行くよ。ゲームに出なくても、ベンチ入りしなくても、負けても、なんでも、チームを精一杯応援する。

誰ひとり怪我さえしなければ、それで、本当に幸せな気になる。

やめたくなったら、いつでも、帰ってこい。待ってるから。

お前の人生は、競技をやめてからも、長く続く。競技がすべてじゃない。思うように、自由に生きろ。

何とか、なるさ」


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ソファーに目をやると、家内が脚を指さして、いつもよりも優しげに、ニッコリと笑っていた。

コジくん、少しでいいから。


いつものミッションが、発動された。


マッサージをすると、家内は上機嫌になる。

家内が上機嫌だと、我が家は明るくて平和である。


だから。


これで、いいのだ。


(注1)Hとは、我が家の次女のことである。呼称は、Hとしようと思う。長男は、J。長女は、M。こう、しよう。

(注2)我が家の家内の呼称は、「さっちゃん」である。さっちゃんは、女王陛下という別の呼称もある。だが、そもそも長男が飼い出したハリネズミのリキとの関係で、そもそもの飼い主が長男であることから、私は、おじいちゃんだが、家内に対して「おばあちゃん」なんて呼び方は、まかり間違っても、してはならないのである。




■追記■
面ゆるって、なに?
それは、これ。西尾さんはじめ、みんな、面白い作品をあげていて。
私は、だいたい土曜日の夜に、そこそこの過去記事をあげています。
もしも、お時間があれば、みんなの作品、読んで頂けたら幸いです。

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