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【怖い話】なぜか暗い窓の話

建築材料を扱う会社にいた頃、取引先のガラス屋さんに聞いた話です。
仮に、Gさんとでもしましょうか。

ガラスを割ってしまったから交換してほしい、という、ありふれた依頼を受け、Gさんは近所の老夫婦が住むお宅に向かいました。
少々古い家ではありますが、リフォームもされていて、明るい雰囲気の洋風のお家です。
割れてしまったというのは、一階から二階につながる階段の踊り場にある、明かり取り用のはめ殺しの窓でした。日当たりのいい南向きの窓で、昼間は電気もいらないくらいでした。

「孫がおもちゃのボールをぶつけてしまいまして……」
「それはそれは、怪我はなかったですか?」

そんな言葉を交わしつつ、割れたガラスを撤去し、サイズを測り、工場に戻ってガラスを切り出し、窓にはめ込んで……
特になんの問題もなく、作業は終わりました。

「ガラスを変えてもらってから、何だか、暗い気がするんだけれど……」

顔を曇らせた奥さんがGさんの工場に来たのは、それから一週間くらい経った頃でしょうか。
はて?
交換したのはただの透明な板ガラス。もとのガラスと、大きさも厚さも変わりません。
なのに、暗くなったとは一体どういうことでしょうか。

「一回、見てもらえないかしら?」

相手は、昔から知っている近所のご夫婦です、何か因縁をつけようという様子でもないですし、無下にするのも忍びなく、様子を見るだけならと二人でまたお家に向かいました。

「じゃあ、下で待っていますので」

奥さんはGさんを家に上げると、階段の上り口でそう言いました。まぁ、確かに踊り場は大人二人が立つには狭いでしょう。
階段を登って踊り場に立つと、先週Gさんが変えたばかりの窓が目の前にあります。
天気は先週と同じく晴れ、時間もそう変わりません。南向きの窓からは、気持ちのいい日差しが差し込んでいます。変えたばかりのガラスにも、やはり特に異変は感じられません。

「なんともないですよ〜」

そう、階段の下で待つ奥さんに声をかけようと、窓に背を向けると、突然、ふっと踊り場が陰りました。窓の外に、何か、立ったような。
……1階と2階をつなぐ階段の、踊り場の窓です。そんな窓の外に何が立つというのか。

背筋に冷たいものを感じながら恐る恐ると振り返ると、窓の外には、何もいませんでした。
何かがいたのは、窓の、ガラスの表面。
そこに、うっすら、どす黒い人影のようなものが写っていました。べったりと手のひらをくっつけて、こちらを覗き込むように……

「え」

思わず小さく声を上げると、途端にそれは消えてしまいました。

反射した自分の姿を見間違えたのだ、そうに決まっている。
何でもない、何でもない、きっと勘違いだ……

「……でも、もし気になるようなら、ガラス、交換させてもらいますよ」

そう言うと、奥さんはほっとしたように、お願いしますと頭を下げました。

あの窓から外してきたガラスを、ガラス用のゴミ箱に投げ捨てながら、ふと思いました。

そういえば、このご夫婦の孫というと、近所に住んでいる息子夫婦の、4、5歳になる一人娘でしょうか。
とてもお行儀がよく、聞きわけの良い、近所でも評判のお利口な女の子が、どうして窓におもちゃを投げたりしたのか……

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