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タコおどり星人になった日。

私の職場には踊るおじさんがいる。
あと10年したら定年退職する予定のおじさんはいつも踊っている。

踊りといっても、
ヒップホップでもなければ、タップダンスでもない。
日本舞踊でもなく、バレエでもない。
私たちはそれをタコおどりとよんでいる。

腕を地面に水平になるようにあげ、
ただただくねくねと上下に滑らかに動かし続けるだけの踊り。

いつも腕を滑らかに、波打たせ、
おはよう~~~~と言いながら挨拶して回っている。

今思い出すと踊りでもなんでもない。


初めてタコおどりに出会ったあの日。
2つのおどろき。

1つ目のおどろきは、
みんながそのタコおどりを受け入れていたことだ。

部署異動、初日の朝、
その光景をみて固まった。
真顔で見つめた。
おじさんのくねくねタコおどり挨拶に
みんなくねくねタコおどりで返すのだ。
私はできないと思った。

2つ目のおどろきは、
私のチームメンバーの一人が
そのおじさんだったことだ。
やっていけるのか。

チームリーダーとして異動した私は
メンバーとのコミュニケーションを
大事にしなければならない。
ということは、
私はタコおどりを返さなければならないということだ。
冷や汗をかいた。

数日間は笑顔でスルーして、
タコおどりを返せなかった。
勇気が出ない自分に情けなくもなった。
タコおどりは毎日続く。
今日もいい笑顔で。

耐えきれなかった私は、
ついに
「踊る意味ってなんですか?」
聞いてしまった。

後戻りはできず、
「反応に困っている人もいるだろうから、
やめましょう。」

困っているのは他でもない私なのだが。

おじさんは受け入れた。
翌日からタコおどりが消えた。

意外にも、
タコおどりがなくなったことを
心配する人はおらず、
なぜなくなったのか追求されることもなかった。

やはり、みんな困っていたのか。
おじさんには悪いけど、今回はこれでよしかな。
なんて思っていた。

ただ、問題はおこった。
おじさんの成績がぐんぐん落ちたのだ。
仕事ぶりはいつも通りだが、
明らかに成績が落ちている。
変わったことといえばなんだ?


タコおどりだ、、!!
顧客の様子も変わっていない。
世の中の経済状況も変わっていない。
競合が新たに出てきたわけでもない。

これしかない、
タコおどりだ、、!!

彼の力はタコおどりによって
醸成されていたのか。

仕方ない。
解禁するしか手はないのか、、!!

タコおどりを認めた。
成績が戻る。
私はタコおどり星人となった。

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