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ランドマーク(21)

 年齢と特殊な体質であることが考慮され、名前などの詳しい属性は明らかにしないよう、計画の実行委員会によって決定がなされた。そのトップにいたのがわたしの父だ。わたしを思いやってのことか、保身のためか、純粋な倫理観によるものか、真意は測りかねる。現にプロジェクト・スクレイパーが立ち上がってから父はほとんど家に帰ることはなく、母はわたしと父の伝言役を果たしていた。

 しかし人の口に戸は立てられぬと言う通り、わたしの居場所はこの世界から次第に失われていった。週刊誌は紙片の端に父と母の名を書き付け、記事を見たごく一部の人間は被験者がわたしであることを突き止めた。今や現実よりもずっと現実への干渉力を持つインターネットを通じてわたしの情報は拡散していき、ある噂ない噂がはびこった。わたしはあまりにもちっぽけで、あまりにも無力だった。ただ庇護されるばかりで、自ら世界へ働きかける権利すらもたない。周囲の大人は盾になろうと、わたしを情報源から引き剥がした。ディスコネクテッド。わたしは検査という名目で病院に入り、それから学校にも行かなくなった。わたしにとっては三次元の世界がすべて。膨れ上がったもう一つの拡張現実、Augmented Reality。現実からは距離を置き、ただ時間が過ぎるのを待つ日々。十代は一日一日がかけがえのないもの、なんて言うけれど、わたしになにができる?
 

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