東京生活タイトル

実際にはこわくて声も出せなくなる

僕は小学校5年生の娘に空手を習わせている。もう3年目に突入したかもしれない。僕らが通っている道場は4年生から組手の試合があり、女子は女子同士で対決する。去年は2回戦で高校生に当たって敗退したけど、娘は組手が好きになったらしく、やる気があっていい感じです。

ところで僕が「護身のために娘に空手を習わせている」と言うと、異論を唱える人がいる。防犯ブザーは持ってる?じゃあ空手よりスタンガンとか持たせた方がいいんじゃないの?相手が弱いとは限らないだからさ、とかね。

そういうことを言う人は子育て経験がないか、あるいは子供がいても子育てには参加していない中年男性がほとんどだ。もしこういう人がアメリカに住んでいたら、銃規制反対派になるのかなあ?と思う。

そんな時、僕は「あなたはやくざやチンピラに胸倉つかまれてすごまれた時、肩をポンポンたたきながら、『まあそんなに怒るなよ。嫌なことでもあったの?話なら聞いてあげるから酒でも飲もうか?』ってリラックスして言えますか?そんな風に対応できるならあなたのアドバイスも考えますよ」と答えるようにしている。たいてい黙っちゃうね。そこまで胆力がある人や、喧嘩が好きな人は滅多にいないからね。そう、胆力の問題なんです。防御力じゃなくて。

僕自身は、習ってまだ3年ほど、しかもウェイトが軽くて筋力も小さい5年生女子の空手で犯罪者を撃退できる可能性はそう高くないと思っている。「防御力」だけを考えるとアメリカなら護身銃、日本なら催涙スプレーやスタンガンを持たせた方がいいかもしれない。でも僕は経験的に、「実際に女性が襲われると、恐怖で身がすくんで体が動かなくなる」ということを知っている。空手を習わせているのは、実はこの「精神的フリーズ」を避けるためだ。

僕の奥さんが中学生頃に電車で痴漢に被害があった話を聞いたのだが、「大人は『痴漢にあったら声出せばいいだろ、助けを求めろよ』と簡単にいうけど、怖いのと気持ち悪いのとで、体がすくんでしまうんだよねー。絶対に声も出ない。それが分かってもらえないのが辛かった」と言っていた。これは確かにそうだと思う。何の訓練も受けていないと、まず強烈な悪意や殺意と対峙しただけで、精神的にやられてしまう。蛇ににらまれたカエル状態になるのだ。また悪いやつは、そういう相手を見事に選んで攻撃を仕掛けてくる。

蛇ににらまれたカエルがオートマチックのハンドガンをハンドバッグの中に持っていたとして、すぐ取り出して安全装置を外して、相手をポイントしてトリガーを引けるだろうか?たぶん無理でしょう。手足はガクガクと震えて、ガンをとりだすなんてとてもできない。もし出せても、安全装置を外せないか最悪は自分の脚を撃っちゃうかもしれない。同じように、たぶん防犯ブザーも役に立たない場合がある気がする。防犯ブザーはスイッチを引いて鳴る状態にしたら、遠くに投げないと意味がないんだよね。犯人がブザーを踏みつぶして壊さないように。でもできない可能性が高いね。

空手の練習では、人を殴る・人から殴られる・防御する--の組手練習をする。実際には当てないけどね。この時、やっぱりかなりの緊張感がある。逆にどのくらいの「間合い」で自分に当たるか、知ることができる。こういうフィジカルコンタクトに慣れてくれれば、例え数秒でも蛇ににらまれたカエル状態になるのを防いでくれるのでは?と期待している。

悪意と対峙した時、最初の数秒さえフリーズを回避できれば生き残る可能性が高くなる。これは子供だけではなく、大人にも同じだと思う。

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