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そんなにMORはつまらないのか?



MORとは?

WikipediaではMORはイージーリスニングとして括られていて、その代表格がポール・モーリアだそう。でもイージーリスニングとするのはちょっと違和感が。元々MORはMiddle of the Roadの略称で、ブリタニカ国際大百科事典の「気楽に聴ける音楽を総称していう。これといった音楽のジャンルにこだわらず,クラシックをポピュラーにアレンジしたものやイージー・リスニング,ムード・ミュージック,軽いロックやボーカルなどを含む。バック・ミュージックとして気にならない程度の軽い音楽」の定義の方がしっくりくるような。
ただ、ポップ・ミュージックの分野では「MOR」というと凡庸な毒にも薬にもならないという意味に捉えられることが多く、はっきり言えばバカにされている感じがします。この辺りは以前取り上げた産業ロック
AORあたりとも近いわけですが、今回はMORと括られて低く見られているアーティストや作品をあげてみます。

MORを再定義してみる

まずMORをもっと単純に定義したいと思います。ズバリ「よくできた落ち着いて聴ける音楽」。よくできた万人向けの音楽ってそう簡単に作れるものではないでしょう。バカにされる謂れなんかありません。そもそも音楽は好き嫌いで語るのはいいとしても、良い悪いで語るのは慎重であるべきです。
さて、誰を挙げるか?
これ意外と難しい問題なんですが、要は前述の音楽的定義に近いポップフィールドのアーティストで、一般には過小評価されているものを挙げてみましょう。

カーペンターズ

とはいえ、カーペンターズはまだ評価されている方かなと。レコード・コレクターズ誌でも特集になったし(この雑誌で取り上げられるかどうかが結構ポイントだったりする)。ただ、当時アメリカですらかなり酷評されていたみたいで、「ミルクを飲んで、アップル・パイを食べて、シャワーを浴びる」みたいだとまで言われたそう。これ、言い換えればとにかく健康的で清廉潔白というイメージだったんでしょう。わかる気もしますが、本人たちはこのイメージを嫌っていたそうです。
カレンのヴォーカルは言うまでもないですが、意外に注目されていないのが兄リチャードのアレンジ能力。ちなみにうるさ方の評論家にも評価されている曲はこれ。しかし評価されるのはトニー・ペルーソのギターソロばかりでした。

ちなみに私が好きなのは人気のピークは超えてしまった81年の
この曲。なんてことはないポップナンバーですが、妙にツボなんです。

バリー・マニロウ

この人もほとんどまともに音楽性が語られることがないんですが、声質の良さは群を抜いていると思います。ゆえにバラッドを歌ってもベタな感じにならない。80年代半ばは音楽性があちこちに行ったりと迷いが感じられましたが、2000年代以降はロッド・スチュワート同様、オールディーズを取り上げ、アルバムもよく売れています。ただビーチ・ボーイズのブルース・ジョンストンを取り上げるような選曲眼の妙はありませんが。
まずはカーペンターズも取り上げていたデヴィッド・マーティンのカバーを。

上記と同じアルバムより、当時は彼のイメージを大きく変える曲だったはず。ですがこの路線もいいですよね。しかし良い声だなぁ。

ライオネル・リッチー

彼をMORでくくるのもどうかとは思いますが、この人の特徴はブラック・コンテンポラリーの色が薄く、白いこと。クロスオーヴァーというにはもっと落ち着いているイメージ。曲作りの上手さとフィットしたアレンジという点で80年代のこの人の凄さがなかなか伝わらないのが残念。
特にアルバム「オール・ナイト・ロング」はよくできたMORアルバムで、この曲のイントロのギターリフはどこかエリック・クラプトンの「ワンダフル・トゥナイト」を思い出させるところも。

「オール・ナイト・ロング」からは多くの曲がシングルカットされましたが、これはカットされなかった1曲。ですが、佳作だと思います。上質のAORとしても聴ける。

ポール・マッカートニー 「ソー・バッド」

ここからは楽曲単位で。ポールという人も彼が苦手な人は彼のロッカー的資質よりもメロウで軟弱な部分を嫌っていることが多いイメージ。その点で83年の「パイプス・オブ・ピース」はマイケル・ジャクソンとの「セイ・セイ・セイ」以外聴きどころがないと思われて、ファンですらあまり顧みられることのない作品に。
個人的にはこのアルバムはポールにとってのブルーアイドソウル的な側面が最も出た内容になっていると思っていて、それがファルセットで歌うこの曲が代表格。リンダに加えて、10ccのエリック・スチュワートが入ると途端にシルキーな10cc的コーラスになるのも興味深い曲です。

コーラスも素晴らしいですが、ポールの弾くベースラインが絶品で、リンゴのシンプルなドラミングがこれまた素晴らしい。

エリック・カルメン 「恋にノー・タッチ」

今年逝去したエリック・カルメン。ソングライターとしての評価も高いと思っていたら、逝去についてのコメントで日本の某音楽評論家が「あんな曲は誰でも書ける。オレでも書けるし、あれくらいオレでも歌える。あんなのを評価しているから日本のリスナーはダメなんだよ」的なディスコメントをSNSで書いていて、そのコメは音楽評論以前に人としてどうなんだと思ったわけですが。書けるもんなら書いて全米トップ10に送り込んでみろよ。

甘いルックス、甘いメロディ、甘いヴォーカルが軟弱だとでも言いたかったのか分かりませんが、普通に名曲・名アレンジ・名演でしょ。

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