『KISS』L'Arc〜en〜Ciel(お気に入りのアルバムについて語るシリーズ)

『REAL』の次は『KISS』。
時系列でいうとだいぶ飛んでいるが、次はこのアルバムについて語りたい。

このアルバムが出た当時、L'Arc〜en〜Cielは非常に勢力的に活動していた。
全国ツアーを敢行し、そのツアー中に新曲を披露していったこと。
SEVENTH HEAVENを皮切りに立て続けにシングルをリリースし、TVでのプロモーションにもかなり力を入れているように感じられたこと。
こういったことから、アルバムの内容にも俄然期待が膨らんでいた。

その期待を持ったままフラゲし、初めて聴いての印象は、「明るくて良いアルバムだなぁ」というものだった。
この印象は今でも変わっていないのだが、改めて聴き直して気付いたことがある。

このアルバムは最初と最後に明るさを感じる曲が固まっていて、そこに挟まれた中間部分(砂時計〜THE BLACK ROSE)にダークな雰囲気を湛える曲が固まっているのだ。

決して明るい曲ばかりではないにも関わらず明るいアルバムだという印象を受けたのは、そういった構成によるのかもしれない。

バンドの演奏面での大きなトピックは、tetsuyaがこのアルバムからほとんど曲で五弦ベースを使用するようになったことである。

これまでのL'Arc〜en〜Cielのバンドサウンドの中で、tetsuyaのうねりのある手数の多いベースは、ラルクらしさを象徴する要素の一つだったと思う。
五弦がメインとなって初めての本作でのベースは、これまでのものと比べると大人しく感じられる人も多いのではないだろうか。

この辺りの好みは人によりけりだと思う。
ただ、大人しめだからといってもそれでベースパートの魅力が薄れたわけではもちろんなく、低音弦での細かく動くPretty girl、四弦と一弦で和音を弾くアプローチが光る砂時計、サビでお得意の9thを駆使したフレーズが聴ける海辺、ランニングベースが心地良いHurry Xmasと、聴きどころは枚挙にいとまがない。

以下は一曲ずつ掘り下げて触れていきたい。

1.SEVENTH HEAVEN
hyde作詞作曲によるこの曲。
ディスコ的な打ち込みのリズムトラックに、yukihiroの軽やかなドラムパターンが合わさり、非常にノリの良い曲だというのが第一印象。
そのリズムパターンとは対照的に、ギターとベースは8ビートをゴリゴリと刻むようなフレーズがメインで、弦楽器隊はかなりロックな印象のアレンジになっている。
ボーカルではほとんどの箇所にtetsuyaのコーラスが被さり、ライブではkenが合いの手のパートを歌う、コーラスパートにも聴きどころの多い一曲だ。
歌詞にも斬新な仕掛けがあり、楽曲再生中のちょうど1分後に答えは足下にあるという答えを見出すことができる。
流石のhyde詞だ。
恐らくこの曲からtetsuyaはインカムを使ってコーラスをするようになったのではないだろうか。
マイクスタンドを使ってコーラスをこなすtetsuyaの姿を見慣れていたため当初は違和感があったが、今ではもうこれが自然に感じられるようになった。

2.Pretty Girl
作詞作曲ともにkenが手がけたこの曲。
この底抜けに明るい曲調は、SOAPで披露されていたとしても違和感はないのではないだろうか。
ギターのフレーズもラフな感じで、そこまで細かく構築せずに弾いているような雰囲気があってこれがまた格好良い。
サビではkenのコーラスも聴くことができ、本当にkenちゃんみが強く感じられる一曲になっている。

3.MY HEART DRAWS A DREAM
通称マイハー。
ken作曲で、インタビューで他のメンバーが絶賛するほどメロディの美しい、超名曲である。
発売以降ほとんどのライブで披露されており、イントロ前のkenのインプロ的なソロ、ラスサビ前のファンによる合唱はもはや定番だ。
ライブ会場で聴くこの合唱の破壊力は凄まじく、筆者はライブ会場で自らも合唱に参加しながら号泣してしまった。
ボーカルはAメロは低く、徐々に上がっていきサビではかなりの高音が現れるという超難易度になっており、これを辛さを感じさせずに歌うhydeは本当に凄いボーカルだと思う。
また、サビのギターのフレーズが素晴らしく、コードを追いながらも裏メロを奏でていくような美しいアレンジになっている。このパートはライブではより歪みが深めのサウンドで演奏され、ブリッジミュートを交えてのよりメリハリのあるアレンジが聴ける。

4.砂時計
tetsuya作詞作曲による一曲。
歌詞はtetsuyaらしい、批判的な内容となっている。
ただ今回はメディアやファンを揶揄するようだったこれまでのものと比べると、テーマがより盛大になったように感じられる。
繰り返されるEsus4→Eのコード進行がアニメソング的であり、歌詞を鑑みても戦争もののアニメのエンディングテーマなんかが似合いそうだ。
個人的にはこの曲のギターソロがこのアルバムの中では1番のお気に入り。
特にラスト4小節のフレーズがkenらしい音づかいとなっておりとても格好いい。

5.spiral
yukihiro作詞作曲による一曲。
このアルバムの中では一番洋楽っぽいというか、ポップさの少ないマニアックな曲だと思う。
yukihiro作曲だけあってリズムパターンにも打ち込みが多用されており、他の曲とは一線を画すようなアレンジだ。
ギターのアレンジでは16分の細かいカッティングが印象的で、通常であればギターソロが入ってきそうなブリッジの部分では、オクターブでメロディを奏でるようなフレーズが演奏される。
派手ではないが渋くて格好いいアレンジだと思う。

6.ALONE EN LA VIDA
kenに真骨頂とも言える美しいアルペジオがイントロから堪能できるこの曲。
kenのAmキーで開放弦を交えながら弾くフレーズの美しさは異常だと思っており、他にit's the end、LOST HEAVEN等でも同じ要素が感じられると思う。
全体的に異国情緒を感じるようなアンサンブルとなっており、ベース、ドラムは控えめな印象。

7.DAYBREAK'S BELL
ガンダムのタイアップになったシングル曲で、その世界観が歌詞に色濃く反映されている。
この曲はボーカルもギターもベースもいいのだが、なんといっても印象的なのはAメロのドラムのフレーズではないだろうか。
歌詞に呼応するような、ある意味前ドラムのSakuraが叩きそうなフレーズで、目立ちながらもボーカルの邪魔をすることはないバランスが素晴らしい。
PVでは一番サビのラストでtetsuyaがクルッと回るのだが、ライブでも同じような動きをするのが定番になっており、筆者はこのタイミングでいつも「回るかな…」と期待してみてしまう。

8.海辺
サビで鉄板の三度転調が入る、重めのサウンドのバラード。
ラルクのバラードで、こういった重ためのサウンドを基調としたものはこれまであまり見られなかったので新鮮だ。
サビからギターソロに入ったところでも転調し、ここにダークなフレーズをぶち込んでくるのはsnow dropやTRUSTのそれと似たような印象を受けた。
フルピッキングで弾きまくる激しいギターソロになっている。
ラスサビの入りでのhydeの囁くようなボーカルは必聴。

9.THE BLACK ROSE
hyde作詞作曲の、物語のような歌詞がスリリングな演奏に乗せて展開される一曲。
ブラスアレンジがサスペンス映画のような雰囲気を際立たせている。
L'Arc〜en〜Cielで薔薇といえば死の灰の印象が強かったが、この曲が発表されて完全に上書きされた。
前曲の海辺に引き続きバンドサウンドはヘビーで、ベースは五弦がふんだんに使われている。
アルバムのツアーではこの曲が本編の一曲目で演奏されたこともあったようだが、筆者が参加した日はSEVENT H HEAVENが一曲目だった。
セトリを知らずに参加して、一曲目にこの曲が演奏されたら度肝を抜かれると思う

10.Link
前曲までのダークゾーンとは打って変わって明るいこの曲。
リアルタイムで聴いた時は高校3年生というエモい年齢だったこともあり、この曲を聴くと当時のことが思い出される。
この曲のPV撮影で脚を骨折をしたkenはMステでこの曲を座って演奏していたのが懐かしい。
この時は、まさか後にVAMPSのKAZまで脚を骨折するとは思わなかった。
hydeと組むギタリストは皆魅力的だが、脚を怪我しがちである。
この曲はかなりの人気曲でライブでも定番となっており、セットリストの後半で披露されることが多い。
2番のサビのラストを伸ばして一旦切り、ドラム、ベース、ギターと1人づつ戻ってくるアレンジも定番だ。
サビのリズムパターンがスネア頭打ちということで、これはThe Fourth Avenue Cafe以来初めてじゃないだろうか。

11.雪の足跡
ここからは冬を連想させる二曲が続く。
アルバムが11月の下旬に発売されたので、とても季節感のあるアルバムだなあと当時思ったのを覚えている。
ハーフタイムシャッフルのようなリズムが基調のバラードで、この曲のドラムにはこれまでのyukihiroではあまりなかったような暖かみを感じた。
これが曲調に合っており、冬の情景をイメージさせるのに一役買っていると思う。
歌詞で雪に残る足跡をモチーフにした曲は他にも枚挙にいとまがないが、この曲からは冬の寒さではなく、その中にある暖かさが感じられるようで、冬の寒い時期に聴くとグッとくるものがある。

12.Hurry Xmas
個人的にはこの曲がこのアルバムを象徴する一曲だと思っている。
というのも、この曲が過去から存在していたとして、AWAKE以前のアルバムに収録されるとはとても思えないからだ。
L'Arc〜en〜Cielというバンドの懐が広くなり、様々なジャンルの楽曲を生み出すに至った『KISS』というバンドの終着点としてこの曲が収録されているのは象徴的なものがあると思う。
この曲がなければラルクリも無かっただろうし、そういった意味でも存在意義のある楽曲なのではないだろうか。

以上、個々の楽曲について振り返った。
余談だが、L'Arc〜en〜Cielにはキスを表す楽曲として『接吻』、『xxx』があるが、いずれもアルバム『KISS』には収録されていないという、ちょっとしたトリビアも書き添えておきたい。

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