『AWAKE』L'Arc〜en〜Ciel(お気に入りのアルバムについて語るシリーズ)

次は『AWAKE』。
このアルバムはL'Arc〜en〜Cielで恐らく唯一のコンセプチュアルなアルバムで、反戦、平和というテーマに沿った楽曲がほとんどを占めている。

復活後初のアルバム『SMILE』はバラエティ豊かなアルバムという印象で、アルバム全体での統一感はあまりないように感じられたが、このアルバムはそれとは逆で、一本筋が通っているように感じられる。

翌年にリリースされたHYDEのソロアルバム『FAITH』も似た雰囲気を持っており、個人的には『AWAKE』を聴くと『FAITH』まで聴きたくなってしまう。

『FAITH』が似たようなテーマ設定になっていることを鑑みると、この『AWAKE』もコンセプト面でhydeが果たした役割は大きいと思われ、それはhyde作曲の楽曲が多くなっていることにも現れているのではないだろうか。

以下は各楽曲について触れていきたい。

1.New World
作詞はyukihiro、作曲はyukihiroとhydeの共作となっているこの曲。
この曲を当時前情報なしに聴いたとして、yukihiroの曲だと気づける人はいなかっただろう。
これまでのyukihiro曲のようなダークでインダストリアルな空気はなく、非常にキャッチーな一曲になっている。
どこかの雑誌のインタビューで、アジカンを意識して制作されたという話を見た覚えがあるが、そうだとしても納得がいくくらいの楽曲だ。
サビのギターのフレーズがオクターブで構成されているのも、アジカンの影響を受けてなのかもしれない。
ボーカルはサビが非常に高音で、ライブではキーを下げて演奏されることがあった。
作曲が共作になっているのは、確かhydeがサビの部分のみ作曲したからだったはず。
ラスサビに入る直前、「つなげ」の部分のtetsuyaのコーラスもかなり高音で聴き応えあり。
ベースは、この曲はキーがF♯と開放弦が使いにくいキーだが、チューニングはレギュラーのまま。
それでも手数の多いベースラインになっており、間奏ではブラッシングで効果音を出したり、高音弦でベースソロ的なフレーズを弾いたりとかなり目立つ仕上がり。

2.LOST HEAVEN
ken作曲によるミディアムテンポの一曲。
kenの開放弦を駆使したカッティングフレーズが冴え渡る。
こういう普通じゃない押さえ方のフレーズは果たしてどうやって考えているんだろうか。
ベースは細かいハンマリングで音を続くイントロのフレーズ、Aメロでカウンターメロディ的に弾かれる珍しくペンタでロック感の強いフレーズ、サビでの休符を効果的に使ったメリハリのあるフレーズなど、聴きどころが多い。
個人的にtetsuyaはペンタ一発!みたいなフレーズはあまり弾かないイメージがあるのだが、この曲とInner Coreはペンタの印象が強いベースラインになっていると思う。
この曲は鋼の錬金術師のタイアップになっていたはず。
L'Arc〜en〜Cielの中ではそこまでキャッチーとは言い難いこの曲をタイアップに選んだチョイス、なかなか渋いと思う。

3.叙情詩
ken作曲による壮大なバラード。
聴くととても優しい気持ちになれる一曲。
この歌詞に叙情詩というタイトルを付けたhydeの感性に脱帽である。
初めて聴いた時、イントロのドラムがどの拍から入っているかがわからず混乱したのを覚えている。
今でも油断していると、「あれ?」と拍を見失うのだが、他の人には自然に聴こえるのだろうか。
ギターは装飾的なフレーズが印象的で、お気に入りはサビのグリッサンドで駆け降りるフレーズ。
流れ星が流れる音のようで、とても美しい。
ベースは指弾きで演奏されているようで、PVではtetsuyaがバイオリンベースを弾いている姿が見られる。
このPVは曲の雰囲気にも合っており、映像としても美しい。
この曲のシングルCDのジャケットに描かれた絵がそのままプリントされたギターをkenが使っていたのも思い出深い。

4.TRUST
tetsuya作曲によるダークな一曲。
tetsuyaの楽曲は明るくポップなものが多いという世間からの評価に対する、アンチテーゼ的な意味合いで作られたという話もあった。
tetsuyaの曲に対する評価は筆者も同意だが、それでも他のメンバーの楽曲との差別化は図れているし、特にtetsuya作曲の楽曲ではkenのギターソロが「ポップなだけでは終わらせない!」というようなダークなもの(snow dropや本曲)、ルーズで気怠い雰囲気を感じさせるもの(DIVE TO BLUEやSTAY AWAYなど)が多いように感じられる。
そして、この曲といえばtetsuyaのダブルネックギター(ベース)が思い出深い。
後にラルカジノで演奏された時には普通のベースで演奏していて残念だったが…あのダブルネックはインパクト抜群であった。
ドラムでは、サビの直前に入る高速のフィルが印象的だ。

5.Killing Me
hyde作詞作曲によるアップテンポな一曲。
全体を通してパンキッシュな印象があるが、ギターがオクターブフレーズをメインで弾いているイントロやサビ前半と、アルペジオを弾いているBメロやサビ後半での出し引きが絶妙で、ただパンクなだけの曲では終わらない。
ギターソロは起承転結がはっきりと構築されたような流れで、特に最後のフルピッキングフレーズが勢いがあって格好良い。
ボーカルはこの時期を象徴するような低音を強調する歌い方になっており、この辺りはVAMPS初期と似た雰囲気を感じる。
ラスサビでのみコーラスが入ってくるアレンジも素敵だ。
このラスサビでは、これまでサビではルートを刻んでいたベースが付点で変化していくフレーズを弾いており、これもラスサビを印象的なものにするのに一役買っている。

6.AS ONE
hyde作詞作曲のとにかくヘビーな一曲。
この後に発売されるHYDEのソロアルバム『FAITH』に収録されていても違和感のない曲調になっており、歌詞も反戦というテーマが色濃く現れた内容になっている。
as oneという表現は、『FAITH』収録のMISSIONでも使われており、この表現自体がアルバムのコンセプトを体現するキーワードなのではないだろうか。
この曲の一番の聴きどころはyukihiroのドラムで、slipknotのような手数の多いフィルやツーバスでの刻みを曲を通して堪能することができる。
ベースは5弦ベースが使われており、低音弦でのヘビーなサウンドが印象的だ。
ギターは通常の6弦ギターだが、ルートの5度の音を下にする形のパワーコードで刻むことによって、7弦を使っているかのようなヘビーなリフに聴こえる。
この曲はAWAKEツアーでは一曲目に演奏された。
一曲目からこれだけ手数の多い曲を演奏しないといけないyukihiroは大変だったのではないだろうか。
アルバム曲の中ではリードトラック的な扱いだったのか、音楽番組に出演した時にこの曲を演奏することがあった。
アニメのタイアップのついたLOST HEAVENでなくこの曲を演奏したのは意外に感じたが、メンバーはそれだけこの曲の仕上がりに自身があったのかもしれない。

7.My Dear
hyde作詞作曲による一曲。
HYDEソロを想定して作られた一曲ということで、ROENTOGEN的な雰囲気もありつつ、歌詞のテーマ感としてはFAITHに収録されていてもおかしくないような内容になっている。
ボーカルはそれほど音の高低さはないものの、その中で感情を込めて歌う歌声が印象的だ。
この曲の音源にはギターが収録されていないようで、AWAKEツアーではkenがギターを持たずにコーラスを行うという、非常にレアな場面を見ることができた。
ベースは指で弾いていると思われるような優しいタッチで演奏されており、Eのコードのところで3弦7フレットのEから4弦開放のEに着地する十八番も聴くことができる。

8.EXISTENCE
hyde曲三連続に続くken作曲のこの曲。
イントロからギターのリードフレーズと怪しげなアルペジオの絡みが絶妙で、この2パートだけで世界観を演出できる辺り、kenらしい曲に仕上がっているなあと感じられる。
イントロから続いてきた怪しげな雰囲気が一変してメジャーベースのサビが現れる進行が斬新だ。
このサビの後のブリッジ部分ではtetsuyaのベースソロ的なフレーズの後にギターソロが入る。
途中で転調を挟みつつも音数多く弾きまくる、個人的にはアルバムの中でもお気に入りのギターソロのひとつだ。

9.自由への招待
暗めの曲が続いた後にキャッチーなtetsuya曲。
この曲はSMILEの直後に発売されたこともあり、AWAKEの中の一曲としてではなく、SMILEからの地続きにあるような一曲として認識してしまっている。
まさに王道のtetsuya曲といった装いだが、ギターソロ前には少しレゲエ風味も感じられるような休符を交えたアプローチをベースがしている箇所もあり、この辺りからは新鮮さを感じる。
イントロからギターのリードフレーズが聴けるあたり、FOREVERからはこの曲に近いものを感じた。
tetsuya作曲のキャッチーな曲の中ではライブでの演奏頻度が低いこの曲。
またどこかで聴きたいものだ。

10.Ophelia
ここで再びhyde作詞作曲の楽曲。
この曲もMy Dearと同じく、HYDEソロを想定して作られた楽曲だとか。
サックスから始まるとてもアダルトな印象の一曲で、前曲の自由への招待とのギャップが凄い。
ピアノ、管楽器、アコギはアダルトな雰囲気の楽曲の定番といったところだが、ここにゴリゴリに歪んだベースを重ねてくるtetsuyaの感性は独特で素晴らしいと思う。
ベースラインはスライドを多用したうねりのあるものとなっており、手数が多いわけではないが耳に残る。

11.星空
続いても作詞作曲hydeによる珠玉のバラード。
この手のコード進行の曲はhydeの十八番なのではないだろうか。
Spirit dreams inside、ALL YEAR〜、最近だとミライ等、このタイプの名曲は本当に枚挙にいとまがない。
一音チューニングを下げたギターによるアルペジオのフレーズから静かに始まり、徐々に音数が増えていくアレンジが美しい。
AWAKEツアーではラストで演奏され、hydeの感極まったような表情が印象的だった。
歌詞はアルバム『AWAKE』のコンセプトを体現したような内容になっており、聴き終えた後には争いの終わった世界を望む気持ちが否応無しに掻き立てられる。

12.twinkle,twinkle
アルバムラストを飾るのは、何とken作詞作曲によるこの曲。
この曲の歌詞はhydeが作詞と言われても納得してしまうほど、hydeに近い世界観で書かれていると思う。
他のkenが作詞をした楽曲、Lover Boy、Pretty girlとは全く違い、比喩的な表現が多用された奥深いものとなっている印象だ。
ken作曲の曲だがソロ以外のギターはシンプル。
ベースは珍しくスラップで演奏されており、Bメロではスラップらしい音が目立つが、それ以外はスタッカートで8分を刻んでいくフレーズがメイン。
tetsuya独特の、スラップをスラップらしい形で使わない解釈が面白い。

以上全曲を振り返った。
改めて見ても、『AWAKE』はhydeのパーソナルな部分が色濃く出たアルバムなのだということに気付かされる。

また改めて『FAITH』についても書きたいと思っているが、一旦今日はここまで。

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