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#47 髭について
年々、髭が濃くなっている気がする。
これを成長と捉えるべきか、老化と捉えるべきか。
その答えはおそらく後者だろう。
はじめて生えたのはいつだったか。
高校を卒業する前後だと思う。
高校一年生のクラスに松居くんという友達に出会った。
彼は高校一年生ながらにも立派に髭が生えていた。
濃くて堅い髭。
彼は見た目はいかついのだがひょうきんでそれでいて真面目だ。
崩壊していたクラスだったが時々舵を切るというリーダーシップを発揮していた。
そんな彼だが基本的にはとてもおちゃらけていて、人にちょっかいをかけることが多かった。
ちょっかいをかけてそのリアクションを見て楽しむというやつだ。
人が繰り出す行動は、その行動をした相手によって対応が変わる。
毒舌なんてのもその一つで、発言者に信頼があったり意地の悪さがなければ嫌な気を起こすどころか好感を持つ場合もある。
それと同じで行動にも、その人となりによって許される人と許されない人がいる。
松居くんはまさに許されるタイプで、少々ハメを外したところで受け入れてもらえるキャラをしていた。
そして僕はイジラれやすい性格のせいか松居くんの餌食になることがあった。
僕と同じように松居くんにイジラれやすいのは他に二人いた。
そして松居くんに何をされるかというと、腕を噛むとか頭を噛むとか、弁当を食っている時に箸でつまみにくるとか打撃的な攻撃が多かった。
こうやって文面に起こすとうまく伝わっているか不安だ。なんだかひどいイジメを受けているかのような文章になっていないだろうか。
僕はとても懐かしく思い、今ニヤニヤとしながら文章を綴っている。
だからと言って松居くんの打撃が痛くなかったわけじゃない。むしろ噛むときはむちゃくちゃ痛いのだ。容赦なく噛んでくるからリアクションを大きくとる。
それを見てケタケタと笑う。これが甘噛みだったら成立しない。
これがあまりにも日常茶飯事だから松居くんにおもちゃにされている僕ら三人にはある習性が身についた。
それは松居くんが近くにいて軽く腕をあげようものなら自然と防御態勢をとってしまうということだ。
悲しいかな、人間とは学習する生き物で危険を察知すると反射的に身を守ってしまう。僕の脳が「松居くんが腕をあげた」「守れ」と瞬時に判断を下しているのだ。
そんな松居くんの攻撃で『噛む』『箸でつまむ』の他に一番オーソドックスな攻撃がある。
それは『髭でジョリジョリする』だ。
たくましく生えた堅い髭で攻撃するのだ。
僕の腕を掴み自分の顎に押しやる。そしてそのまま顎をスライドさせるのだ。するとジョリジョリジョリと腕には擦り傷のような痛みが走る。
剛毛な髭が繰り出すこの技は割と痛い。
ひどいときは赤く残る。
そんな凶器と化した髭。この凶器が近年、僕にも備わった。
毎日剃らなければならないというデメリットが生じるものの、一つの武器を手に入れたと思えば安いものだ。
そう思えば髭が生えるということは成長なのかもしれない。
なので僕も時々、妻の腕を掴み顎を押しやってジョリジョリする。高校の時に松居くんにされたようにジョリるのだ。
ちなみに僕がエレキギターを買いはじめてバンドを組みたいと思うようになったのは松居くんの影響が大きい。
山ほどのCDを借りて多分な影響を受けた。
本日は友人の結婚式だ。
久しぶりに松居くんに会うことになると思う。
今度は僕がジョリってやろうか。しかし、友人の晴れ舞台だから身なりを整えて髭をそっていこうか。少し悩ましいところだ。
次回は「コラムについて」
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