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メキシコ生活記録⑯ ー水が買えてうれしいとか

夜中にも鳥が鳴く、魔界みたっぷりなこの街で暮らしはじめて9か月になる。
こちらの生活にもかなり慣れてきたが、とはいえ最近やっと解決した問題もある。それが「水問題」だ。今日はそのお話。私が水を買えるようになるまでの記録です。

水は買うもの
こちらの水道水は飲めない。最貧困層の人たちを除けば、現地の人たちも基本飲まない。水を買うものというのがこちらのスタイルだ。
しかも、水は飲料水として使うだけではない。食材やパスタなどを茹でるときや、野菜を付け置き消毒するときなどにも水道水は使わない。つまり、買った水で調理もするので、めちゃくちゃ使う。だから、日本のように2Lやそこらのペットボトルを何本か買うスタイルではない。買うのは20Lボトルを何本かだ。

持ち手が内蔵されているボトルがデフォルト

うちではこの20Lボトルに手動の専用ポンプを付けて使っている。自動のポンプもあるのだが、出てくるスピードが遅いためうちでは使われていない。
水の種類も数種類あって、みんなお好みのメーカーがあるっぽい。うちでは、夫が1番おいしく感じたという「オレンジのやつ(ボナフォン)」を買っている。他にも、「水色のやつ」「ラベルがカラフルなやつ」「eから始まるやつ」などと私が呼んでいるメーカーがあるが、メキシコ在住日本人の方のブログに「ボナフォンで炊くごはんが1番おいしい」という記載があったこともあり、うちは「オレンジのやつ」派。他のメーカーの水でごはんを炊いたことがないから真相は分からないけど、飲料水としてのお味はそんなに変わらないと思う。みんなふつうにおいしい。

驚くことに、この20Lのデカボトル、ふつうにスーパーでもコンビニでもどこでも売っている。(ただ、ボナフォンを扱っていない店舗もあるから要注意!)
空のボトルを持って行けば、水入りのが1本40ペソ(280円)前後で買える(店によって多少違う)。20Lで300円て、めちゃくちゃ安い。だから、入手すること自体はそんなに難しくない。
水問題を困難にしているのは、このボトルの重さなのだ。当たり前だけど、1本20Lということは、1本20㎏あるんだよね。
店舗でこのボトルを買うとすると、まず駐車場まで運んで車に積み込む作業がある。その後、マンションの4階まで運んで、部屋の中の所定の場所まで運ばなくてはならない。いや、できるよ?頑張ればできる。でも、このボトル、1週間で3本くらいは使うんだよね。毎週3回、20㎏を運ぶのってけっこう大変だし、めんどくさい。ま、そのほぼ全部を夫がやってくれてたわけだけど、できることならこの重労働から解放してあげたいし、会社帰りの夫に20㎏の買い物を頼む忍びなさから私も解放されたかった。
こういう思いは、現地の人も同じなようで、街には謎の水売りテントみたいな所もある。車のまま入っていって買うっぽいけど、スペイン語が赤ちゃんレベルの私たちにはハードルが高すぎて行けなかった。となれば、もうあれに挑戦するしかない。

うちに来る水屋
うちの居住区には様々な水屋メーカーのトラックが時々やって来る。また、玄関先に空のボトルを何本か出している家も見たことがある。

こんな感じでボトルを並べておく


これらのことから察するに、きっと水屋が定期的に売りに来ているのだ。ただ、いったい何曜日の何時に来るのかがさっぱり分からない。コープの宅配みたいな契約が必要なのかどうかも分からない。日本にいれば電話でも聞けるし、近所の人に聞くことだってできる。でも、ここではそれもなかなかハードルが高い。しかも、うちの棟にはボナフォン派がいないらしく、見かけるのは水色のやつばかり。私が知りたいのはボナフォン情報だけなのだ。
そう思ってボナフォントラックをチェックしていたが、どうもそのルーティンがつかめない。詰んだ…ということで、夫に水仕事を頼む日々が数か月続いていた。

救世主は突然現れた。こちらに住む日本人の方がうちに遊びに来てくれていたときに、何となく水の話をしたら「ゲートのおじさんに聞いてあげますよ」と、いとも簡単にボナフォン情報を聞き出してくれたのだ。やっぱり語学は身を救うな、と横で見ていて実感した。スペイン語、もっと頑張ろう。
お友達のおかげで「ボナフォンは毎週金曜の昼に来る」という情報を私はゲットした。だいたい10時から14時の間くらい。来週の金曜日にお宅へ行くように、ボナフォンの人たちに伝えるよ、とゲートのおじさんは言ってくれたらしい。やった!これで水問題は解決だ!と私たちは喜んだ。
しかし、それから2週間(金曜日2回)、水屋は来なかった。

予定は未定、未定は予定
ここは日本じゃない。毎週来るって言って毎週来ないのがここの「ふつう」だ。そんなことでいちいち目くじらを立てる人もいない。ここの人たちは、来たら「来たね」、来なかったら「来なかったね」っていう事実とともにシンプルに生きているらしい。「なんで来ないの?」などと思うのは無粋というもの。そういう生き方は、私だって嫌いじゃない。分刻みのスケジュールで謝りながら過ごすよりずっといい。でも、2週間来ないって何?しかも、来る時間が10時から14時って広すぎるだろ。
そんな感じで、私の中で水屋が「来てくれたらラッキー」くらいの存在になった3回目の金曜日、彼らは突然やって来た。しかも、水ボトルを3本も持って。
正直、もう水屋に頼るのはギャンブルすぎるということになり、夫は通常通りの水仕事を再開していた。だから、彼らがやって来たとき、我が家には空きボトルが1本しかなかったのだ。もちろんボトル代込みで水を買うこともできるが、正直あのデカイ空きボトルを余分に家に置くのが嫌だ。
突然の来訪と突然のスペイン語チャンスに私はプチパニックになり、とりあえず水を1本だけ買った。代金を聞いたが、スペイン語の数字が聞き取れず、たぶんこれで足りるだろうと50ペソを渡した。すると、今お釣りないからトラックに取りに行くね、というようなことをジェスチャー混じりに伝えられたので待っていたのだが、彼らがお釣りを持って戻って来ることはなかった。
残ったのは、ちょっとぼったくられた水が1本。
まぁまぁ凹んだよね。

再チャレンジ
前回の水屋チャンスのとき、来週も来て!と伝えたつもりだったのだが、次の週に彼らが来ることはなかった。この家はもういいということにされたのか、そもそも来ていなかったのかは分からない。私はまた1週間待つことにした。
そして、決戦の金曜日、私は自宅の窓から彼らを見つけた。

網戸越しの撮影なので見にくいかもしれないけど、これが水屋のトラック

ボナフォンマンたちの動向を見守っていると、やはりうちの棟に入ってくる気配はなく、隣の棟へ配達しているようだった。それを見て、私は覚悟を決める。よし!行こう!降りて行って直接言おう!
私は財布を握りしめてエレベーターを降りた。心臓がバクバクしている。ボナフォンマンたちに私の2歳児レベルのスペイン語が伝わるだろうか。でも、やっぱり水を届けてもらいたい。私は頑張って話しかけた。
そしたら、何とか伝わり、ボトル2本を持って一緒に部屋まで来てくれた!代金もちゃんと聞けた!1本43ペソ!っていうか、「ク、クワ?」とか私が言ってたら、英語が少しできるボナフォンマンの方が英語で代金を言い直してくれたんだけどね(笑)
そこで、来週もお願いしますって今度こそちゃんと伝えられた!
もうほんと、自力で水がちゃんと買えたことがうれしすぎて、この日、家で「水が買えたーーっ!ひゃっほーい!」ってマジに小躍りしたからね。
「水が買える」ってことがこんなにもうれしいことだったなんて知らなかった。
今考えれば、彼らに水の件以外で話しかける人の方が少ないのだから、たどたどしいスペイン語でも買えるだろうと思うのだが、私にとっては片思いの相手に告白しく行くくらいの覚悟の決め方だった。

そして、今に至る
その後、時々来ない金曜日もあるけれど、うちが「水買う家」として認識してもらえたらしく、配達に来た日は必ず寄ってもらえるようになった。これでQOLは爆上がりだ。私のレベルもアップした。
ただ、週によってはタイミングが合わず、金曜日になってもボトルが空いていない時もあり、そういう時は家中のペットボトルを総動員して2本空けるのだが、そんなときに限って水屋が来なかったりもする。つまり、やっぱりコンスタントに毎週来るわけではないみたい。また、だいたいいつも13時前に来るんだけど、この前は10時半くらいに来てびっくりした。時間もあいまい。
20㎏ボトルを両手に持って1人で2本(40㎏!)運んだりする屈強でツンデレなボナフォンマンたちに振り回されながら、今週も水が買えたらラッキーだと思って過ごしている。
自宅にいてもレベルアップチャンスはやってくる。そんな生活を送っているんだな。
ってか、私がぼったくられたのは7ペソだったのか…しみじみ。

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