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現実の輪郭

以下、「巷説百物語」京極夏彦 角川文庫 解説:大塚英志(P.516)より紹介。

「柳田(國男)が記述しようとしたのは『遠野物語』で語られた神秘的な出来事が『事実』である、という主張ではなく、そのような物語が現に人々によって語られているという『事実』なのである。

 明治四〇年前後、怪談の時代はそのようにして『事実』あるいは『現実』の領域が確定していく時代であった。僕の民俗学上の師の一人である宮田登は、いわゆる『世間話』の中には近代化の軋轢の中で生じたものが多数ある、と指摘している。旧『現実』であった民俗的社会が急速な西欧化と国民国家という新しい『現実』に組み換えられる時、その二つの『現実』の乖離を埋めるべく『世間話』というテキストが語られるのだ、という。

 ぼくは『昔』は確かな『現実』があり、ネットやコンピュータゲームの普及でその『現実』が仮想化して、揺らいだ、などとは全く思わない。

『現実』というものは常に揺らぎ、そして『更新』されていく質のものだ。

『怪談』にせよ、今日では都市伝説の名の方が通りがよくなってしまったにせよ、それらのテキストが常に虚実の境界線上に成立するのは、それが『現実』の輪郭を描き出すために機能するからだ。」



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