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神保町とテクノ音楽

二度寝のあとのアラームをとめて、布団のなかでまどろみながらTwitterをぼんやりながめる。寒い、遅延、の文字を見て、すこしだけ早くでようと思うけれど、お腹がすいて冷凍のご飯をあたためたりなどしていたら結局、いつもの時間になってしまった。意志が弱い。特に、空腹と眠気には抗えない。
あたたかい格好をして、昨日から出動した耳当てを今日もつけたけれど、言うほど寒くはなかった。冬はどこにいってしまったんだろう。寒いねえ、寒いねえ、と言いあって寄り添える冬。

傷の具合はだいぶ良いようで、むきだしの赤い部分になんとなく皮膚のようなものが形成されつつある。ただ、なおりかけのせいか、テープでかぶれたのか、傷ぐちのまわりがひどく痛痒い。テープを使うのをやめて、抗ヒスタミン剤を倍量飲む。そのせいで、朝も昼も夜も眠たい。

昨晩は、水道橋で食事をした。男が気に入って何度も来ているというビストロで、わたしは来るのは2回目だ。
料理もワインもとても美味しくて、魚のマリネのうえに生のマッシュルームと緑の葉をのせた前菜や、なんとなく南アジアの豆カレーを思い出すようなあたたかくめずらしい味の鴨ロースト、ロマネスコのソースの里芋ニョッキは、くちにいれた途端いろんな味が広がってあわさって、クリスマスにスタンドバイミーを見る家族ってこんなかんじなんだろうな、とよくわからないことを考えた(し、言った)

以前来たときはカウンター席だったので気がつかなかったけれど、窓際に猫の本や猫のお酒の瓶などが並べられていた。猫がすきな友人たちにその写真をシェアする。この店は、圧倒的猫派。

前菜2品とメインの肉料理、パスタとニョッキをごちそうになった。まだ余裕のあるお腹と話し足りなさで、これもまた男がよく通ったという喫茶店まで歩く。

わたしは、好きな男のわたしの知らない時代のことを知ること、というよりも、知った情報を、いろんな感情を退けて情報として処理するのが苦手だ。嫌だとか聞きたくないのではなくて、知りたいけど、その情報を処理するのに時間と体力を要する。
喫茶店では、いろんなものが珍しくて終始きょろきょろしていた。耳と目と鼻がいそがしい。堪能するためにも、いつかひとりでゆっくり訪れたい。喫茶店はすきだ。
ただ、煙草をやめたので、周りの煙草のけむりが気になる。目の前で吸われるのはふしぎと気にならないけれど。
サウナに行けない状態になってから、妙にまた煙草を吸いたい気持ちになることが増えてしまった。せっかく2ヶ月ちかくやめているので、冷たい水とウィンナーコーヒーを交互に口にふくんで耐える。この店はウィンナーコーヒーの発祥の店らしかった。

男は神保町への愛を語った。わたしは阿佐ヶ谷を愛しているので、なんとなく「目の前で昔の女の自慢話をされる女」みたいな気持ちになる。でもそれも嫌いじゃない。
比べるものでもないので、張り合うことはしない。ふんふん、とキョロキョロしながら話を聞く。落ち着かない女だと思われたかな。

以前、suumoの「住んでみたい街」について書くコンテストに応募しようと思っていたけれど、わたしは阿佐ヶ谷以外に住みたい街がなく、しかも阿佐ヶ谷は上京以来ずっと住んでいる街だから、コンテストの趣旨に合わないと人に言われてあきらめた。
きっと男なら神保町と答えるだろう。住みたい街があることが羨ましくて、少しだけくやしかった。(でも、昔住みたくていろいろ調べたけど、住む街じゃないなと思ってやめた、と言っていた)
わたしは阿佐ヶ谷を愛しているけど、阿佐ヶ谷以外の街を知らない。あこがれは向上心だ。わたしには向上心がない。

管理釣り場のニジマスを思い出す。
餌をもらいながら、釣り上げられてしぬまでの短い人生を生きる。
暗くて安心できる場所を探し、尾ひれをゆるく動かしながらそこにとどまって、ときおり虹いろにきらきらと光って揺れる。
岩で区切るように堰き止められた3mくらいのせまい川は、きっと海原のようにひろい。

知らないことが多すぎて嫌になるので、食わず嫌いをやめた。
この頃は、今まで遠ざけていたヒップホップとテクノ音楽を聴いている。耳が気持ちいいし、仕事が捗る。
10月の、ケミカルブラザーズのライブのチケットを取った(正確には、取ってもらってお金を払った)。
大海を知りたい。