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短編小説 キャンプに行こう

 伊勢野勝男は今年、香織との結婚3年目を迎えて息子も3歳、コロナも終息してきた事もあり、家族で何かイベントをやろうと考えた。

 小学校からの友人の中島とも相談したところ、お互いの家族同士でキャンプに行くのはどうであろうかとの話になり、勝男はそれはいい事だ、それをやろうという話になった。

 勝男も中島もキャンプは初心者である。ひとまずどのようなキャンプ用品があるのかshow peakという店に行ってみた。

 「思ったよりもキャンプ用品は高いもんだね。中島。」

 「そうだなあ、テントから何から一式揃えると大変な額になるぞ、伊勢野。」

「まあ予定日まで日にちはあるからそれまでに各々揃えればいいか。中島。別にレンタルでもよし、百円ショップで細かい物は揃えるもありだ。」

「まあそうだな。キャンプ場はぼくが予約しておくよ。とてもロケーションが良いキャンプ場をネットで見つけたんだ。楽しみにしていてよ。」

 勝男は美しい景色のキャンプ場で焚き火を囲みながら、ワイワイ騒いでいる自分たちを想像してワクワクした。


 キャンプ当日、キャンプ場で待ち合わせをした伊勢野一家は待ち合わせた時間に少し遅刻した。

 「遅いぞ伊勢野。」

 「ごめんごめん。道路が混んでいて・・・」そのとき中島のテントが目に入った。

 「なんだ・・・あれは・・・」巨大なテントであった。まるで総二階住宅ではないか。これはなんでもやりすぎではないのか。勝男はディズニーランドのシンデレラ城を思わず想像してしまった。

 勝男もとりあえずテントを張った。 勝男のテントはポップアップテントであったので、ポンと投げてピョンと立ち上がった。

 「それは便利だねえ。ぼくのテントは、張るのに1時間かかったよ。」

それは大変だったねえ。勝男は中島を見ずにそう答えた。勝男のテントは、箱には人とテントの絵が描いてあり、人の絵に対してテントが大きく描いてあったので3人は余裕で寝られるだろうと思っていたが、いざ建ててみたら3人で寝るには明らかに小さい。

「 (果たしてこれで3人寝られるだろうか・・・)」勝男は香織をチラッと見た。香織は不安そうな顔をしていたが、勝男の視線を感じ、笑顔で返した。

中島はテントの周りに陣幕を貼り始めた。「ここにキッチンを作ろう。」巨体なシンクの登場だ。

勝男は唖然とした。これがキャンプというものか。落ち着いて周りを見渡すと周りのキャンパー達も、ものすごいテントを建てている。まるで品評会である。

勝男は、香織と子供達が、中島夫妻のまるで高級住宅のキッチンを手伝っているような姿を呆然と見ていた。

「伊勢野、ぼくたちはとりあえずビールでも飲んでA5ランクの肉が焼けるのを待とうよ。」
中島はビールと椅子を持ってきた。中島の椅子は折り畳みではあるが、まるでソファーのようだ。勝男は椅子を持ってきていない。花見に使ったブルーシートだ。
中島はドッカと椅子にすわってビールを飲み始めた。勝男は立ったまま飲んだ。

 突然雨が降り出した。勝男は自分のテントを見て驚いた。勝男のテントが雨漏りしているではないか。テントのターフは別売りだったのだ。
 キッチンの肉も水浸しで台無しだ。キャンプ場の皆が慌てている。

「ぼくの車に一旦避難するかい?」中島はキャンプカー仕様のハイエースを指差した。勝男はそうだな。と、中島に答え、キャンプはやはりこうでないといけないなと訳もなく頷いた。

 

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