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真夏に採りたての白菜を食べる②

 桜子の実家は大きな長屋門のある茅葺き屋根の平屋だった。

なぜ家の前にこんな門があるのだろう。太郎は不思議だなという表情をした。

「昔は門の両側が部屋になってて、人が住んでたの。たぶん防犯用とか稲作をする小作人の為とかの意味があったのかも。」桜子は言った。

「なるほど、長屋門の長屋は、そっちの長屋のことか。」

今でいう借家の事だろうと太郎は納得した。


「ひまわりー!挨拶しなさい!太郎ちゃんが来たよ!」

桜子には妹がいた。桜子は家の玄関に入り妹を呼んだ。

玄関は、いわゆる土間と呼ばれる空間になっていて、これでマンションのワンルームの部屋の広さ位あるのではないかと太郎は感じた。

 「はーい。」

家の真ん中に仏間があり、早くして亡くなった母親の遺影がご先祖の遺影と共に壁の上の長押と呼ばれる部分に飾ってある。

その仏間の向かって右手の方の薄暗い涼しげな部屋から声が聞こえた。

ひまわりは今年16歳になる。隣町の烏山城女子高校に通う女子高生だ。 姉の桜子は今年大学を卒業したので歳は6歳違った。

ひまわりが今はもう廃校になった小学校に通っていた時代、同級生の男の子に、ひまわりは姉と歳が離れている恥かきっ子だといじめられた。

ひまわりには意味がわからなかったが、バカにされているのだろうという事はわかったので、その男の子を散々いじめ返した。たぶんその男の子も誰かから聞いた話で、意味はよくわからなかったのだろうが…

そんな事もあって、ひまわりはこんな田舎を早く出て、東京に住みたいと思っていた。

 烏山城女子高は県内でもトップクラスの偏差値の高い高校である。ひまわりの住む田舎町では映画館がなかったので、たまの休みの日に烏山線という単線一両編成の電車に乗って宇都宮駅に行く。

 いつかはこのままこの一両編成の電車で出発して東京まで行き、もう二度とここの田舎町には帰らないと決めている。 

ひまわりからしてみれば、太郎は神奈川県の田舎町生まれとはいえ、北関東の田舎町より東京に近いという事で、太郎に好意を持った様だった。

「こんにちは太郎ちゃん。」

「ひまわり!太郎ちゃんは歳上だからね!」桜子はひまわりをたしなめた。

 太郎は16歳の可愛い女の子に太郎ちゃんと呼ばれて、満更でもないようでニヤついている。


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