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今を生きない -眠リちゃん- <前編>

10/14(日)、ミスiDファイナリスト・眠リちゃんの単独イベント「眠リと眠る会」に行った。場所は西武池袋線・椎名町駅。
イベント告知には「眠リがお話しをして子守唄を歌います。皆さんお疲れだと思うので寝てください。おやすみなさい」とあった。得体の知れなさに惹かれ、DMで参加を申し込んだ。
彼女のツイッターのアカウント名は「眠りたい」。彼女自身は不眠症を抱えているらしいことが、ツイートから伺えた。

「改札前にお越しください!」
17:30頃、ツイッターのDMに従って改札前に行くと、眠リちゃんの小柄な姿があった。先についていた数人の男性と喋っていた彼女は、こちらに気付くと「こんにちはー」と声を掛けてくれた。
小さい顔。ぱちっとした目。耳の下あたりでツインテにされたストレートの黒髪が、しゅっと垂直に伸びている。つやつやした素材のハーフパンツパジャマの上に、白いもこもこしたアウターを羽織るというスタイル。足元は靴下とストラップシューズで、女の子が諸事情により部屋着のまま街に出たような、無防備な可愛さがあった。

しかし、可愛いなーという気持ちと同時に、未知のものに出会った時の驚きもあった。何というか、私が今立っている西武池袋線のローカル駅改札前に、別の空間から切り取られた彼女の像が貼り付けられているような錯覚に襲われた。マックやセブンイレブンや居酒屋なんかが連なる街中の光景より、Perfumeのミュージックビデオの中の洗練された空間の中に彼女の姿を配置した方がしっくりくるような。どこかフィクションめいた、浮世離れした感じ。一抹の違和感を含んだ可愛さ。服装のせいなのか、彼女自身がそういう空気を発しているのかは分からないが。

参加者10人強がほぼ集まったところで、私たちは会場に移動した。
会場は、駅前商店街にある居酒屋の脇の細い階段の先にあるという。何故か階段の電気が点かず、私たちは暗い階段を上って2階へ辿り着いた。
眠リちゃんが部屋の鍵を開けると、リビングルームと和室のある住居のような空間が現れた。AirBNBのようなサービスで見つけた貸しスペースだという。みんなで靴を脱いでフローリングに上がり、リビングのテーブルを囲んで座る。カフェとかギャラリーとかを貸し切ってやるのかと思っていたが、予想に反してかなりのくつろぎ空間…!

宇宙人と新人類に思いを馳せる

眠リちゃんが、買ってきたお菓子と飲み物をテーブルに出し、イベント(むしろ団欒)が始まった。ハガキ大の白い紙が配られ、表には「女の子が宇宙人に会った」をテーマにした絵、裏には①名前/ハンドルネーム ②今日のイベントでやりたいこと ③眠リちゃん手作り枕(限定3個)の入札金額 ④最終面接で何をやったらいいと思うか を記入するようにというミッションが発表された。当初はみんなで眠るという計画だったが、やはり交流しないのはもったいないという主催者の意識の変化があったのかもしれない。
私たちが紙にペンを走らせている間、眠リちゃんは室内のホワイトボードに落書きをしていた。

「じゃあ、紙を回収します」
眠リちゃんは提出された紙をランダムに並べ、絵を繋げて一つの物語にするべくストーリーを考え出した。
「女の子はUFOを見つけました」から始まり、ほのぼのした異種交流譚になるのかと思ったら、「宇宙人によって、女の子の意識はウサギの中に移植されてしまいました」「地球を捨てました」という厳しめの展開になってゆき面白かった。眠リちゃん、地球は嫌いかい…?

物語タイムが終了すると、眠リちゃんは先ほどホワイトボードに描いていた絵を見せ、ふんわりした口調で「新しい人類について話します」と宣言した。落書きじゃなかったのか。

「人類は、可愛く進化してゆくべきだと思うんですよ。原始人より、今の私たちの方が可愛いし」
「首は要らないと思う。神経が通ってる部分がこんなに露出してるのは危ない」
「脊椎動物じゃない方がいい。球体で、心臓は真ん中にした方が安心」
上記の図は、そういった眠リちゃんの考えを反映したものだった。

進化した人類にはどんな特性があるのが望ましいか、私たちは話し合った。「飛びたい」「光りたい」「胞子を出してキラキラしたい」などの希望が図に書き加えられ、非常に魅力的な生き物が完成した。脳の中の、会社で働いている時には絶対に使わない部分が鍛えられたように思う。自分以外の生き物になったことを想像している間、脳は現実から解放されて良い感じに緩んでいた。

キャンパスライフ、枕のゆくえ

新人類のイメージも固まったところで、会はゆるいトークタイムに突入した。セミファイナリスト選出から今日までの歩みや、最終面接の計画などについて参加者が聞き、眠リちゃんが答える。
夏休みに行った考古学の合宿や映画サークルのロケ、英語・フランス語・アッカド語(くさび型文字:今はもう使われていない)の授業、被写体活動、カリスマサイドのスタッフをやっていたこと…。彼女の生活はとても充実しているように思えた。好きなものが沢山あって、それぞれにコミットできている…不眠になるようなストレスは、こういった活動で得られるであろう充実感よりも強いのだろうか。
また、今後はもう少しアイドル要素の強い活動をしていくのかな? と予感させる話もあった。楽しみ。

枕は、入札金額が最も高かった2人(同額)と、眠リちゃんがどうしても枕を渡したいと感じた女子高生ファンの手に渡ることとなった。おめでとう。
なお、その最年少のファンの子は、自分で描いた眠リちゃんのイラスト(上手い)をプレゼントとして持ってきていた。また、美大生だというファンの人は「眠リちゃんの絵を描いたんだけど、額装が間に合わなかったので次に会った時に渡します」と言っていた。他県から夜行バスで来た人などもおり、愛されっぷりが凄かった。

撤収時間が迫る中でのチェキ撮影・会計・片付けタイムでは、参加者が椅子の片付けやコップ洗いなどをそれぞれ分担し、一体感が芽生えた。会計を担当した人とチェキ撮影を迅速に進めていた人のベテランオタクオーラが素晴らしく、印象的だった。

私たちは商店街で解散し、駅へと歩き出した。
女の子と宇宙人の邂逅や新人類のことを真剣に考えたせいで、2018年の椎名町の商店街という状況に頭をすぐ切り替えられず、足取りはどこかふわふわしていた。温かくて不思議な交流の後の、心地良い余韻があった。
改札前で、彼女は「ありがとうございましたー」と小さめの声で言い、笑顔で見送ってくれた。

西武池袋線のローカル駅、商店街の中にある不思議な住居スペース。空想の世界、人間が進化した未来、眠リちゃんの内面世界…。沢山の異界に足を踏み入れた、不思議な日だった。
こうして書いてみるとあまりにも脈絡がないので、あの住居スペースにもう一度行って、この経験が夢ではなかったことを確かめたくなる。でも、一人で椎名町に行っても、二度とあの部屋に辿り着けないような気がするのだ。


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