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いろはにほへと・ちりぬこる?事件記録符号が愛くるしい件【ニッチすぎる法律解説】

7月14日の記事を書くに当たって、久しぶりに最高裁の事件記録符号規程を見たのですが、この符号たち、意外に愛くるしいところがあります。

符号に使われる文字と並び

まず、符号がどういう並びになっているかというと、基本的にはイロハ順です。民事の場合はカタカナ、刑事の場合はひらがな、家事は「家」の後にカタカナとなっています。

行政事件だけはなぜかアイウエオ順で、「行ア」から始まり「行ニ」まであります。「六法に入れてもらえぬ行政法」という有名な川柳がありますが、最高裁も、行政事件を特別視しています(?)。

「イ」から「ス」まできれいに揃っているかというと必ずしもそうではなく、法制度の変更によって抜け番になっているものがあります。また、現在、「ゐ」(ヰ)や「ゑ」(ヱ)は使われていません(「ヲ」はあるので、声に出したときの混同が理由ではなさそうです)。

沿革からなのか、順番が前後しているものもあります。
簡裁刑事事件の符号の並びは、

いろはにほへとちりぬこる

ぬこるちゃん出現。なんかかわいいです。簡裁刑事のマスコットキャラクターに推薦します。

また、カタカナ、ひらがなを使い切ってしまったので、新しく導入された手続は、漢字を使うようになっています。労働審判事件(2006~)の「」とか、刑事損害賠償命令事件(2008~)の「」とかです。

最新のものは、日本版クラスアクション制度ともいわれる「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」12条以下の「簡易確定手続」に関する「」です(2016~)。

上訴申立事件に付く符号の法則とは

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日本の裁判制度は、原則として三審制をとっています。

一審の裁判所がした判断に対しては二審で争うことができ、二審の裁判所がした判断に対してはさらに三審で争うことができます。このように、ステージを変えて元とは違う判断を求めることを、「上訴」といいます。

よく聞く控訴上告はこの上訴の一種で、ほかに、抗告特別抗告といったものがあります。

この上訴申立事件(元の裁判所で上訴を受け付けてから、上級の裁判所に送るまでの間の暫定的な「事件」)に関しては、記録符号の付け方に法則性があります。

それは、「元の事件符号と、上訴した先の事件符号をドッキングさせる」というものです。

たとえば、地裁の通常訴訟事件の判決に対して、高裁に控訴する、というよくあるケースだと、元の符号「ワ」と、控訴した先の符号「ネ」をあわせて、「ワネ」という符号(控訴提起事件)になります。高裁で受理されると、晴れて「ネ」に進化します。ワ→ワネ→ネ。

私、これが結構好きです。なんか、幼虫が成虫になる前のさなぎみたいでチャーミングに見えます。

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控訴事件は「ネ」、上告事件は「オ」なので、その中間の上告提起事件は「ネオ」。
令和2年(ネオ)第xxxx号とか、ちょっとかっこいい。新しい判断を求めるんだ!という気概を感じます。

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上訴の一種で、飛躍上告という制度があります。これは、地裁の判断に不服があるときに、高裁を飛び越えて最高裁に行く、というものなのですが、その符号は「ワオ」。

もうこれなんか、躍動感満載ですよね。
飛躍上告ワオ!ハイテンションの申立人の姿が目に浮かぶようです。

ほかにも、「ソラ」「ラク」「ハツ」「レツ」「ハレ」など、ついつい意味を込めたくなるような符号があります。

ただし、この法則性がみられるのは民事事件だけで、他の類型では、一連の符号の並びに組み込まれてしまっています。たとえば行政事件では、地裁判決に対する控訴提起事件は「行ツ」。ちょっと愛せない、冷たい感じがしませんか。

「家系」事件記録符号

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(※画像は本文と関係ありません。事務所近くのラーメン屋です)

家事事件については、家庭事件記録符号規程が定めています。

先ほど紹介したように、「家」+カタカナが基本ルールなのですが、家事審判事件は「」だけ。能書きはいい、みたいな強気な感じがします。

遺産分割事件とか離婚事件とかでよく使う家事調停事件は「家イ」。

書面に事件番号を書こうとして「イエイ」と変換されて変なテンションになってしまう。「遺影」と変換してどんよりしてしまう。大塚愛の「さくらんぼ」の「イェイ♪」で離婚事件を思い出してしまう。といった現場弁護士の悲鳴が聞かれるとか聞かれないとか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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