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新人弁護士必見?民事期日出頭の実務 第3回「主張」

前回の続き。

前回確認したとおり、民事訴訟の期日の内容は、
□主張に関する事項
□証拠に関する事項
□進行に関する事項
に大別されます。

今回は主張に関する事項を取り上げます。前回のやりとりでいうと、

裁判官「原告は訴状を陳述しますね?」
原告代理人「はい、陳述します」
裁判官「被告の答弁書の陳述を擬制します。」

この部分ですね。

■弁論事項

主張に関する事項を特に「弁論事項」(※)ということがあります。

※刑事訴訟の第一審で「弁論」といえば、証拠調べ終了後の検察官、弁護人及び被告人の事実及び法律の適用についての意見陳述(刑事訴訟法293条)、特に弁護人のそれを指すことが多いですが、民事では用語法が異なります。

裁判官「弁論事項の確認ですが、被告代理人は令和4年1月25日付け準備書面(2)を陳述しますね」
といった用法です。弁論≒主張と考えておけば事足りるでしょう(※)。

※主張と証拠を区分し、主張に関する事項を弁論事項と呼びならわすのは、弁論主義の第一テーゼ(訴訟資料と証拠資料の峻別、主張責任)を踏まえたものといえます。

■準備書面

口頭弁論は書面で準備しなければならない(民事訴訟法161条1項)と定められています。口頭弁論の準備として、主張しようとする内容を記載した書面を準備書面といいます(※)。

※「準備書面」という言葉の由来は民事訴訟法161条1項ですので、口頭弁論が開かれない非訟手続等では、この言葉を使うべきでなく「主張書面」などとすべきといわれることがあります。個人的には非訟手続等を書面で準備したっていいはずなので、「準備書面」としても何の問題もないと思います。

■準備書面の陳述

さて、民事訴訟では原則として口頭主義がとられています。

口頭主義とは、要するに、口頭で行われたやりとりのみが判決の基礎となる、ということです。口頭のやりとりならば、直接主義と相まって、印象に残りやすいため、正しい判断をするのに役立ち、また、効率面でも、裁判官や相手方からその場で趣旨のわかりにくい点を質すことができ、無駄を省けます。公開主義と相まって、手続の透明さを担保することもできます。

他方、口頭主義を貫徹しようとすると、正確さを欠いたり、詳細なやりとりをするには時間がかかりすぎるという弊害が生じます。

そこで、現行法及びその運用としては、事前に準備書面を作成して口頭主義の弊害を取り除くとともに、期日の弁論では、口頭で準備書面を引用して述べることで口頭主義の体裁を保っています。

それが、

裁判官「原告は訴状を陳述しますね?」
原告代理人「はい、陳述します」

というものです(※)。

※例では、準備書面ではなく「訴状」を陳述しています。民事訴訟規則53条3項は「攻撃又は防御の方法を記載した訴状は、準備書面を兼ねるものとする」と定めていますので、準備書面を兼ねたものとして訴状(の主張部分)を陳述していることになります。

なお、上記の理解からすると、用語としては「準備書面のとおり陳述する」(より正確には、「準備書面記載のとおり主張する」or「準備書面記載の事項を陳述する」)というのが正しいと思われ、現に、そのように尋ねる裁判官もいます。ただ、「準備書面を陳述する」というのが実務用語としては多数派かと思われますので、慣れましょう。

■口頭での訂正・追加

準備書面はあくまで事前準備のためのものですから、期日当日においてこれと異なることを口頭で主張した場合、口頭主義により、期日でのものが優先されます。提出した準備書面のとおりに主張すべき「義務」が生じるわけではありません。

したがって、誤記に修正を加える、ある部分だけは口頭では述べない(したがって、訴訟資料としない)ということが可能です。

このような場合、

原告代理人「3ページ目5行目に「令和4年1月27日」とあるのは、「令和3年1月27日」の誤記でしたので、その旨訂正の上陳述します」
被告代理人「6ページ目11行目からの「第五 消滅時効」については、期日間に時効の更新事由があることが判明しましたので陳述せず、その余を陳述します

といった言い方になります。

訂正に当たっては、「相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面・・に記載した事実でなければ、主張することができない」という民事訴訟法161条3項の規定に注意が必要です。相手方が在廷していない期日での選択肢は、準備書面のとおりそのまま陳述するか、(部分的であれ)陳述しないか、となります。

口頭で主張を追加することも理論上は可能です。もっとも、口頭で詳細な補充、追加をすることは、口頭主義の弊害が出やすいですし、調書作成の煩雑さ等から裁判所に嫌がられますので気をつけましょう。

■受領書

ところで、上記民訴161条3項は、準備書面について「相手方に送達されたもの又は相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出されたものに限る」という限定をつけています。相手方に届き、その内容が了知されているものだからこそ、相手方が不在の法廷でも陳述できるわけですね。

このうち、実務上重要なのは「相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面」です。受領書と呼ばれます。

受領書の提出義務については民事訴訟規則83条2項に定めがあり、「準備書面の直送を受けた相手方は、当該準備書面を受領した旨を記載した書面について直送をするとともに、当該書面を裁判所に提出しなければならない」とされています。

もっとも、うっかりで提出されていないこともありますし、何らかの意図があって提出しない人もいます。受領書提出の有無は、相手方欠席時にその準備書面を陳述できるか、にかかわります。陳述予定の準備書面につき受領書が提出されているかどうかは、遅くとも期日の前日までに確認しておきましょう。

■擬制陳述

最後に擬制陳述について説明します。

裁判官「被告の答弁書の陳述を擬制します。」

という裁判官の発言ですね。

これは、民事訴訟法158条の「原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができる」という規定に基づくものです。

「陳述を擬制する」ので「陳述擬制」というのが正確だと思われ、口頭弁論調書上もそのように記載されていますが、「ギチン」という言葉が効かれるくらいなので、「擬制陳述」でも問題はないでしょう。

実務的には、被告は第1回口頭弁論期日の日程調整に参加せず、原告と裁判所の都合で決められるので、被告が都合がつかずに欠席しても問題が起きないようになっている、と説明されることがあります。私の体感としても、このような説明が腑に落ちます。

ただ、沿革としては、「当初はもっぱら原告の欠席を眼中において、・・原告が欠席すると、弁論の冒頭陳述として請求の趣旨の陳述がないことになり、弁論が開始されないことを慮ってのことであった」(『条解民事訴訟法(第2版)』946頁(新堂幸司=上原敏夫執筆))と解説されており、むしろ逆のようです。

大事なことは、擬制陳述は「最初にすべき口頭弁論の期日」に限るということです。続行期日では使えません。

在監者が典型的ですが、出頭することが事実上不可能な当事者については、訴状受理後、第1回口頭弁論期日を開かないまま、答弁書以降のやりとりは書面による準備手続に付して行っていき、全ての主張と書証がそろった後に、ようやく第1回口頭弁論を開き、そこで一括して陳述を擬制する、という運用がなされていると聞いたことがあります。

コロナ禍を受けて、一般事件でも上記のような運用をしているケースも増えているのではないかと思います。(続く)

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