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日本から見えない、TikTokが恐れられる本当の理由

先月、米国議会がTikTokを禁止する法案を可決、TikTokは9ヶ月(猶予期間含め実質1年)で現地法人を売却して米国から撤収させられることになりました。
TikTokは現在、10億人以上のユーザーを抱える、世界で最も人気のあるソーシャルメディアプラットフォームの1つです。

NotebookLMによるこの記事の概要

メディア統制が整っている日本ですとTVラジオだけでなく専門業者やランサーズなどでアルバイトを雇ってSNSに拡散したり徹底するので、あっという間に悪者ムードになるかと思いますが、そこは自由の国アメリカ。ユーザー数が急増し人気があるのがクリエイター側と視聴する側の両方ということもあり、多くの人々がかなり批判をしているようです。あっという間に米国人口の50%以上のユーザーを獲得、多くは若い層なので当然とも言えます。


米国でのTikTok禁止が何を意味するのか

結論から言うと、今回の規制は保護主義的な理由(米国の会社の利益のため)と考えています。  ですので、今回の法案はTikTok法人に対するものでユーザーは直接関係ありません。 理由について記事を参照しながら順に説明します。

1.中国企業という理由で制裁

APNEWSの記事では、以下のように解説しています。

TikTok が突然あなたの携帯電話から消えることはありません。また、禁止された後も使い続けても刑務所に行くことはありません。

apnews

記事でも禁止した理由はTikTokが中国だから(中国政府に情報を渡すのではないか)といった、国家主義的な理由(自由経済とは逆)なので専門家からも疑問の声が上がっているようです。

「TikTok法案は、AppleとGoogleがスマートフォンプラットフォームに対して維持している管理に大きく依存している。なぜなら、法案の主な仕組みは、AppleとGoogleに、それぞれのアプリストアでTikTokアプリを許可しないように指示することだからだ」

ユーザーはAppleやAndroidに情報を管理されてしまっていて、それらが企業の思惑のために利用されていることは周知の事実ですし、アプリ一つを規制して情報を制限するのは実際の所不可能でしょう。facebolのmetaが詐欺広告で問題になっていますが実害を大量に出している会社は野放しだったりで一貫性もありません。

議会が米国でのアプリ禁止に近づく中、TikTokユーザーとコンテンツクリエイターが知っておくべきこと

議会でも意見は割れていたようで、民主党議員50名、共和党議員15名がこの法案に反対票を投じていて、米国の基本ポリシーと違うよね?という意見も多いようです。バイデン政権下なのに民主党の反対が多い点がポイントです。

TikTokの措置に反対する人の多くは、米国の消費者を保護する最善の方法は、出所に関係なくすべての企業を対象とする包括的な連邦データプライバシー法を施行することだと主張していますので、この方向に向かう可能性があり個人情報保護のルールが厳しく流れになるのか、ならないのかが注目されます。

意外にもこの法案に反対したジム・ハイムズ下院議員(コネチカット州民主党)は、言論の自由の問題を挙げたという。
バイトダンスは米国ユーザーのデータを中国共産党と共有していることを否定し、懸念を「誤報」だと主張した。

2.日本から見えない、TikTokが恐れられる本当の理由

TikTokは動画をシェアするサービスだと思っているそこのあなた! じつは海外でTikTokは通販アプリになっています。 もちろん今まで通り、アプリを開けばどーでも良いショート動画が再生される所は変わっていません。 が、画面下のナビメニューには「ショップ」が追加され、ショップ画面からは超簡単にお買い物が出来てしまいます。

かなりお安く、衝動買いしたくなるものがこれでもか!ってくらいたくさん並んでいます。

実際に買ってみた

実際にTikTokショップで買い物をして商品の到着を待っているところなのですが、使ってみるとアプリ・サービス共に使い勝手が良いです。

購入した商品はこちら。。。2200円くらいのキーボードで、500円ほど割引してもらいました。


既存のLazadaやShopeeなどベトナムで利用できるアプリ(iOS版)と比べると

  • 日本語に対応してて見やすい

  • 送付先の住所登録に住所の候補が出てきて外人でも楽々親切

  • 他のPayアプリ連携も簡単、エラーなどトラブル無し

  • Payアプリ連携だとクレジットカードの入力が必要ない、デポジット式で安心のお買い物

  • 始めてのお買い物で送料無料や割引クーポンが貰えてハードルが低い

と、好印象。逆にベトナム産のTiki や Sendo, シンガポールのShopeeは英語にすら対応しておらず、ベトナム語だけで超使いづらいのと、Payアプリ連携で落ちたり様々な問題がおきました。(現在は改善しているかもですが)
Lazadaは英語対応なので数年しぶしぶ使っていますが改良は見受けられません。

TikTokの強み爆発しそうな点

これまで動画の視聴でTikTokが分析しているユーザーの好みから商品を紹介することができ、さらに今後も精度が上がっていくでしょう。単なるECサービスに比べて大幅にユーザーの属性(年齢・性別・趣味嗜好など)を確定することができるはずです。 これは販売側には効率的にユーザーにリーチできるため販売業者のメリットは大きいですし、さらにTikTok動画で販促もでき、販売サイトに直通なので最強です。

ユーザーは暇つぶしで動画を見ると広告が自然にショート動画で入ってきてしまうので、いやでも見てしまうでしょうし、暇つぶしムードで欲しいものが(例えばコーヒーとか)よく表示されるのでポチりたくなってしまうのです。

ベトナムに見るEC戦国地図

東南アジアで通販といえばAmazon! ではなくて Shopee や Lazadaが有名です。ベトナム企業のTikiも人気でサービスの質が良いと評判でした。

かつてのベトナムの四天王はTikTokで変わり

Shopee :  年にシンガポールで設立され、現在ではシンガポールをはじめ、マレーシア、タイ、台湾、ベトナム、フィリピン、ブラジル、メキシコを含む計11地域に展開。

Lazada:  アリババグループ。インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの6カ国で展開

Tiki :  ベトナム発のEC。  サイバーエージェントが出資したこともあり、日本ではTikiがベトナムシェア上位、と嘘の記事もたまにあります、がサイトがベトナム語onlyだったりで外国人には使いにくいサービス。

Sendo: ベトナム最大のIT企業FPTが運営しているEC。日系企業ではSBIホールディングス、ソフトバンクなどが出資していますがパッとしません。

2022年の各社のシェア。ほぼ中華系のShoppe&Lazadaが占めています

LazadaやShopeeではAliexpressと同じものが同じくらいの価格で売られているので、やはり中華系がどれだけ進出しているか、その物量が差になっていそうです。日系が出資しても日系企業は頑張って東南アジアで売りまくろう!とはしませんから日本から商品や販売者が増えるわけでもなく、ASEANでは存在感は全く増えません。 出資される側も「出資するのにそれだけ?なんで?」という感じじゃないでしょうか。

猛威を振るう TikTokショップ

こちらは2021年のシェア。Shopee が73% 、Lazadaが21%で殆どを占めています。Shopeeは フードデリバリーの仲介サービスも展開していて、日常的にShopeeサービスに触れるのがASEANでの購買習慣となっている人口が非常に多いことが伺えます。

こちらは2023年。 TikTokショップが入り瞬く間に15%のシェアを奪ったのがわかります。 Shopee 63%, Lazada 19% と強豪から12%を奪い、ベトナム系は虫の息です。。

2023年のシェア

そして2024年。。。。衝撃が

春節のあと購買力が下がる中でも動画SNSというメインエンジンを持つTikTokは快進撃を続け、2024年1QでNo.2の座を獲得。市場の23%を奪い2位だったLazadaの3倍のシェアに躍進しました。 
逆にLazadaは7.6%のシェアに沈みました。 一方でShopeeは巻き返して67.9%まで戻しています。

ベトナムで大躍進の理由は高齢者ユーザー

これは統計情報があるわけではないのですが、ベトナム現地でTikTokショップの大躍進について聞くと、ベトナムでは若い層ではなく中高年女性が非常に多い、という話が出ます。理由としては

  • スマホ時代と経済成長が同時期だったベトナムでは、すでにECは当たり前でShopeeなどに使い慣れている若い層が多い

  • 逆に乗り遅れていた高齢者などは暇なこともありスマホでやることといえばTikTokをみたりメッセンジャーくらい。動画暇つぶしからの誘導で衝動買い、というのにドンピシャにハマった

  • ベトナムには動画やメッセンジャー、出会い系アプリなどはたくさんあり若い世代はそうした遊び方を広く知っているのでTikTokにドハマリするほどではない

という意見がありました。またスマホアプリの通販利用者は店舗などが少ない地方に多くうる側はハノイとホーチミン市、という地勢的な状況もあるようでした。ベトナムでも高齢化は始まっていて若者は都市部へ、そうでない人は地方にとどまる、というのは日本と同じです。


2024年第1四半期、TikTokショップの総取引額はLazadaの3倍に

特に、前四半期と比較して、TikTok ShopプラットフォームはGMV(流通取引総額)を15.5%増加させ、市場の流れに逆行して、さらに6.3ポイントの市場シェアを獲得し、残りのプラットフォームのシェアに食い込んだ」

TikTokはショート動画で独走しただけのアプリ、の印象を受けやすいですが、マーケティングツールも提供するなど、様々な広告販売のノウハウだけでなく、それらを実装するソフト開発力が凄いのです。


3.アメリカ企業が止めたいのはTikTokじゃなくてEC?

現在、アメリカでは中華系ECの躍進と経済精査が話題となっています。元が中国だから規制をするのは人種差別じゃないの?とならないように、どうやって制裁をするのか、というのがニュースなどで話題となる部分です。前述のニュースでは民主党のバイデン政権なのに反対は民主党の方が多くなっています。これは共和党の方が自由主義・商売繁盛主義であり、ロビー活動で献金する企業との繋がりとも関係がありそうです。

規制を増やせば商売の邪魔になるわけで、前例ができれば他に飛び火する可能性もあるので当然、慎重になるでしょう。

(中華EC三社のシェアと規制の可能性の記事)

SNSは人を集めてそこに出す広告費で利益を上げ、広告主はSNSに広告を出して物を売りたいわけですが、TikTokはSNSの中にショップをそのまま持ち込みそこで販売手数料を取れるので、SNS広告外し。Facebookやinstagramなどは慌ててshort動画モードを追加したりしていますが、改悪になってる印象です。 ユーザーのポストと広告を紛らわしく混ぜる手法はユーザーには「騙し討ち」のストレスがありますが、改善するより「経済制裁で排除しちゃおうか、、、」となったとしても不思議はありませんし、実際そうでしょう(笑

Temu の脅威も…

最近話題の中国系物販TEMUは2022 年に設立された米国に本拠を置くオンライン マーケットプレイスです。中国のショッピング サイト「拼多多」の姉妹会社です。 Aliexpressの競合ですが、Aliexpressより安く売っていると米国で人気が上がっています。(どちらも悪質な業者が混入しているようですが、これはAmazonや楽天も同じですね)

TEMUの人気の秘密は送料の安さもあるそうで、インフレであらゆる価格が高騰しているアメリカでは実利が大きく、人気が出るのもうなづけます。安さの背景には過酷な労働もあるようでこちらも話題。

TEMUは米国に2022年9月に進出し急速にユーザーを伸ばし、4割のシェアを持つAmazonに猛追していると言われ、24年2月には7000万人がアプリをダウンロードしています。 同じく中国発のECであるSHEINも急速にユーザーが増えています。 Shein、Temu、TikTok Shopの米国シェアは現在3%で年内に5%に達すると言われています。Amazonのシェアが38%ですがこれは1990年代のネットバブルから長い時間をかけて築き上げたものです。 

4.アメリカの経済制裁とは?

ぼーっとニュースを見ていて、アメリカの経済制裁発動!と聞くと「テロかな?」という感じがしてしまいますが、基本的に経済制裁は自国の利益のための武器によらない「力による外交」で、要するに「OOるずぜ?」と恫喝して相手を従わせる手法です。 一説にはアメリカに経済制裁をされている国は全世界の7割にのぼるとも言われ、かつて日本はその筆頭でしたし、いまも「どうやって制裁を喰らわないか」という成約から小さい成長に甘んじているのが現実でしょう。 

50歳以上の人は覚えていると思いますが、現在の対中国や露への制裁どころではない、ひどい制裁をされたのが日本だったりします。最も日本の場合はアメリカの議会で法案を作って正面からまでする必要はなく、首相や官僚に「トヨタに意地悪するぜ?」といえば従うので簡単なようです。。。

アメリカはロビー制度の国でシステム化されているので、大企業が議員に正面から「利益増大のため競争相手をなんとかしてください!」と依頼して外国企業に圧力をかけることが出来ます。 日本のニュースだと何か正義とか「正しさ」から制裁をしているように見せるので非常に分かりづらいです。

対ロ制裁の現実

実際の所、アメリカの経済制裁はあまりうまく行っていないようです。(日本は例外ですが)
Huaweiに意地悪をしても Samsung、XiaomiやVivoからもiPhoneを上回るカメラとCPU性能な機種が出るようになり、日本以外の国ではAndroidがハイエンドでも優勢となっていますし、ロシアは石油を輸出しドルを使わない流れが逆に加速してしまいました。 ロシアから安く仕入れて転売しているのがアメリカ企業という指摘もあり、少ない販売先から言い値で買うしか無い日本はますます厳しい状況でもあります。

ちなみに、ウクライナ紛争のあとアメリカ中心にG7界隈がロシアに経済制裁をしていますが、他の国はほとんど追随していません。既に経済制裁をしている国は反目しているわけですし、ASEANはホワイトハウスでASEAN会議をして経済援助などをちらつかせても、結局ASEAN諸国はのらりくらり。最終的に「経済制裁は何も生み出さない」とASEAN諸国は拒否して終わりました。

ベトナムは元々、アメリカと西欧に攻撃されたり経済制裁をされ続け極貧になった20世紀があり、現在もEUや米国からダンピング制裁を受けている側です。 ベトナムから見ると「ベトナムに来て安い人件費で生産した製品を外国で売って儲けるのは良くて、ベトナムが輸出したらダメ?」というふうにしか見えないでしょう。これはアジアの国々で共通している現実です。

話を戻すと、超大国の米国は自分が独り占めにするのを好みら相手だけが持っている状態を極度に嫌います。覇権国家としては当たり前なのかもしれませんが、単に人気があるECサイト、とか単に人気のあるSNS、ではなくショート動画メディアSNSとして流行るだけでなくECも融合した新種であるTikTokは許し難い脅威なのかもしれませんし、日本も危機感を持つ必要がありそうです。

また、すべての国がそうなわけではないと思いますがASEANの国は上手く米国と渡り合っているように見えます。 海外にいて痛感するのはバイタリティーと競争の重要性。ASEANではAmazonの上陸を許しておらず自前のサービスがいくつもあり競争をしていますが、そうでない分野もあります。 ただ単に規制をすれば自分も一緒に弱まる諸刃の剣なのだと考えさせられます。

追伸:

なんと、TikTopショップに注文した週末には商品が届きました。
あまり期待していませんでしたが、注文したキーボードは書いてあった通り2.4G USBドングルとbluetooth併用で今風に複数接続の借り換えがショートカットで出来る君で優秀。コーヒーも記載通り100%アラビカな中煎りでお味もGood! 工場直送らしく、箱の中にはちょっとこぼれた豆とおまけのお試し豆が3袋も入っていました。このお店はリピート確定です(笑

※ベトナム原産コーヒーはほとんどがロブスタ。苦く香りが少ない品種で缶コーヒーの原料としても有名ですが、ベトナムで挽いたロブスタを買うと後進国な理由か?コーヒー以外の混ぜものが入っていたりが普通なお国柄です。

コーヒー豆の箱
2000円の小型Bluetoohキーボード君。
Apple magic keyborad的なサイズですがCTRLキー他、正しい位置で偉い!

付録:

ロビー活動とは

企業や団体の意見や要望を、議会や政府の関係者に働きかけること。ガバメント・リレーションズにおいて重要な役割を果たす。こうした働きかけをする人をロビイストと呼ぶ。米国ではロビイストは登録制で、活動内容の報告義務を負っている。


JETRO: 米国における政策策定プロセスと ロビー活動にかかる調査報告書

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2017/7f0f9e9b7bed9b62/report1703-1.pdf

米ASEAN特別首脳会議が閉幕、ロシア名指し批判せず-共同声明


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