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へき地での担任の決め方は、「セリにかける」

4月1日の先生たちの恒例行事といえば

クラス担任の発表でしょう。
春休み中に保護者の方に出会うと、よく
「次のうちの子の担任は誰ですか?もう決まってますか?」
と聞かれます。
先生たちの暗黙の了解で、クラス担任は始業式の日に子どもの前で発表するまで内緒にしておく決まりのようです。

4月の始業式で子どもたちが、
「あ〜〜!」
とか
「お〜〜!」
とか言うのは、先生たちのお楽しみの一つなのです。それは、大規模校でもへき地の小規模校でも、同じでした。

では、担任の決め方はというと、これがびっくりするほど校長の個性が出ます。
一番オーソドックスなのは、事前に先生方に担任の希望をいくつか出してもらっておいて、ご家庭の事情なども考慮しつつ、校長と教頭がすり合わせをしていくパターンです。
この場合、先生本人の希望は却下され、
「君にしか頼めないのだよ。」
的に決められることも、しばしばあります。
これが基本になって、校長の意向が一番に出てくるパターンや、保護者の意向を汲んでくるパターン。ベテランの先生の意向を汲むパターンなんてのもあるようです。

へき地でのクラス決めは「セリ」だった

しかし、初めてのへき地に赴任してきてドキドキのクラス決め直前。私はあることに気がつきました。
「あの、私・・・クラス希望を全く聞かれてないんですが・・・」
隣の席の先生に思い切って訴えてみたものの、
「ああ、僕もですよ。そういうもんなんで。」
という答え。

今まで、
「クラス希望出したところで、その通りになるか分からないけどね。一応出しておかないとさ、後で交渉もできないでしょ。」
と先輩に言われたことはありました。

でも、そもそもクラスの希望も聞いてもらえないとは・・・
なんたるブラック!
どよんと、下を向いた私に校長からの無慈悲な一声。
「ほんじゃあ、クラスから決めようかね。」
職員室の連絡用ホワイトボードの端に、
『1・2・3・4・5・6』
と無造作に数字を書いていく校長をじっと見つめる先生方。
「えーっと、今年は1年と2年が複式なんで、ここ一人ね。」
フクシキ?!腹式呼吸?と私が戸惑っている間に、校長は1と2をつなげる線を書きました。
「んじゃ、どれいく?」
「私、全体のこと見ていかなきゃいけないんで、6行きます。」
「はい、6ね。」
6の数字の横にさっき発言した先生の名前が書かれました。
「僕は、総合でやり残したことあるんで、責任持って今年もあの子たち持ちます。」
「はい、5。」
「自分はどこでもいいんですけど、この中だと新しい先生に持ってもらいやすそうなのは、1・2年複式と4年かなと思うんで・・・」
「はいはい、3ね。」
あっという間の出来事で、クラクラしつつも、このセリみたいな場がクラス決めなんだとやっと頭がついてきました。
残ったのは私と、同時に赴任してきた先生の二人。
「あの、複式って1・2年生を同じクラスにするってことですよね。私やったことないんですが。」
思い切って言ってみました。だからと言って4年生も持ったことはないが・・・
「あ、私フォローしますよ。元々私が持ってた子達なんで。」
「そうだな。いい勉強になるし、1年は女の先生の方が子どもも安心する。」
あっという間に1・2年の担任となっていました。
そして、この瞬間が私と複式学級との出会いとなりました。
一応補足しておくと、これはその校長先生の決め方であって、へき地が全部この決め方というわけではないですよ。

クラス編成の基準の数

ちょっとした田舎の学校だと、1学年に1クラスいう学校も増えてきた今日この頃。
地域や時期によって少し違いますが、当時は40人というラインが決まっていて、それより多いと2つにクラスが分けられて、それ以下だとクラスが一つになります。少子化の田舎の学校はこの40人のラインを越えるか超えないかで大騒ぎをしていました。
しかし、ここはへき地なのです。1学年の数が2桁いけば「多いね」と言われる世界。複式学級になるということは、2つの学年を合わせても16人以下、1年生を含む場合は8人以下ということになります。

ちなみに、私が持った子たちは2学年合わせて3人でした。
『3人ならなんてことないじゃない』
と言われそうですが、複式学級での授業は1・2年同時に進められます。そこが複式が嫌われる理由の一つなんですよね。
まあ、授業のことについては別記事で掘り下げてみようと思います。

公教育で異学年を1クラスにするということの可能性

そうやって出会った複式学級でしたが、今ではこの出会いに感謝しています。
今、オルタナティブ教育や少人数編成の学校が注目されていますよね。モンテッソーリとかイエナプランとかでは、異学年との関わりを大切にされています。
私も今そういった教育について勉強中なのですが、50年以上も前から異学年クラスで主体的な授業を研究してきたのが複式授業の世界でした。それも、日本の公教育で!
私は、この二つの流れを混ぜたら、面白そうだと思っているのです。海外から来た、自由な教育と、日本でずっと行われてきた伝統的な教育。でも、その中にはたくさんの共通項があるのです。
私はどういった方法の教育であっても、メリット・デメリットが存在すると思っています。そしてそれを分かっておくことが大事だと思うのです。なぜなら、目の前の子どもに合わせて教育を行うから。どんなに素晴らしい教育法でも、その子に合わせてカスタマイズする必要が出てくると思うのです。
と、偉そうに言ってみてもまだまだ私も未熟者なのですが・・・

とにかく、私がへき地を愛し、複式学級を愛し始めるきっかけは、「セリみたいなクラス決め」が始まりだったのです。

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