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体と心に優しい薬膳料理。アッコ堂は、自分が自分らしくいられる場所。ーー「養生ごはんアッコ堂」店主 今川 明子さん

栄養士としての勤務を経て、大山町でアッコ堂をスタートし、今は倉吉を中心に活動をしている今川さん。以前は、体を酷使し、自分が口にする食に気を使うこともできないまま、日々働いていました。少しゆっくり呼吸したいと思っていたとき薬膳に出会い、人との巡り合いにも恵まれたことから事業を開始することを決意。

現在は、尊敬する店主が営む居酒屋に勤めつつ、週に3日はアッコ堂で薬膳をテーマにしたお弁当やケータリングサービスを提供していらっしゃいます。今川さんに、アッコ堂が誕生するまでの道のりをお聞きしました。

__どのような事業を行っていますか?

アッコ堂では、“大事な体にやさしく寄り添う養生ごはん”をコンセプトに、土地の恵みや旬の食材を使って、体が喜ぶごはんを作っています。始めた頃は、レンタルスペースで食堂をやっていましたが、今はお弁当とケータリングを中心に提供しています。

そのほかに、イベントに出店して薬膳カレーを出すことや、出張シェフのようにお家に伺ってご飯を作るお仕事もしています。

「体にあわせて旬のものをいただく」
薬膳が、日本人の食生活の原点を思い出させてくれた


__薬膳に興味をもったきっかけは何ですか?

もともとは、関西の病院で栄養士として働いていました。そこでは、病気になった後の食事を考える仕事がメイン。それも大切な仕事なのですが、そもそも「病気にならないためにはどうしたらいいんだろう」という疑問を持つようになりました。

そのとき薬膳というキーワードが目に飛び込んできて。薬膳というと薬っぽくて、苦いイメージですよね。私もそう思っていました。でも薬膳で使う食材は、身近なスーパーに売っていて、薬ではないので苦くもなく、高価なものでもありません。

そして勉強していくうちに、「おばあちゃんの作っていた食事が薬膳なんだな」という考えに行き着きました。

薬膳の基本的な考えに、その土地の旬のものをいただくという「身土不二(しんどふじ)」があります。一年を通して、いつでも食材が手に入るというわけではなかった時代には、季節のものを工夫しながらいただく生活をしていました。昔から、日本人が工夫してきた食生活のあり方が薬膳なのです。

もう一つ、薬膳には「自分の体調にあわせて食材を選ぶ」という考え方もあります。例えば体が冷えているなと感じたら、生姜やエビ、鶏肉などの温性の食べ物を食べてみる。胃腸の調子が悪いなという時には、消化器系が疲れているので消化を助けてくれる健脾(けんぴ)の食材を食べるようにします。

栄養士時代は、日々仕事で疲れて帰ってきて、出来合いのものを食べることもあって......。栄養士なのに自分の食生活は、「旬のものを旬のときにいただく」こととはほど遠い状態でした。

__実際に、薬膳を作り始める転機となった出来事はなんですか?

親元に戻ることに決めて、鳥取の保育園に調理師として勤めました。それまでの栄養士の仕事はメニューを考えて調理師さんに指示を出すことだったのですが、今度は自分が作る側の経験をすることに。そこから「作る方が好きかも!」と思うようになりました。

食べてくれた先生や子どもたちが「おいしかったよー」と言ってくれるのが嬉しく、喜んでもらうことで生まれる達成感や、人と人との触れ合いにやりがいを感じていました。

そのころ、鹿野のジビエ料理などを提供する「八百屋Barものがたり」というお店を気に入って、よく通うようになりました。生産者さんと料理を作る人、そして食べる人との距離が近く感じられる、おもしろいお店でした。

「薬膳に興味があるんです」と話したら、その店のオーナーが「倉吉に、薬膳のカフェがある。経営している人を知っているから聞いてみてあげるよ」と紹介してくださって、タイミングよく薬膳カフェで働き始めることができました。

倉吉では薬膳のカフェで働きながら、薬膳教室で資格取得を目指して勉強しました。教室の先生との出会いも私にとって重要なポイント。先生は、知識が豊富で、人間味があり、地元愛がすごくある方でした。

薬膳への興味を言葉にすると、たまたま周りにいた方が聞いてくれて、人や機会を紹介していただき、どんどんと人生に変化が生まれ、今につながっています。

「自分がやりたいと思うことをやってみよう」
思い切って飛び込むことで生まれた出会いが、新たなページを開く


__そこから、事業をはじめるまでの経緯を聞かせてください。

「アッコ堂」を始めたのは、中山にある「まぶや」の1日店長をしたことがきっかけです。「自分がやりたいと思うことをやってみよう」と、今から7年前にスタートしました。1年半ほど活動する中で、大山町の人たちが親切に声をかけてくださるようになりました。

そこで、出会ったのがまーしー(佐々木 正志さん)です。まーしーは、いろいろな活動に人を巻き込む力がぴかいち。いろいろと声をかけてくれる存在で、ありがたかったですね。地元の食材を使って楽しむ「DAISEN PARTY」にも、まーしーの「ご飯をつくらない?」の一言から参加することに。県内外の若者が30人くらい集まっていたので、そこから新たなつながりも広がっていきました。

__事業を始めてみて助けになったことや、難しかったことはなんですか?

「手伝ってあげるから、やってみたらいいじゃん」と支えてくださる方や、応援してくれる友達に背中を押してもらいました。

事業を始めるということは、失敗も責任も自分にかかってくるということ。好奇心旺盛なのですが、最初は怖かったですね。でも、自分で決めたことだから、「すべてを受け止めてやっていくぞ!」と覚悟を決めました。

でも安定した仕事を辞めて、リスクのある道を進むことになるので、家族は心配だったようです。母は「あなたがやりたいようにやったらいいよ」と言ってくれたのですが、父にはなかなか納得してもらえませんでした。「家族を安心させたいな」という気持ちが大きくて、それが「踏ん張って頑張ろう!」という自分の原動力になりました。

事業に取り組んでみると、思っていた以上に自分に向いていると感じています。会社に勤めているときは、周りの人の気持ちや、評価を気にして疲れることもあったので。もちろん今でも、悩むこともあります。その時は、日記をつけたり、人に話を聞いてもらったりして気持ちの整理をつけています。

思い切って飛び込んでみたら、経験したことがない世界やいろいろな人との出会いが開かれてきました。やってよかったなと思っています。

肩の力を抜いて、
心と体のちょうどいいバランスで仕事を楽しむ


__1週間はどんなスケジュールですか?

朝からお昼までアッコ堂のお仕事をして、夜は居酒屋で働いていています。今の働き方が一番、「心も体もいいバランスで仕事をさせてもらえているな」と感じています。

働いている居酒屋はもともと大好きな場所でした。料理はピカイチに美味しくて、創作系の料理の発想もすごい。大将の考え方には電撃をうけました。技術はもちろん、経営者や人としての考え方を大将から聞かせてもらえるのが勉強になっています。

当初は「アッコ堂一本でやっていこう」と考えていたのですが、「頑張らないと」と肩に力が入って、余裕を無くしてしまっていました。一つのことに熱中しすぎて体を壊してしまうと、周りにも申し訳なく、自分に対しても納得できなくなってしまいます。余裕を持つことは大事なことだと実感しました。

今は穏やかに2つの仕事に携わりながら、暮らしとのバランスをとっています。基本的に週に一度は、丸一日休みの日を作るように心がけています。心は充実しているのですが、体が悲鳴をあげることもあるので。体力とのバランスを考えて、自分で仕事の量をコントロールできるので働きやすいですね。

仕事も大事ですが、「この世に生まれてきて、生きるチャンスをもらったのだから、楽しんで生きたい!」と思っています。

アッコ堂があるから強くなることができる
“自然に寄り添う”自分の軸を大切に、長く続けていきたい


__当初の目標や計画からすると、今はどんな状態ですか?

はじめは、アッコ堂をメインにして、いつかはお店を構えて収入を確保したいと考えていました。でも、それは自分のやりたいことや、コンセプトと合っていませんでした。「売り上げを重視し、自分の薬膳に対する思いを妥協しないと経営は成り立たないのかな」と、悩んだ時期もありました......。

今の私の働き方は、収益に関して真剣さが足りないと思われることがあるかもしれません。でも、私の人生なので人からどう評価されるかは気にせず、“好き”を大事に活動しています。

ありがたいことに、今の生活は、楽しくて充実しています。興味を持ったことに、仕事以外でも挑戦する余裕もあって、生きている感じがします。これからも、そういう風に生きていきたいですね。

__これからやってみたいことはなんですか?

これまでアッコ堂は、さまざまな人たちとの出会いをいただく中で成長してきました。「しっかりと意志を持っていてかっこいい」、「こんな人になりたい」と思える人と一緒に仕事をして、相談したり、ヒントをもらったりしながら挑戦を続け、今のアッコ堂になっています。

私の食に対する想いを表現できているのがアッコ堂です。昔から、「自然に沿った生き方がしたい」という思いを抱いていたので、自然なものを選んで料理を提供する。そして、生産者さんの顔が見えて、どんな土地で、どのように作っていらっしゃるのか、背景を感じられるような食材をなるべく使っていきたいと思っています。

食への考え方の軸はこれからも変わらないと思うので、自然に寄り添いながら、長くアッコ堂を続けていけたらと思っています。アッコ堂は、仕事というよりも、自分の一部。アッコ堂があるから強くなることができます。「失敗も失敗ではない」と思います。人生と同じで軌道修正しながら、進んでいきたいですね。

”心と体にゆとりがあって、好奇心を掻き立てられることに取り組む余裕もある”、そんなバランスとれた仕事のスタイルを実現している今川さん。自分の心に寄り添いながら、丁寧に言葉を選んでお話してくださいました。肩の力を抜いて仕事やくらしに向き合う姿からは、働くこと・生きることの楽しさが伝わってきました。今川さん、ありがとうございました。

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