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『藤子・F・不二雄SF短編ドラマ』レビュー#1「鉄人をひろったよ」

藤子・F・不二雄生誕90周年を迎え、実写化された『藤子・F・不二雄SF短編』。そのシーズン2が、NHKBSにてスタートする。『ドラえもん』『パーマン』『キテレツ大百科』の生みの親が紡ぐ、SF(すこし・不思議)な物語とはーー。

本稿では、4月7日に放送された「鉄人をひろったよ」を紐解いていく。 

主人公(風間杜夫)は、見知らぬケガ人からリモコンのようなものを渡される。リモコンに向かって話しかけると、目の前に現れたのは巨大な鉄製ロボット。家まで着いてきたロボットは妻(犬山イヌコ)に見つかり、どうして拾ってきたのかと文句を言われてしまう。手に負えないと判断した主人公は、ロボットを遠くに捨てることにする。

VFXを駆使した映像に、鉄人のダークなフォルム。まるでそこにあるかのようなリアリティは、息をのむほどである。主人公が鉄人に乗る夢のような時間の描写は、多くのロボットファンの胸を高鳴らせたのではないだろうか。

この夫婦は、庭にある木をめぐって隣人と揉めている。無断で庭に入ってくる落ち葉を嫌がり、隣人の植えた木を切りたがっていた。一方で、隣人からは日照権を持ち出され、夫婦の家の木は切られてしまった。この木の話にリンクするのが、巨大な鉄人。実はこの鉄人は、ある国が命運をかけて開発し、各国が犠牲を払って追い求めたものである。

だが、その価値を知らない主人公は、リモコンのようなものとともにはるか遠くに捨ててしまう。ある人にはとても価値あるものなのに、またある人にはまったく価値のないものとして映るーーこの価値の揺らぎが、なんともアイロニカルである。

また、「鉄人をひろったよ」の掲載当時は、ちょうど『機動戦士ガンダム』が流行していたそう。ロボットのオリジナルともいえる鉄人を持ち出すとは、「世間には価値あるものだが、僕にとってはーー」という作者の風刺が込められている気がしてならない。

しかしながら、主人公は鉄人に乗って小さい頃の夢を思い出し、さらにドラマでは鉄人を捨てたときに少し寂しそうな表情をする。手放す者の「喪失感」という普遍的な感情がひしひしと伝わってきて、彼は「少年の頃の夢」という価値あるものも同時に捨ててしまったのだと感じた。


『藤子・F・不二雄SF短編ドラマ シーズン2』 「鉄人をひろったよ」
NHKBS 日曜よる9時45分スタート
出演/風間杜夫、犬山イヌコ
原作/藤子・F・不二雄
脚本・演出/キムラケイサク

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