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糖尿病治療薬の話

このnoteでは、糖尿病とその治療薬について書きたいと思います。
糖尿病は生活習慣病の1つで、糖尿病患者と、糖尿病を疑われる人を合わせると日本で2000万人以上(約20%近く)いると言われている病気です。(厚生労働省の調査より)
また遺伝の影響もあるといわれており、親族に1名でもいれば、このnoteを読んで治療薬についての理解を深めておくことを推奨します。
その理由として、自分が糖尿病になったときに医師が選択する治療薬を少しでも理解して服薬することが出来ますし、余計な副作用リスクを抑えることが出来るからです。

糖尿病について

基本的には血糖値が高くなる疾患を糖尿病と言いますが、その発生機序から大きく2つに分ける事ができます。
また基礎知識として人間は膵臓(すいぞう)からインスリンが分泌されて、このインスリンが「血中の糖分が細胞内に取り込まれる事」を促進して血糖値を下げています。この流れを覚えておいてください。

1型糖尿病
身体の何らかの問題で、インスリンをうまく分泌する事が出来ず、血糖値を下げることが出来ないために発生するのが「1型糖尿病」です。
遺伝が原因となることが多く、それ故に小さな子から患者がいるのが大きな特徴になります。
治療法については、インスリンを注射することでしか治療が出来ませんでしたが、最近は後述するSGLT2阻害薬がその作用機序から1型糖尿病の適応を取得した事で治療選択肢が増えました。
また膵臓(すい臓)細胞を利用した先進医療も増えてきています。

2型糖尿病
膵臓はインスリンを作り出して、このインスリンによって血糖値をコントロールしますが、2型糖尿病では、このインスリンの量が不十分(インスリン分泌不全)か、作られたインスリンが上手く作用しない(インスリン抵抗性)事で発症します。
糖尿病患者のやく90%以上がこの2型糖尿病であると言われています。年齢層としては20代も発症することがありますが、40代から発症のピークがきます。食生活などの環境因子と体質(遺伝)の組み合わせで起こると考えられています。
治療の開始は内服薬からになります、このnoteで説明する糖尿病治療薬を多くがこの2型糖尿病の治療に使われます。

糖尿病治療薬の種類

糖尿病治療薬の種類は、疾患の中ではトップの多さを誇ります。まずは経口薬(飲み薬)についてであれば以下になります。
・ビグアナイド薬
・チアゾリジン薬
・スルホニル尿素薬(SU薬)
・グリニド薬(速効型インスリン分泌促進薬)
・DPP4阻害薬
・αグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
・SGLT2阻害薬

次に注射薬であれば以下があります。
・GLP-1受容体作動薬
・インスリン製剤

多いですね…。全ての説明に入ると膨大な量になるのでここでは経口薬の説明のみとします。(それでも充分多いですが…)

インスリン抵抗性改善薬群

ビグアナイド薬チアゾリジン薬がこの群に当たります。

【ビグアナイド薬】
この薬は、肝臓での乳酸から糖が作られている(糖新生)のを抑えることで血糖を下げます。他にも消化管からの糖の吸収を抑えたり、筋肉などでのインスリンの働きを強めることによっても血糖を下げます。しかし、その作用機序から乳酸の代謝量が減ってしまい、血中に乳酸が過度に多くなり血液の酸性度が高くなってしまう乳酸アシドーシスが基本の副作用に追加されます。

【チアゾリジン薬】
この薬は、肥大化して糖を取り込む事が難しくなった脂肪細胞(インスリン抵抗性を得た脂肪細胞)に作用して、いくつかの小型の脂肪細胞に変化させることで、糖の取り込み(インスリン抵抗性)を改善します。他にも筋肉組織で作用する事でも抵抗性改善を示します。
ただ、基本の副作用に追加してむくみや体重増加が起きやすいとされています。また、膀胱がんのリスク向上も報告されていて、臨床試験で有意差がついた事があります。※

※ 欧州では国によっては投与制限があります。また、日本でも膀胱がん治療中の患者には禁忌とされています。

インスリン分泌促進薬

スルホニル尿素薬(SU薬)、グリニド薬(速効型インスリン分泌促進薬)、DPP4阻害薬がこの群にあたります。

【スルホニル尿素薬(SU薬)】
この薬は、インスリンを分泌している膵臓のβ細胞を直接刺激する事でインスリンのさらなる分泌を促します。
患者自体の血糖値によらず、分泌を促進するので量を過剰に投与するとインスリンがどんどん分泌されて血糖値を下げすぎて低血糖を起こすリスクがあります。現在の治療で治療開始の第一選択に利用されることは減ってきましたが、それでもまだ薬価や効果の強さから利用量の多い薬剤です。
また、インスリンが分泌されて、脂肪細胞に糖の取り込みが亢進されるので細胞が大きくなる、つまり体重が増加する事が報告されています。

【グリニド薬(速効型インスリン分泌促進薬)】
この薬は、SU薬と似ているのですが、効き方に大きな特徴があります。
とにかく作用が速いです。服薬タイミングは食事を摂る5−10分前です。食後の血糖値が高い人に対して処方されます。
また、短時間で体内で分解されていくので、一時的に血糖値が上がりやすい人に向いています。
SU薬と似た副作用が報告されていますが、体重増加はSU薬ほどではありません。

【DPP4阻害薬】
この薬は、先のSU薬やグリニド薬とは作用機序が異なります。
低血糖のリスクも低く、2019年時点では糖尿病治療薬の第一選択薬の1つとして利用されています。
この薬が作用するのはDPP4という酵素に対してです。このDPP4は、インクレチンという膵臓にインスリンを分泌させる為の物質を分解します。そのDPP4の働きを阻害する事で、インクレチンをしっかりと機能させ、膵臓からのインスリン分泌量を向上させます。
低血糖のリスクが低い理由は、このインクレチンは血糖値が増加した時にしか分泌されない為です。血糖値が低くなった時には、インクレチン自体が分泌されず、DPP4阻害薬が効いていたとしてもインスリン分泌には影響がおきず、過剰に血糖値を下げてしまうことが無いので低血糖のリスクが回避されます。※

※それでも、他の作用機序の糖尿病治療薬と合わせて服薬する場合には、低血糖を引き起こす恐れがあるので注意が必要です。

糖吸収、排出調整薬

αグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
この薬は、αグルコシダーゼという酵素を阻害する事で血糖値が上昇するのを防ぐことができます。
通常、デンプンなどの多糖類は、そのままでは吸収されず、上記の酵素によってグルコースなどの単糖類に分解してから吸収されます
つまりα-GIの作用機序は、多糖類の分解を起こさせず、糖の吸収自体を阻害する事で血糖値の上昇を抑えるというものです。
しかし、グルコースなどの単糖類が摂取された場合には、このα-GIは上手く働かないので、糖尿病治療薬の中では比較的弱い薬剤に位置付けられます。

しかし、作用機序的に多糖類が便中に含まれてしまい、下痢などの下腹部症状を起こす事が特徴的な副作用として挙げられます。

【SGLT2阻害薬】
この薬は、自分が製薬業界で勤務していた2018年では最も新しい作用機序の薬剤で、製薬会社も10社以上絡んでいます。それ故に現在も活発に臨床試験が行われています。
作用機序について紹介する前に、以下の前提を押さえておいてください。
人の腎臓は、血液を濾過する事によって老廃物と一部水分を取り出して、それを尿として排出しています。
そして一般ではあまり知られていないのですが、糖類などは一度老廃物として濾過されています。それをSGLT2という細胞膜上のタンパク質が尿中から糖類を回収しているのです。その為、健常者の尿には糖が含まれていないのが通常です。
つまりSGLT2阻害薬はその名前の通り、SGLT2というタンパク質を阻害して尿に糖を含んだまま排泄させようというのが、この薬剤の狙いになります。

この説明を聞くと、血糖が全て排泄されて低血糖のリスクがあるのではないかと心配になるかもしれませんが、低血糖のリスクは低いというのがこの薬剤の特徴になります。
というのも、腎臓では一定の量を超えた糖分だけが濾過されるので、必要最低限の糖分は血中に残るためです。
しかも腎臓が糖を吸収するために酸素を消費して細胞を傷つける事が抑えられるので、腎臓保護の効果も期待されています。

また、この薬剤の特筆すべき特徴の1つに体重減少が挙げられます。これは尿中に糖分(カロリー)が排出される事で、糖から生成される脂肪が減少する事が理由として考えられています。また、脂肪分が減る事で、心疾患の減少も期待されており、EMPA-REG試験や、DECLARE-TIMI 58という試験の結果からも心疾患へのポジティブな影響が報告されています。
この試験については、また別の機会に記載できればと思います。

ここまで聞くと、この薬剤1択ということになるかもしれませんが、SGLT2阻害薬にはその作用機序故に回避できない副作用リスクがあります。
それは性器感染症です。尿中に糖分があるということは、雑菌が繁殖する為の培地(栄養分)が用意されているような状態といえます。そのため、毎日しっかりと洗浄をする必要が出てきます。通常、日本人は湯船に浸かったり、毎日シャワーは必ず浴びるという人が多いのでマシなのですが、海外では湯船に浸かる習慣がなかったり、入院患者で自由に動くことが出来ない為に充分な洗浄を行うことが出来ず、性器感染症を引き起こすことが多くなります。また女性についてはその構造上の違いからも、性器感染症のリスクが高いことは臨床試験の結果からも知られています。

糖尿病治療で全ての薬剤通じて一番重要な事

ここまでで、色々な糖尿病治療薬の話をしたのですが、全ての薬剤に共通して言える大事なことが以下です。本当に大事な事なので、あと1分だけ読む時間をください。

血糖値のコントロールが改善されたからといって、自分自身の判断で勝手に服薬を中止してしまうことは絶対にダメです。血糖値のコントロールが順調なのは、食事療法・運動療法と、服薬している薬が上手く機能しているからです。薬の量を減らす、止めるなどの判断は、医師が患者の身体の状態に合わせて、その都度適切な処方をしてくれているので必ず医師の指示に従うようにしましょう。
もしも、いま服薬している薬について少しでも不安や疑問があれば、遠慮せずに主治医または薬剤師に相談するようにしましょう。
また、逆に血糖値のコントロールが悪くなった時には、生活習慣や他の薬などが原因の可能性もあります。勝手に薬の量を増やすなどせずに、すぐに受診しましょう。
血糖値コントロールが乱れたときに、低血糖状態でいるよりは高血糖状態である方が、身体への影響が少なく済みます。適度に糖分を摂取し、血糖値を少しの間だけでも上げておいて、すぐに受診をする事を推奨します。

最後に

糖尿病治療薬は進化を続けていますし、2020年時点で多くの治療選択肢があります。ただ、糖尿病の進行を抑える為に一番重要なのは適切な食事と運動療法です。1つの薬を飲むよりも、しっかりと生活習慣を変える事の方が、治療として最良になります。

如何でしたでしょうか?
今回は身近な疾患のはずなのに余り知られていない糖尿病治療薬についてお話しました。全経口薬を比較した説明は少ないのは、臨床試験の数が膨大になるからかもしれません。
この記事も最新情報や漏れがあれば都度修正をしていく必要があると思うので、もし何か気づかれた方は是非コメントにて教えてください。

ここまでお読みくださって有難うございました。
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