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【統計調査×ジェンダー】女子大生の恋愛と結婚に対する意識調査から調査統計及び実施過程の問題を考える

2020年1月(2回生)の時の意見です。

1.取り上げた調査

 今回、調査統計及び実施過程の問題について論じるにあたって、広島女学院大学人間生活学部教授の三木幹子氏が行った「女子大生の恋愛と結婚に対する意識調査」(2015)を取り上げた。

本調査は、独身女性が求める「適当な相手」の範囲を明らかにすることを目的とし、女子大学生を対象に、恋愛と結婚相手の条件、および理想の男性の日常行動・性格・恋愛特性などに関する許容範囲についてアンケート調査を行ったものである。

なお、調査対象は広島女学院大学学生636名であり、2010年~2012年、および2014年に行った。

2. 調査統計及び実施過程の問題について

2-1.問題点1

調査対象についての問題を2つ挙げる。


 1つ目は、「独身女性」の定義について問題があると考える。「独身女性」とは、「配偶者がいない女性」のことを指すのであろう。恋愛と結婚に対する意識調査を行っているが、被験者の中には恋愛及び結婚願望がない学生もいるのではないか。

そのような被験者に回答してもらうことは、本調査の目的に反するのではないか。したがって、本調査を実施するにあたり、冒頭部分で恋愛及び結婚願望があるかについて回答してもらう必要性がある。


 2つ目は、「独身女性」の調査対象が極めて限定的ではないかという問題である。調査対象が学内の女子大生のみとなっているため、調査の回答が女子大生の特徴が顕著に表れるのではないか。

また、日常生活において男性と関わる頻度が異なることや共学に通う女子学生との価値観の差があることから、女子大学に通う女子大生だけでなく、共学に通う女子学生も調査対象にするべきではないか。

2-2.問題点2


実施期間についての問題を挙げる。実施期間が2010年~2012年、および2014年となっており、2013年に調査が行われていない理由が記されておらず疑問を感じた。

2-3.問題点3


理想の男性の条件についての調査の結果・考察に対する問題について述べる。


2011年は、東日本大震災があり、そのことをきっかけに男性に対して経済力よりも包容力や頼りがいが重視されたのではないだろうかと考察されているが、その逆、つまり男性に対して包容力や頼りがいよりも経済力が重視された調査結果は存在したのだろうか。


どのような影響によって女性が男性に対して経済力を重視するようになるのかを考えてみよう。例えば、2008年はリーマン・ショックが発生した年である。世界規模の金融危機ということで、当然日本経済も大幅な景気後退へと繋がり、家計にも影響を与えている。

『「減少世帯」に関して、リーマン・ショックの前後での年収の変化を調べたところ、ショック前の2007年には中央値500万円だったが、ショック後の2009年には同471万円に減少。その後、2010年には同480万円に増加したものの、ショック前の水準まで回復していないことが明らかになった。』(マイナビニュース 2012年10月12日)

この記事は、リーマン・ショック後の夫の年収の変化について述べたものである。ショック時の年収よりショック後の年収が減少していることがわかる。このような状況から、男性と結婚するにあたって女性が男性に求める条件に経済力は大幅に増加したのではないか。


図1は結婚相手の条件として考慮・重視する割合の推移を表したグラフである。第14回(2010年)の調査結果より、最も重視されている条件が人柄(98.2%)であり、次いで家事の能力(96.4%)、経済力(93.9%)である。経済力においては徐々に割合が増加している傾向にあり、リーマン・ショック以降の調査でも増加し続けている。したがって、自然災害後に、女性が男性に求める条件として包容力や頼りがいを重視するのと同じように、金融危機後では男性に求める条件として経済力を重視する傾向にあるとわかる。(図2)


三木氏は、東日本大震災をきっかけに男性に対して包容力や頼りがいを重視する女性が増加していると考察している一方で、まとめとして『「経済力」は結婚相手の条件の方では突出して増加しており、現在においても女性が男性に経済力を求める傾向が強いことが分かった。』と述べていることから、経済力がなぜ重視されているのかまでまとめると、非常に説得力のある論文に導くことができると思う。

図1:調査別にみた、結婚相手の条件として考慮・重視する割合の推移

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出所:国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査 結婚と出産に関する全国調査 独身者調査の結果概要」(2010)

図2:調査別にみた、結婚相手の条件(経済力)として考慮・重視する割合の推移(女性)

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出所:国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査 結婚と出産に関する全国調査 独身者調査の結果概要」(2010)より筆者作成

3.まとめ


学生の分際で教授が書いた社会調査及び論文を指摘することは非常に恐縮だが、上記の3つの問題点を挙げた。また、問題点を社会調査に対する問題点を挙げることで、調査のデメリットも分かった。

三木氏が行った調査方法はアンケート調査である。アンケート調査とは、用意された質問に対して多数の人に回答してもらい、それを集計して資料化する手法であり、回答者数が多ければ多いほど、そこから抽出される資料は精度の高いデータとなる。このように簡易に実施することができる一方で、集計したデータを正しく理解・解釈するためには、世論調査の知識が必要になる。


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