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「会社のために」が「会社のリスク」に変わる残業45h。長時間残業が生産性を下げる理由。

残業の上限は45hと言われますが、これは何故なのでしょう。36協定の概要を知る方は多いですが、労災の認定基準はあまり知られていません。今回は厚生労働省が定める労災の認定基準と残業のリスクや生産性について書き留めてみます。

「労災」の認定基準となった残業45h

医学的な研究から、睡眠時間が5時間以下になると、脳や心臓疾患の罹患率が高くなる事が知られています。認定基準となったのは、この睡眠時間と残業時間の関係からなのです。厚生労働省の報告書(※脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書)には「1日の時間外労働を2h、4h、5h程度行う者は、睡眠時間の平均がそれぞれ7.5h、6h、5hとなっていた」という調査結果があります。この時間外労働時間に平均勤務日数21.7日を乗じて、概ね45時間、80時間、100時間を基準に定めているのです。

残業時間と睡眠時間の関係

1日24hの内、基本労働時間を8h、昼休み1hとすると、概算ですが次の関係が成り立ちます。

15h ≒ 残業+通勤+睡眠+余暇(夕食・風呂・身支度・趣味・自己啓発等)

当然、残業時間が増えると相対的に睡眠時間や余暇が減るのです。

余談ですが、睡眠時間や余暇を確保する手段として、引越し等の手段で通勤時間を圧縮するのも有効と言えます。通勤は毎日の事ですから片道30分減るだけでも、月21h、年間250h以上の差になります。リモートワークをうまく活用したり、会社の近くに住むと人生が豊かになるのかもしれません。

時間外労働の罰則化(36協定)

時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間と法律に定められました。特別条項付きの36協定を締結している場合でも、次の条件を守らなければ違反となります。

<原則>
・月45時間
・年360時間
<特別条項付きの36協定を締結している場合の上限>
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月が限度
・時間外労働と休日労働の合計について、「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」が全て1月当たり80時間以内
<時間外労働の上限に違反した場合の罰則>
6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金

悪質と判断された場合は文末にある通り企業名を公表されます。そうなれば企業の社会的信用が損なわれ、取引先や採用活動等への悪影響は避けられません。従業員の家族も不安にさせるはずです。

また、これを許容し続けた上司や役員個人が罪に問われる可能性もあります。労働基準法を守るということは事業継続に不可欠で、経営者や人事担当者は違反を阻止しなければなりません。

残業のコストが生産性を下げる

仮に残業の時間単価を2000円とすると、残業45h超過時に賃金は以下の様に増加します。生々しいですが、敢えて金額にしてみます。

45h超⇒25%割増(時給2500円、22時以降は時給3000円)
60h超⇒50%割増(時給3000円、22時以降は時給3500円)
80h超⇒罰金30万円/人+書類送検(当社の36協定違反)
※60h超の割増:上場企業は義務、中小企業でも2023年から義務化

ほとんどの労働者は、残業時間が45hを超えると時間当たりの生産性が大きく下がるのです。22時以降の深夜残業についても同様。割増賃金や罰金30万円を加味すると、長時間残業や深夜残業は生産性を下げる働き方と言えます。

しかし、会社を運営する以上は、システムの障害対応や緊急の顧客対応などもあるでしょう。そうした問題に直面した時、人事はどう向き合うべきか。上述した様な理屈のゴリ押しではなく、現実を受け止めた上で労務的配慮の提案に頭を切り替えたいものです。

「会社のために」が「会社のリスク」に変わる

会社のために、プロダクトのために、仲間のために、強い想いでハードワークするのは素晴らしい事です。しかし、あなたの残業時間が月45hを超えると、その想いが会社の法的リスクに転じる可能性も認識しておきましょう。

管理職の中には「部下のがんばりを応援したい」と考える方もいるでしょう。上司が部下の想いを受け止めるのは素晴らしい事です。ただ、行き過ぎた長時間労働は会社の生産性を押し下げ、法的リスクにもなるのです。

人事は経営者や管理職に対して、上述した法令違反や労災のリスクを認識してもらえるように働きかけなければなりません。売上も理念も従業員の健康があってこそです。

労働基準関係法令違反に係る公表事案
(令和2年2月1日~令和3年1月31日公表分)


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