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パレスチナ支援に繋がらないBDS運動

 BDSという運動をご存知だろうか。イスラエルに対するボイコット・投資引き上げ・制裁Boycott Divestment Sanctions)の頭文字を取った運動のことで、「イスラエルに国際法を遵守させるまで、様々な種類のボイコットを行なうこと」を目標に掲げている。政治的・経済的圧力の形成と増強を目的としたグローバルなキャンペーンである。

 これにより実際どのような影響があるのか。隔月刊誌「みるとす」2018年4月号に掲載した、アメリカ在住ジャーナリスト徳留絹枝氏の記事を土台に、最近の情報を加筆した記事を紹介する。


テロ事件当日の投稿

 10月7日に起こったイスラエル南部市民に対するハマスのテロ攻撃は、1,400人が残忍に殺害され、赤子や老人を含む220人以上がガザに連れ去られるという、イスラエル建国史上最悪のテロ事件となった。

 G-7を含む世界の民主国家は(日本は5日ほど遅れたが)、このテロ攻撃を強く非難し、このような攻撃を2度と許さないためイスラエルの自衛権を認めた。しかし、国家レベルでのイスラエル支持が揺るぎないものであった反面、パレスチナを支援する団体の反イスラエル行動は、以前にも増して過激になったように見える。

 イスラエルに対する「ボイコット・投資撤収・制裁」を掲げるBDS movementは、テロ事件があった当日、Xで次のようなポストを投稿した。

我々は、イスラエルによる何十年ものパレスチナ人弾圧を再び無視し、パレスチナ人の武装抵抗を、まるで今朝始まった”暴力”であるかのように糾弾した植民地主義西洋諸国の偽善と加担を、強く非難する。

〔下記Xポストの翻訳〕

 つまりBDS運動組織は、今回のハマスのテロ攻撃を武装抵抗と呼び、正当化している。それでも、BDS運動を真のパレスチナ支援と信じて活動を続けている人々が、日本にもいる。

アメリカのユダヤ人の声

 私は、BDS運動の問題点について何人かのユダヤ人の友人と語り合ったことがある。昨年まで米国ユダヤ人委員会(AJC)理事長を長く務め、日本政府から旭日重光章を受けたデヴィッド・ハリス氏は、次のように語っていた。

 表面的にどのような目的を掲げようと、BDS運動は本質的に反ユダヤであり、中東で唯一の民主国家であるユダヤ人国家イスラエルのみをターゲットとし、その壊滅を目指すものです。
 BDS運動に加わる企業には、以下のことを考えてほしいです。第1にそれは反ユダヤ反イスラエル運動への参加だということ、次に、多くの州が反BDS法を成立させたアメリカ国内において、その企業の評判は著しく傷つくこと、最後にその企業は、サイバーセキュリティや未来自動車、先端医療や水処理などイスラエルの最先端イノベーション技術へのアクセスを失う、ということです。

〔David Harris〕

 またサイモン・ウィーゼンタール・センター副所長のエイブラハム・クーパー師は、先ごろ「The Real Goal of BDS Threatens Every Jew on the Planet」(BDS の真の目標は、地球上のすべてのユダヤ人を脅かす)と題する意見記事を書いた。

 この中で、BDS運動は当初の、「入植と”占領“に対するボイコット」というスローガンから徐々に「イスラエルのボイコット」に進み、次はシオニストに及び、最近は「すべてのユダヤ人に対するボイコット」運動になっていると指摘した上で、今日彼らは「イスラエルの崩壊とユダヤ人の死をプロモートしている」と結論づけている。

問題ある外務省の記述

 日本のBDS活動家は、かつて日本企業にイスラエルボイコットを求める際、外務省のウェブサイトにあるこの注意書きを引用する。

東エルサレムを含むヨルダン川西岸におけるイスラエルの入植活動は国際法違反とされているため、それら地域に関わる経済活動(例えば、経済・金融活動、役務の提供、不動産の購入等)を行う場合は、金融上、風評上及び法的なリスクがあり得る他、そうした活動への関与が、人権侵害とされる可能性があり得ることについて、十分留意する必要がある。

外務省HP

 「十分留意」という言葉からは、できるだけ避けるように、あるいは独自のリスクで行なうように、というメッセージが受け取れる。しかし、BDS運動の実態が広く知られていない日本で、政府のこのようなアドバイスが、イスラエルでビジネスを始めようとする企業にどれほど助けになるのか、疑問だ。
 外務省は、この注意書きがBDS運動を支持するものではないこと、さらには日本政府がBDS運動を支持していないことを、明確にすべきだ。

支援に繋がらない運動

 BDS運動はまた、現実にパレスチナ人を助けていないことも調査研究で分かっている。2018年1月、ブルッキングス研究所からBDS運動の成果を分析する論文「How much does BDS threaten Israel’s economy?」(BDS はイスラエル経済をどれほど脅かすか?)が発表された。

 これによれば、イスラエルが先端技術を生み出し、それが世界的企業の製品に組み込まれている現在、イスラエル経済へのボイコットは現実的でなく、運動の成果は出ていないという。

 この調査から5年が経過し、サイバーセキュリティなど、世界がイスラエルの技術をさらに必要とするようになった現在、イスラエル経済をボイコットすることがパレスチナの人々の支援になることはあり得ない

 今回のハマスのテロ支持で明確になった通り、BDSが目指すのはイスラエルの壊滅であることを、日本のメディアはしっかりと伝えるべきだ。 

徳留絹枝


【補足】パレスチナ人の雇用を奪った例

 家庭で手軽に炭酸水を作れるソーダストリームというイスラエル企業がある。今は日本でも販売されているが、主要な製造施設をヨルダン川西岸地区内に置いており、BDSのターゲットとなった。2015年10月、BDS運動家の圧力があり、マアレー・アドミームにある工場を閉鎖してイスラエル南部に移転した結果、500人以上のパレスチナ人労働者の解雇を余儀なくされた。パレスチナ自治区に雇用を生み出していた工場の移転により、パレスチナ人労働者の利益を傷つける結果となったのである。

 同社は男女のユダヤ人、アラブ人、ベドウィン、クリスチャンなど、民族や宗教、性別を超えて共存の象徴ともなっていた。


 BDS運動については、パレスチナ人のダジャーニ教授自身も「紛争解決のためにはならない」と述べている。下記の記事も合わせてお読みいただきたい。


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