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『ペイ・フォワード』 ~あなたから世界へ「優しさは無限大」。もらうことと渡すことの意味~


01.はじめに


~主な登場人物~

トレバー・・・中学1年生。「ペイ・フォワード」発案者。母子家庭。
アーリーン・・・トレバーの母。暴力夫を持つ。アルコール依存症。夫に依存。母と絶縁。
シモネット・・・トレバーの社会科教師。全身やけど痕。虐待児。
クリス・・・記者。「ペイ・フォワード」の発案者を調査。
リッキー・・・トレバーの父。DV夫。
アダム・・・トレバーのクラスメイト。いじめられっ子。
一流弁護士・・・シドニーからの「ペイ・フォワード」恩恵者
ジェリー・・・ホームレス。トレバーからの「ペイ・フォワード」恩恵者
グレイス・・・トレバーの祖母(アーリーンの母)。車上生活者。娘アーリーンからの「ペイ・フォワード」恩恵者
自殺志願者の女性・・・ジェリーからの「ペイ・フォワード」恩恵者
シドニー・・・町の不良。グレイスからの「ペイ・フォワード」恩恵者

~「ペイ・フォワード」の系図~

・トレバー→アーリーン(母)→グレイス(祖母)→シドニー(不良)→一流弁護士→クリス(記者)
・トレバー→ジェリー(ホームレス)→自殺志願者の女性
・トレバー→シモネット(先生)
・トレバー→アダム(友人)

~《誰かに伝えたい名セリフ》~

☆トレバー:「すごく難しいことなんだ。周りの人がどういう状況か...もっとよく見る努力をしなきゃ、守ってあげるために。心の声を聞くんだ。本当は世界は...思ったほどクソじゃない。だけど日々の暮らしに慣れ切った人たちは良くない事もなかなか変えられない。だから、あきらめてしまう。でも、あきらめたら...負けなんだ」☆
1:50:00~1:51:10

~背景:
善意を「次へ渡す」ムーブメントが広がり称賛されるも、自分は勇気が出ずに次へ渡せなかったと悔やむトレバー。~

~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~

☆身なりのいい女性が陸橋から飛び降り自殺しようとしていました。ホームレスのジェリーは自分に何ができるかを必死に考えます。「一緒にコーヒーを。どうか、お願いです。おれを救うために」欄干の上の彼女にオイルで汚れた手を伸ばすシーン☆
1:23:55~1:26:08

今回の作品の『ペイ・フォワード』とは「先に贈る」という意味です。

いったい何を贈るのでしょうか。

それは「善意」です。「親切」ですね。

1人が3人に親切にする。恩を受けた人はまた他の3人に親切にする。

この作品は「ボランティアの心」の物語であり、他の人に希望を与えていく物語です。

たくさんの人に利益を与えると言う意味では、社会全体のため、一方では自分の利益に還ってくるという自己の利益のためでもあります。

損得勘定ですが、起こった結果としては自他ともにお得なのですね。

世界を幸せにする魔法の法則。

小さな少年が思いついた、世界とつながるお話です。

それでは作品に入って行きましょう。


02.高級車をタダで!?


カリフォルニアの記者クリスは警察無線を捕らえ、立てこもり現場に突撃取材します。

銃を持って外に待機する警官たち。

犯人が突然、車で突進してきて停めてあったクリスの車に正面衝突。

クリスの車は大破します。

犯人は逃走し、警官もパトカーで追従します。

現場に取り残されたクリスは見るも無惨な自分の愛車の傍らで茫然とします。

クリス:「ひどいよ」

通りがかりの男:「廃車だな」

クリス:「鋭い観察だね」

通りがかりの男:「力になろう」

彼はクリスにキーを軽快に放り投げて渡します。

通りがかりの男:「ジャガーだ」

クリス:「貸してくれるのか?」

通りがかりの男:
「いや、君にやる」
「そうしたいんだ」

クリス:「新車のジャガーをポンと?」

通りがかりの男:「そうとも、君の名刺をくれ」

クリスはポケットから名刺を取り出し、男に恐る恐る渡しました。

通りがかりの男はにこやかに平然と笑います。

通りがかりの男:「また連絡する」

クリス:「まさか奥さんを殺せとか?」

通りがかりの男:
「いや、心をそそられるが違うよ」
「見知らぬ者からの善意だ」

クリス:
「善意? だってジャガーだぞ」
「新ピカのジャガーを僕に?」

通りがかりの男:「そうだ」

クリス:
「あんた、イカれてる。頭が変だよ」
「ドアを開けたらドカンと爆発か?」
「木っ端みじんになっておさらばか?」
「だれがそんな手に乗るかよ!」


ポインセチア


03.トレバー・マッキニー少年


シーンはその4ヶ月前の話に移ります。

神経質そうな少年が周りの学生たちを見ながら歩いています。

この12歳の少年はしっかり世界を観察していました。

そんな主人公の紹介シーンなんです。

映画の始まりのシーンというのはたくさんのことが詰まっています。

登場人物のキャラクター、作品の主題、ムード、テンポ、時には結末まで教えてくれます。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の冒頭シーンを覚えていますでしょうか?

チクタクチクタクの音を響かせた時計だらけの部屋から始まって、あのピタゴラスイッチの仕掛けで犬の缶詰を開けるシーン。

科学についての映画、時間についての映画、原因と結果の物語ということが一目で分かります。

主人公の11歳の少年、トレバーはラスベガスという夢と欲望の街に住んでいます。

しかしラスベガスという都市には影があり、華やかな電飾のある明るい場所を少し離れるとホームレス、車上生活、強盗、薬物依存、アルコール依存の巣窟で悪夢のような街でもあります。

トレバーの母のアーリーンはアルコール依存で仕事を2つ掛け持ち、父親は酒を飲むとDVを繰り返す男です。

アーリーンはお酒を断つためアルコール依存の自助の会に参加し、努力していました。

しかしお酒をやめることができず、洗濯機の中、棚の上、照明器具の上にお酒を隠していました。

トレバーは母がお酒を飲んでいるのをちゃんと知っており、そのことが原因で度々喧嘩します。


04.新しい先生と新しい世界


新学期が始まる学校のようです。

教室の中はガヤガヤと騒がしいです。

教師が掲示物を見るうしろ姿から振り返り、その顔を見た生徒たちは一瞬で沈黙します。

顔中がやけど痕の先生でした。

シモネット:
「新しい先生は初めてかね」
「シモネットだ」
「中学1年生にようこそ」
「まさに中間学校」
「この地獄のような橋を渡らないと、あこがれのハイスクール・エリートにはなれない」
「渡り終わるまで何も考えず、息を殺し目を閉じていようと思う者もいるだろう」
「だが言っておく、このクラスではそうはいかない」

そこに遅刻してきた生徒が入ってきます。

シモネット:
「遅刻だ、遅滞」
「登校第一日目の最初の授業に遅れるとはどういうことだ」

遅刻した生徒:「ヘアがキマらなくて」

生徒たちは一声に笑いました。

シモネット:
「尊敬の念が足りないのだ」
「私は毎日君たちのために教室に来る」
「だから君たちも私のために来たまえ」
「時間厳守、言い訳は許さない」
「授業は社会科」
「君たちと世界についてだ」
「世界は君たちの周りに存在し、望まずとも容赦なく立ちはだかる」
「本当だ」
「では世界についてみんなで考えてみよう」
「君たちにとって世界は何を指す?」

この前まで小学生だった考え込む生徒たち。

シモネット:
「どうした?もっと意見を」
「ウンザリする教室か?」
「君たちの家?道路?」
「それよりもっと遠くは?」
「君は?」

女の子:「ショッピングセンター、3キロ先よ」

シモネット:
「別の質問をしよう」
「この町の外で起きてる事を考えることは?」
「ニュースは見る?見ないか?」
「世界の事は考えないか、なぜだ?」

トレバー:「まだ11歳だから」

シモネット:「鋭い、名前は?」

トレバー:「トレバー」

シモネット:
「そう、なぜ世界のことなど考える?」
「世界は何を期待している?」

シモネットは世界と関わるとはどういう事かを生徒たちに問います。

トレバー:「期待?」

シモネット:
「君にだ」
「世界は君に何を期待してる?」

トレバー:「何も」

シモネット:
「何も?」
「そうとも、彼の言うとおり ’何も’ だ」
「免許も選挙権もない」
「許可なしではトイレもダメ」
「この中1の教室に縛られてる」
「永久にじゃない、いつか君たちは自由になれる」

生徒たちは自由という言葉に反応して大喜びします。

一方トレバーは決して自由を信じていません。

周囲の大人を観察して決して自由ではないと考えるからだと思います。

シモネット:
「だが何の準備もないまま自由の身になった時、自分の周りの世界が好きになれなかったら?」
「もし世界が’大きな ’失望’ でしかなかったら?」
「嫌いな部分をクルリと変えてしまえ」
「ケツからひっくり返すように」
「汚い言葉は親に内緒だよ」
「それを今日から始めてみよう」
「これが君たちへの課題だ」

黒板の文字:
Think of an idea to change our world - and put it into Action!
(世界を変えるアイデアを考えて、実行に移してください!)」

シモネット:
「特別のテーマだ、これから1年間ずっと続く」
「どうした?何か文句でもあるか?」

女の子A:「それってとても...」

シモネット:「その先は?誰か言葉を続けて」

女の子B:「変よ」

女の子C:「クレイジー」

女の子D:「難しい」

男の子A:「無理」

シモネット:
「無理、難しい...ではこれは?」
「’可能’ これは可能だ」
「可能の王国は一体どこに存在する?」
「それは君たちのここだ」

シモネットは頭を指さしました。

シモネット:
「君たちならできる」
「不可能を可能に」
「君たち次第だ」
「それとも何もせず可能性を萎縮させるか?」
「 ’萎縮’ 」
「分からない言葉はそこに辞書がある、調べろ」
「そしてこの辞書はいつも持ち歩くように」
「私の授業では言葉を愛することと意味を学ぶ」
「質問は?」

トレバー:
「世界を変えないと落第?」
「そんなことはない」

シモネット:「だが 'C' に泣くぞ」

トレバー:「先生は何かしたの?」

シモネット:
「夜はぐっすり眠りしっかり朝食を食べ、学校へ時間通りに来て君たちに考えさせる」
「では辞書に自分の名前を書いて」

ある人は世界を変えるのは難しいから、自分を変えようと言います。

いい考えですが、そこには既に世界は変えられないという妥協があります。

まずは諦めずに世界を変えるという発想に立とうということだと思います。

すると、世界を変えようとするには自分も変わる ことだと気づきます。

それは「世界に関わる、コミットする」ということです。

インターネットが普及し、テレビや新聞という限られた特定の媒体が姿を消そうとしています。

自分からの発信で考えを表明できる通りが世界人口の70億通りあるということです。

今の時代は拡散の世界。

可能の王国を建設できる下地は整っています。


皇帝ダリア


05.母アーリーン


少年トレバーが見る世界。

セピア色のフィルムを貼り付けたような周りの景色。

乾いた土地。

トレーラーの廃車。

働かずたむろする若者。

集団のホームレスがドラム缶の焚き火で暖を取っています。

その中でジェリーというホームレスが菓子パンをむさぼり食べていました。

トレバーとジェリーは目を合わせました。

トレバーは彼の貧困の原因に考えを向けました。

母アーリーンはバーで働いています。

青のかつら、下着姿で客に酒を配ります。

客から酒を勧められたり、デートに誘われたりしますが、いつも上手くかわしているようです。

客との軽い会話を交わしチップを受け取ります。

家で独り留守番のトレバーに母から電話が届きます。

アーリーン:「ねえ、どうだった?聞いてるの?」

トレバー:「何が?」

アーリーン:「学校の1日目よ」

トレバー:「よかったよ」

アーリーン:「聞こえない、大きな声で」

トレバー:「よかった」

アーリーン:
「帰れなくてごめんね、また残業なの」
「怒ってる?」
「何してるの?」

トレバー:「何も」

トレバーが食卓に座ると、隣でジェリーがシリアルコーンを食べていました。

ジェリーはトレバーのお皿にシリアルコーンを入れてミルクをかけて、スプーンを取ってあげます。

何とも不思議で滑稽なシーンです。

アーリーン:「スパゲッティは?」

トレバー:
「食べてるよ」
「もう切るよ」

息子をいつも気にかけていて、母の愛情が分かるいいシーンですね。


06.アルコール依存


深夜遅く帰宅したアーリーンはトレバーが寝ているのを確認します。

そっとガレージに行き、床に座って一瞬考えます。

そして洗濯機に隠してあった酒瓶を味わうことなく一気に流し込みました。

アルコール依存というのは本当に恐ろしい病です。

仕事のストレス、疲れ、夫との不和、貧困、未来への不安、過去への後悔。

これらから簡単に逃れる方法は何でしょうか?

一時的でも忘れたい。

自動的に頭に浮かんできてしまう過去、現実、未来への不安。

身も心も持ちません。

アルコールやストリートドラッグはそういった悲惨な生活から逃してくれる甘い罠です。

「回避行動」です。

ガレージには窓ガラスが割れ、ボンネットが開かれたままの壊れた車がありました。

その車の荷台でジェリーは不安そうに眠っていました。

アーリーンはベッドに酒瓶を置いたまま寝ていました。

母の帰りに気づいたトレバーは酒瓶の中身を流しに捨てます。

朝になり、親子の会話です。

アーリーン:「それが朝食なの?」

トレバーは魚肉ソーセージを食べています。

トレバー:「ママは朝食を食べないくせに」

アーリーン:
「食べるわよ」
「卵を焼くわ、一緒に食べる」

トレバー:「吐かない?」

アーリーン:「何のこと?」

トレバー:「分かるだろ?」

アーリーン:「何よ」

トレバー:「酒さ」

アーリーン:「飲んでないわ」

ウソを言われたトレバーはその場を離れようとしました。

アーリーン:
「トレバー、待って、悪かったわ」
「座って聞いてよ」

トレバー:「嘘つき!」

アーリーン:
「話がしたいの、座って」
「ちゃんと話を」

そこに見知らぬ男ジェリーがアーリーンの前に現れました。

ジェリー:
「失礼」
「トイレの紙がなくて」

アーリーン:
「誰なの?」
「出てって!早く!」

ジェリー:「すみません」

トレバー:「母さんがシャワーいいって」

アーリーン:「まさか!」

トレバー:「言ったよ」

アーリーン:「知らない人よ」

トレバー:「僕の友達だよ!」

アーリーン:「あんな人が友達?」

トレバー:「課題なんだよ」

アーリーン:「課題って?」

トレバー:「シモネット先生が出したんだ」

アーリーン:「シモネット先生ってだれ?」

トレバー:「新しい先生だよ!」


シャコバサボテン


07.母、抗議に行く


アーリーンは早速、苦情を言いにシモネットに会いに行きます。

学校の風景なのですが、至る所に掲示物や生徒の作品、アメリカ全土の地図などがたくさん貼られています。

こういう細かい雰囲気づくりが映画に人の温かみやつながりを感じさせてくれます。

アーリーン:「シモネット先生?」

シモネット:「はい、ユージーン・シモネットですが...」

アーリーンはシモネットのやけどに驚いた後、今朝の出来事を伝えました。

アーリーン:「課題って何?」

シモネット:「何がです?」

アーリーン:「息子がホームレスを家に」

シモネット:
「問題点が2つ」
「何の話なのかとあなたがだれか」

アーリーン:「アーリーン・マッキニー、トレバーの母です」

シモネット:
「トレバー...」
「思慮深く、知的追求心も旺盛、いい生徒だ」
「知的追求心とは...」

アーリーン:「分かります。なぜホームレスを家に?」

シモネット:「さあ」

アーリーン:「ウソ!知ってるでしょう」

シモネット:「息子さんの解釈だ」

アーリーン:「どう解釈したと言うの?」

シモネット:「分かりません、息子さんと話してみてください」

アーリーン:「話したわ」

シモネット:
「そうですか、ではなぜ私に聞きに来たんです?」
「課題は国家機密じゃない」

アーリーン:「だから何なの?」

シモネット:「学年の始めに出す課題です。結果は期待しませんが...」

アーリーン:「できっこないと?」

シモネット:「大事なのは結果より考えることです」

アーリーン:「できもしない課題を出すの?」

シモネット:「そうじゃない、やろうとすることに意義があります」

アーリーン:
「あなたはあの子を知らないわ」
「あなたを信じて失敗したら立ち直れない」

これは夫や母親との関係から出た思いなのでしょうか。

アーリーン:「あなたなんかすぐクビよ」

シモネット:
「そうはなりません、私は障害者だ」
「州は雇う義務がある」

アーリーン:「顔がひつれてれば何でも許されると思ってるの?」

シモネット:
「文句があるなら書面にしてください」
「意見箱に入れておきますから」

アーリーン:「あきれた、たいした人ね」

シモネット:「婉曲語法に感謝します。褒められた気分だ」


08.クリス、”次へ渡せ”を追う


シーンはまた冒頭のクリスと見知らぬ男との会話になります。

場所は大きな法律事務所または法廷のようです。

その男は一流の弁護士でした。

クリス:「車の書類が届いて驚きました」

一流弁護士:「迷惑なのか?」

クリス:「いいえ、ただあなたの指示が何のことか」

一流弁護士:「次へ渡せ(ペイ・フォワード)」

クリス:「なぜ?」

一流弁護士:「車をもらった義務だ」

クリス:「僕が知らん顔して、女でも拾ってメキシコへ逃げたら?」

一流弁護士:「君の自由だ」

クリス:
「どういうことなんです?」
「善意を運ぶ弁護士ですか?」

一流弁護士:「会議があって忙しいんだ」

クリス:
「記事にしたいんです」
「’一流弁護士、新車を他人に’」
「面白い秘話をでっち上げてもいい」
「あなたは頭が変で家は猫だらけとか?」
「待って!話を聞いてください」
「別れた妻は僕への当てつけにレズビアンになりました」
「話してください」


シクラメン


09.一流弁護士への”ロウソクの火”


一流弁護士:
「娘は喘息なんだ」
「ある晩とてもひどい発作が起きた」
「真夜中の救命救急室でいくら待っても診てもらえなかった」

シーンは病院の待合室になります。

一流弁護士:「吸入器が効かない」

看護師は弁護士を無視して隣の負傷した男に言いました。

看護師:「「どうなさいました?」

負傷した男:「妹に刺されちまって」

一流弁護士:「娘が先に待ってるんだ」

看護師:「外傷優先です」

一流弁護士:「息ができないんだ」

看護師:「お待ちを」

一流弁護士:「誰か診てくれ、ひどい状態だ」

看護師:「規則なんで座ってください」

負傷した男は喘息の娘をじっと観察していました。

一流弁護士:「4時間も待ってる、早く医者か酸素吸入の手配をしてくれ」

男は立ち上がり、看護師に言います。

負傷した男:
「おい、すぐに彼女を助けろ!」
「いいから酸素吸入しろ!」

看護師はその場を立ち去ろうとしました。

負傷した男:
「待ちなよ、あんたが責任者だろ?」
「今夜の責任者だ」
「分かったか?モタついてねえで娘さんを運んで酸素を吸わせてやれ!」
「もう大丈夫だ」
「さっさとしやがれ!」

負傷した男は拳銃を取り出して床に2発放ちました。

男は警察に連行され、代わりに喘息の娘は助けられました。

シーンはクリスとの会話に戻ります。

一流弁護士:
「彼に礼を言った」
「すると奇妙な方法で恩を返せというんだ」
「次へ渡せ。別の3人に善い行いをしろと」

クリス:
「人から人へですね」
「世直し協会か何かですか?」
「マザー・テレサの輪とか?ニューエイジっぽい」
「チベット仏教?」
「カルト集団?」

一流弁護士:
「カルトだと?」
「俺の名前を出したら裁判で高くつくぞ」

クリス:「病院にいた男の名前は?」

一流弁護士:「集団結婚式で急いでいるんだ、ははは」


10.ジェリーの「変化」


シーンはアーリーンの家になります。

アーリーンはガレージに人の気配がして、銃を持って行きます。

またジェリーがいました。

ジェリーは壊れた車を修理していました。

ジェリーは「ペイ・フォワード」するため、アーリーンのもとにやって来ました。

ジェリーは車の修理工として雇われて職を得ていました。

アーリーン:「なぜ息子があなたと?」

ジェリー:「おれを助け、立ち直らせようと、お金をくれました」

アーリーン:「お金を?」

ジェリー:「はい」

アーリーン:「あの子の貯金よ」

ジェリー:「服と靴を買い、仕事にも就けました」

アーリーンは男を観察して、その男のことを理解しようとします。

アーリーン:
「仕事は続けられるの?」
「どうやら麻薬の問題があるようね」

ジェリーの腕には注射針の痕が複数ありました。

ジェリー:「やめます」

アーリーン:「でも急にどうして?」

ジェリー:「路上生活の経験はおありで?」

アーリーン:「それに近い経験なら」

ジェリー:
「あなたには分からないでしょう、自分がゴミ箱の前に立つまでは」
「初めてゴミ箱をあさり新聞紙で眠る時に、人生を台無しにしたと思い知る」
「そしてある日、救いの手が差し伸べられる」
「それが子供でも俺はすがりつく」
「また路上に戻ればおれは死んでしまう」

トレバーの人を観察する力と悩んでいる人への共感する力。

これが素晴らしいのだと思います。

その人自身になって考える力、その環境での生活を想像する力がすごいのだと思います。

ジョン・レノンの「イマジン」です。

♫ 想像してごらん 天国なんて無いんだと
ほら、簡単でしょう? ♫
Imagine there's no Heaven
It's easy if you try.

アーリーン:「修理は息子への恩返しね」

ジェリー:「恩を返すんじゃない」

アーリーン:「じゃ何なの?」

ジェリー:
「次へ渡せ」
「ご迷惑でしょう」
「出て行きます」

アーリーン:「次へ渡せって?」


パンジー


11.「ペイ・フォワード」はユートピア(架空の理想世界)?


トレバーが授業の発表で「ペイ・フォワード」を皆に説明します。

トレバー:
「ここに3人います」
「まず僕が彼らを助けます」
「何か大きなこと」
「本人ではできないようなことをやってあげます」
「彼らもまた3人ずつ助ける」
「これで9人」
「この9人がまた3人ずつ助ける」

同時に家でジェリーがアーリーンに「ペイ・フォワード」を説明しています。

ジェリー:
「これで27人になる」
「数字は苦手ですがたちまち大人数になる」

トレバーの提案に対し教室では色々な意見が出ていました。

シモネット:
「静かにしたまえ」
「意見はちゃんと言え」
「君は?」

アジア系の女の子:「いい考えよ」

ショーン:「バカらしい」

アダム:「信用第一」

一番前の女の子:「みんなズルする」

トレバー:「君がだろ?」

シモネット:
「みんな君の考えがユートピア的すぎると言う」
「’ユートピア’の意味は後で調べて」

トレバー:
「パーフェクト・ワールドみたいな?」
「だからどうなの?」

シモネット:「どうしてそんなアイデアを思いついた?」

トレバー:「だって...」

アーリーンとジェリーの会話とシンクロしています。

ジェリー:「’世の中はクソだから’って」

アーリーン:「あの子が言ったの?」

ジェリー:
「2人でいろいろ話しました」
「ご心配なく、もう話すのはやめますから」

アーリーン:
「いいえ...そんなこと言わないで」
「コーヒー飲む?」

ジェリー:「はい、飲みます」

コーヒーの誘いがいいんですね。

海外では人と仲良くなるのにコーヒーのお誘いのシーンが多いですね。

『ベルリン・天使の詩』の中でも天使と元天使が街のカフェで語り合います。

ピーター:
「見えないがいるな?」
「感じるよ」
「君の顔が見たい。君には話す事がいっぱいある。友達だからさ、兄弟!」

コーヒーを飲む以上のものを受け取るんです。

自分の価値・存在を認めてもらえる喜び。

トレバーの発表ののち、他の生徒も目を輝かせながら、世界を変える独自の方法を語ります。

希望に満ちたキレイな眼の子どもたちです。

シモネット:
「実に多彩で驚くべきアイデアばかりだ」
「’多彩’という言葉も調べろ」
「今日聞いた1つの案に注目したい」
「何年も教えているがまったく新しい発想だし、人々の善意を信じることで成り立っている」
「トレバーは世界に対して働きかけをした。」
「課題のテーマに合ってる」
「私が大げさで感情的な人間なら’何と見事な!’と絶賛するだろう」
「今日の言葉は ’ユートピア的’ ’不可解’ ’定量’ ’多彩’ だ」

下校の風景になります。

スクールバスの乗り場にたくさんの生徒が集まっていました。

トレバーはシモネットに近づき、話しかけます。

トレバー:「ただのお世辞?」

シモネット:「何が?」

トレバー:
「僕の案を褒めた」
「いいと思った?」
「それとも教師の役目?」

シモネット:「役目?」

トレバー:「口先だけ」

シモネット:「私がそう見えるか?」

トレバー:「別に、だけどいい人にも見えない」

シモネット:「つい口が滑った。二度と褒めない」

少しの間、二人に沈黙が走りました。

シモネット:「何だ?」

トレバー:「顔をどうしたの?」

シモネットは向こう側にいたトレバーの友人たちがこちらを見ているのに目が合います。

ここでシモネットはトレバーが顔のやけどの事を調査する役目で話しかけてきたのだと勘ぐってしまいます。

シモネット:
「貧乏くじを引いたのか?」
「社会科とは関係ないだろ?」
「みんなにそう言え」

トレバー:「誰に?」

シモネット:「また明日」

シモネットは車に乗り込み去っていこうとします。

トレバーはうなだれて歩いて行きますが、友人たちの輪を通り過ぎて行きます。

その様子を見たシモネットは ’しまった’ と思います。

シモネットは顔についての劣等感から思い込みをしていました。

「自動思考」ですね。

彼にも弱さがありました。

このシーンは人をよく見るということが隠されているのではないかと思います。

偏見や先入観なく相手を観察する力。

「ホーム・アローン」でも主人公の少年が鳩としか交流しないおばあさんと仲良くなる所がありますね。

きっと子供の方が人を素直に見ることへの障害が少ないのだと思います。

私たちは世界、相手を見る時、色メガネで見てしまいます。

「どうせ~にちがいない」
「~であるべきだ」
「彼もまた他と同じで~だ」

など。

相手をきちんと見るということは自分のことをしっかり理解しているということ。

自分の考えが現実と合っているのかの確認をいつもしていることだと思います。


12.失敗


家庭環境もあり、世界に対して希望を持てないトレバー少年。

シモネットとのふれあいに失敗しました。

水のない枯れ葉だらけのプールが映し出されます。

トレバーの満たされない空虚な心のようです。

トレバーはジェリーの様子を見に彼の家にやってきました。

その時、ジェリーはドラッグの誘惑に負けていました。

トレバー:
「ジェリー?」
「出てきて、ジェリー」

ジェリーは出てきてくれませんでした。

トレバーは考案した課題の難しさを知りました。

ノートに書いた3人のイラストの一人ジェリーにバツをしました。


クリスマスローズ


13.ウソと本音


二人目に ’シモネット先生’ と書き込みます。

母アーリーンとシモネットを付き合わせる作戦です。

手紙を書いて母と先生を親密にさせようとしました。

アーリーンたちはロウソクに火をつけてテーブルの準備をしたトレバーの考えを見破ります。

そのままアーリーンとシモネットは夕食をともにします。

トレバーの事、二人お互いの事を少しだけ知ることができました。

突然友人のボニーが来てしまい夕食は終わってしまいます。

アーリーン:
「これはどういう事?」
「私の名前で手紙を出したの?」

トレバー:「台無しだよ」

アーリーン:
「余計なお世話なのよ」
「盗み聞きしてたの?」
「おなかが痛いのはウソなの?」

トレバー:「自分もつくだろ」

アーリーン:「こんなこと迷惑なのよ」

トレバー:「ママのためなのに」

アーリーン:「ねえ、トレバー、男と女はそう簡単には好きにならないわ」

トレバー:
「一緒に酔っぱらえる相手だけ?」
「今もあいつを待ってるにちがいない」

アーリーン:「いいえ、違うわ」

トレバー:「そうだよ!」

アーリーン:「パパはもう...忘れたわ」

トレバー:「いつも口先だけ」

アーリーン:「本当よ」

トレバー:「うそだ」

アーリーン:「どう言えばいいの?本当なのよ」

トレバー:「あいつが家にいると僕のことは知らん顔のくせに」

アーリーン:「ウソよ」

トレバー:「本当だ」

アーリーンはダメな夫でも、自らの寂しさと天秤をかけています。

愛情不足のトレバーが分かります。

アーリーンはトレバーにキスをしようとしますが、トレバーは身をかわし拒絶しました。

アーリーン:「愛してるわ。何が不満なの?」

トレバー:「ママなんか嫌いだ」

アーリーン:「やめなさい」

トレバー:「母親失格だよ!」

トレバーは本音のない包容を見抜いているんですね。

怒りが込み上げたアーリーンはトレバーを思いっきりぶってしまいました。

その直後、我に返り後悔します。

アーリーンはショックで涙を堪らえきれず、一心不乱に酒を求め、家中を探し回ります。

このシーンでアルコール依存症をリアルなまでに表現しています。

まるで強盗のように家の備品を退けながら酒をさがす姿。

そんな母の姿や物音を聞きたくないトレバーは、そっと自室のドアを閉めて耳を塞ぎます。

トレバーの心を襲う「クソな世界」。

過去からの母と父のケンカの罵声、破壊音、すすり泣き。

酒を見つけ飲み干すアーリーンですが、思いとどまって吐き出しました。

その間にトレバーは家出をしました。

車のないアーリーンはシモネットに助けを求めました。

アーリーン:
「ごめんなさい、ボニーは留守だし警官は来ないし友達はアル中ばかりだし...私もよ」
「私もアル中なの」

シモネット:「でも君は克服しようとしている」

長距離バスターミナルでアーリーンとシモネットはトレバーを保護しました。

アーリーン:
「あなたをぶったことは死ぬまで後悔すると思う」
「お酒は飲まなかった。飲みたかったけど」
「信じてくれないわね」
「約束なんか、聞き飽きたでしょ?」
「だから正直に言うわ」
「本当は苦しいの」
「お酒がやめられなくて」
「でもやめたいの」
「あなたがそばにいて、’大丈夫、ママはできる’ と信じてくれるなら...たぶんやめられる」
「だからお願い」
「ママを助けてほしいの」

本音を聞いたトレバーは母と抱き合いました。

傍らでシモネットは見守っていました。

修羅場をむかえるというのは本当に大事な事です。

我慢し、表情を隠し、日常を過ごす。

孤独になり、哀しみが堪えきれず、いつかは溢れ出してしまいます。

弱さを受け入れ、本当の姿を相手に見せ、助けを求める。

それを目の当たりにしたシモネットは家の外で感慨深げに考えていました。


14.シドニーへのロウソクの火


クリスは一流弁護士に「ペイ・フォワード」したシドニーに刑務所で面会します。

シドニー:
「善い行いを3つやる決まりなんだ」
「あと2つはこのムショの仲間にしてやるつもりだ」

クリス:「だれに言われた?」

シドニーは自分が思いついたとウソを言います。

虚言癖の男です。

クリス:「なぜ思いついた?」

シドニー:
「この世はクソだ」
「汚い言葉ですまない」
「そこでおれは思ったんだ」
「世界をよくしてやろうと思って」
「ウソじゃない、おれは悪い事ばかりやってきた」
「でも、おれは生まれ変わった」
「世界を変える」
「みんな、おれの言うことを聞き、悪事から手を引く」
「宇宙版アリストテレスみてえなもんよ」

クリス:「でもシドニー、なぜ君は次へ渡したんだ?」

シドニー:「だれもおれがそんな事すると思ってないからさ」

シドニーは不良で素行が悪い男です。

彼に「ペイ・フォワード」をさせたのは何でしょうか?

それは社会との「役割」ではないかと思います。

社会との「つながり」と言ってもいいかもしれません。

シドニーの心の中の無価値感、社会からの疎外感から、抜け出したいという切なる気持ちからだったのではないでしょうか。

パーティーに参加するには人脈が必要で、コンサートに入場するにはチケットが求められます。

ですが本当は「役割」という行為だけで社会と「つながる」ことができます。

クリスはコネを使って、シドニーを釈放させてやります。

シドニーにエピソードを聞き出すためですね。

シドニーはラジカセを強奪してパトカーに追われている所をある老女に助けられたと言いました。

酒屋から酒を買って車に乗り込む老女。

逃走中のシドニーに遭遇します。

老女:
「追われてるの?」
「乗って!」

シドニー:「乗れ?」

老女:「早く乗って!」

シドニーは老女の車に乗り込みパトカーの追っ手から逃れました。

この時舞台がロスからラスベガスに移るんですね。

ねぐらに辿り着き、早速酒を飲み干す老女でした。

シドニーはどうしようもない婆さんだなという顔をしていました。

シドニー:「俺をどうすんだ?」

老女:「好きにおし」

シドニー:「よせやい、あんたのシワだらけのケツは願い下げだ」

老女:「あたしゃ、あんたほど臭くないよ」

シドニー:
「そうかい」
「よし、どうしろって?」

老女:「別にいいさ。どうせやりっこないだろ」

シドニー:「あったりめえよ」

シドニーはタバコを一服しはじめました。

老女:「禁煙なんだよ」

シドニー:
「この車はあんたの家かよ」
「カーテンを汚すなってか?」

老女:
「くそったれ野郎め」
「とんだバカに渡したもんだ」

シドニー:「”渡した”だって?」

老女:「話してやるもんか、こんなろくでなしに」

シドニー:
「ふざけんなって」
「教えろよ」
「話してくれってば」


サザンカ


15.ベガスの夜のデート


シモネットとアーリーンは何とかデートの約束をします。

アーリーンが残業で遅れてしまって、急いで支度するシーン。

トレバーの異様な陽気なところがとてもかわいいです。

アーリーン:「40分も遅刻をしちゃってる」

トレバー:「電話は?」

アーリーン:「レストランの名前を忘れてしまって」

トレバー:
「遅刻は嫌われる ’尊敬してない’ って」
「遅刻は尊敬してない証拠だって」
「これを着て」

アーリーン:「グリーンのを」

トレバー:「吸血鬼みたいだ」

アーリーン:「シャワーを浴びるわ、汗臭くて」

トレバー:「大丈夫だよ」

トレバーは脇に芳香スプレーを手際よく吹きかけました。

トレバー:「バラみたいにいい香り」

アーリーン:
「せめて、わきの下だけ...」
「本当に平気?」

トレバー:
「完璧だよ」
「あと、話の途中で口を挟むのも嫌われるからね」

アーリーン:「
手を上げて発言しなきゃだめ?」
「ねえ、サンダルを取って」

トレバーはハイヒールを差し出します。

アーリーン:「ダメよ、セクシーすぎるわ」

トレバー:「遅刻っていう先生への借りがあるでしょ?サービスだよ」

アーリーン:「借り?何を言ってるの?」

トレバー:「それにくだらないジョークは禁物だよ」

アーリーン:
「ご忠告どうも。電話でタクシーを呼ぶわ」
「バスじゃ、もっと遅れちゃうわ」
「タクシーを呼ぶわ!」

家の前ではすでにトレバーがタクシーを呼んで待っていました。

トレバー:「来てるよ!」

アーリーン:
「すごいわ!」
「何て気がきくの!世界一の子よ」
「愛してるわ」

トレバー:「僕もさ」

トレバーの早口で小気味のいいテンポの楽しいシーンですよ。

シモネットとアーリーンはデートを重ねます。

シモネット:「お休み」

アーリーン:
「ちょっと寄らない?」
「泊まっていって」

シモネット:「トレバーがいるから」

アーリーン:「ぐっすり眠ってるわ」

シモネット:
「問題を難しくしたくない」
「ボニーはあと1年は待てと」

アーリーン:「分かったわ」

アーリーンを演じる女優さん、相手の話を引き出す表情を出すのがとても上手なんですね。

相手を理解しているという表情、じれったいという表情、言いたいのを我慢しているという表情。

人との会話ってこういうのが理想なんだなと思う演技力です。

ヘレン・ハント、いい女優さんです。

シモネット:「僕は...できないよ...」

アーリーン:「ごめんなさい」

シモネット:
「ああ、そういう意味じゃないんだ」
「つまり...」

アーリーン:「何なの?」

シモネット:「とても複雑で」

アーリーン:「私をそんなふうには好きじゃないのね」

シモネット:「本当にそう思っているのか?」

アーリーン:「いいのよ」

シモネット:「そんなはずないだろ」

二人はキスしますが、シモネットは過去の複雑な思いからかその場を立ち去ってしまいます。

ラスベガスの郊外の丘の上のアーリーン親子の家。

そこから見渡せる夜景がキャンドルのように優しく揺らめいていました。


16.境界線を越えて


アーリーンはシモネットの本音を知りたくて、彼の家に押しかけます。

シモネット:「どなた?」

アーリーン:
「私を見下してるの?」
「私をバカだと?」
「あなたみたいに賢く話せないから?」

シモネット:「唐突だな、要点は?」

アーリーン:「そんな話し方、やめて!」

シモネット:「こうしか話せない。僕には言葉がすべてなんだ」

アーリーン:
「なぜそう思うの?」
「ひどい顔をしてるから?」
「私は平気なのに」
「あなたは気にしてるの?」

シモネット:「そうだ」

アーリーン:「やけどの痕があってもあなたはすてきよ」

シモネット:「君もすてきだ」

アーリーン:「じゃ、どうして?」

シモネット:「こんな関係になったのは初めてだ」

アーリーン:
「だから不安なのね、私もよ」
「苦労ばかりしてきたわ」
「お酒を飲まずに男と寝られない」
「でもあなたを求めてる。不安もあるけど」

シモネット:
「君は僕を分かってない」
「僕の人生は、すべて僕自身のものなんだ」
「ちゃんと気持ちを管理できる」
「毎日きちんとね」
「その日やるべき事は全部頭に入ってる」
「いつも同じ手順だ」
「でもそれをしている限り...安心だ」
「でないと自分を見失ってしまう」

アーリーン:「管理できる毎日があなたの望みなの?」

シモネット:「そうだよ」

アーリーン:「それは違うわ」

シモネット:「いやそうだ、ずっとそうしてきた!」

アーリーン:「信じないわ」

そういってアーリーンはシモネットにキスをしました。

アーリーン:「私だからいやなのね」

シモネット:「違うよ」

アーリーン:
「私は気持ちを打ち明けたのに、それをあなたは拒んだ」
「傷つくのが怖くて勝手に結論を出すのね」

シモネットは傷つくのが怖くて自分にバリアを張ります。

外からも入れませんが、内からも出れません。

アーリーンがバリアに触れた瞬間、シモネットはいっそう必死に身を守ろうとします。

アメリカ人はこういう修羅場を必ずつくりますね。

修羅場を乗り越えることが最善の解決だという考えが浸透しているからです。

相手への干渉ではないんですね。

自分の気持を大事にしています。

まず投げかけて見るんです。

日本人はここで我慢してしまいますね。

気持ちを抑圧して日常に戻ってしまいます。

解決を先送りしているんですね。

子供のため、世間体のため、暮らしのため。関係を壊さないため。

そしてフタをしてしまいます。

そのツケは自身の体に、心に、子供の感情にいづれやって来ます。


オキザリス


17.変わる勇気


トレバーの友人のアダムが上級生にいじめられていました。

トレバーは止めに入りますが、恐怖心が出て動けませんでした。

トレバーはノートの2人目シモネット、3人目アダムにバツを記しました。

意気消沈するトレバーにシモネットが励まします。

シモネット:
「トレバー」
「授業をさぼったな」

トレバー:「もう4日だよ」

シモネット:「何のことだ?」

トレバー:「なぜ4日もママに電話しないの?」

シモネット:「分からない」

トレバー:「ひどいよ」

シモネットはトレバーの悩みを察します。

シモネット:「何かあったのか?」

トレバー:
「”次へ渡す”は失敗だ」
「うまくいかなかったんだ」
「アダムを助けようとしたけど...」

シモネット:「助けるって何を?」

トレバー:
「やつらに殴られないように」
「でも怖くてダメだったんだ」
「僕は救えなかった」

シモネット:
「君のせいじゃない。できない事もあるさ」
「時には仕方がないんだ」

トレバー:
「僕ができないのはフェアじゃない」
「先生には分かるもんか」

自分とシモネットを「勇気」で結びつけます。

トレバー:
「ママに電話してよ。勇気が出せばできる」
「なぜ腰抜けなの?」

シモネット:「そうじゃないんだ」

トレバー:「手遅れになっちゃうよ」

シモネット:「手遅れ?何がだ?」

トレバー:「あいつが戻ってくるんだ」

シモネット:
「誰が?」
「一体、誰が?」
「お父さんか?」
「お父さんが戻るのか?」
「戻ったらどうなるんだ?」
「君に暴力を?」

トレバーは小さく首を振りました。

シモネット:「お母さんに?」

トレバー:「誰かがいれば..そうはならない」

シモネット:「トレバー、今の僕にはあまりに複雑すぎて...」

トレバー:「だから世の中なんてクソ何だよ」

シモネット:
「そんなことはない」
「君はとてもよく頑張った」
「君を誇りに思うよ」
「心からそう思う」
「大事なのは努力だ」
「結果で採点はしない」

トレバー:
「もう点なんかどうでもいいんだ」
「僕はどうしても世界が変わるのを見たかったんだ」

シモネットは「変わる」ことの意味を考え込みました。

それには「覚悟」「想い」が必要なのだとわかります。


18.土曜の夜と日曜の朝


アーリーンは冷蔵庫の中を掃除して生活習慣を変えようと努力しています。

シモネットは勇気を抱えてアーリーンを訪ねました。

アーリーンは少し驚いた表情を見せましたが、笑顔でシモネットを迎え入れます。

そして一夜を共にしました。

朝、トイレでシモネットとトレバーは鉢合わせをしてしまいます。

シモネット:「トレバー!」

トレバー:「うまくいった!」

シモネットはパンツ姿で慌ててアーリーンの部屋に逃げかえりました。

シモネット:
「もう起きてる!」
「まずい、あの子に見られた」

アーリーン:「平気よ」

アーリーンの落ち着きと頼もしさは何なんでしょう。

シモネット:「教師だぞ」

ドアの外からトレバーは言います。

トレバー:「次へ渡してね。ユージーン!」

シモネット:「”シモネット先生”だ」

シモネットは慌てて家に帰ろうとします。

トレバー君はしつこく追いかけます。

トレバー:「泊まったの?」

シモネット:
「ベッドに戻れ」
「まだ学校には早いから」

トレバー:「今日は日曜日だよ」

シモネット:「えっ今日は日曜?」

アーリーン:「そうよ」

アーリーンは満足げに余裕の表情でうなずきます。

トレバー:「ママが朝食を作ってくれるよ」

シモネット:
「日曜には日曜の予定があるんだ」
「どいてくれ」
「アーリーン、後で電話するから」

トレバー:「いつでも来てね!」

興奮したトレバーの口をアーリーンは塞ぎます。

トレバー:「彼、好き?」

トレバーのしつこくまとわりつくところがとてもかわいいです。


ネメシア

19.架け橋


ジェリーが大きな陸橋を歩いていると、身なりのいい女性が橋の上から飛び降りようとしていました。

ジェリー:「何してるんです?」

自殺志願者:「お願い、来ないで」

女性は涙ながらに言いました。

ジェリー:「僕は何もしませんから」

女性はバッグをジェリーに放り出し、別の場所から飛び降りようとします。

自殺志願者:「あげるわ」

ジェリー:「どうもありがとう、でも僕は要らないです」

女性は橋の欄干に登り飛び降りようとしました。

ジェリー:
「何のマネです?」
「おれは何もしないから」
「おれの話を聞いてください」
「何してるんです」
「どうする気?そこから下りてください」

自殺志願者:「なぜ止めるのよ」

ジェリー:「恩があるんです」

自殺志願者:「それは私にじゃないでしょ?」

ジェリー:
「なぜそんなことをしているんです?」
「ついさっきまでおれはどうしてもヤクが欲しかった」
「でも、あなたを見て気が変わったんだ」

自殺志願者:「もう消えて。私は救う価値などない人間だわ」

ジェリー:
「なぜそう思うんです?」
「答えて。なぜ価値がないと?」

自殺志願者:「だってそうなのよ。あなたには分からないわ」

ジェリー:「おれだってつらい目に会って来たんだ」

ジェリーはアーリーンにコーヒーを誘われたのを思い出したようです。

とても嬉しかったんですね。

ジェリーは精一杯のおどけた顔でジャンプしながら女性に言います。

ジェリー:「僕と一緒にコーヒーを飲みましょう!」

すると女性はそんなジェリーの笑顔を見て、泣きながらですが笑いが込み上げて来ました。

人は泣きながら笑えるんですね。

悲しみながら笑えるんです。

悲しみから微笑みに変わる、人の一番美しい瞬間だと思います。

笑いが人に注がれる時、悲しみが去り、また悲しみそのものを受け入れ始めます。

種子から葉が出てくる映像のように、羽化する瞬間のさなぎのように、神秘的な一瞬の変化です。

ジェリー:
「どうか、お願いです」
「おれを救うために」

女性が欄干から下りるのを手助けするのに差し出したジェリーの手。

彼の親指の爪には車のオイルがこびりついていました。

汚い手ですが、女性にとっては清らかな聖なる手でした。


20.悪夢がふたたび


アーリーン、シモネット、トレバーはテレビでプロレス中継を見ていました。

プロレスが好きなトレバーは大はしゃぎでレスラーのパフォーマンスを演じます。

安全基地があると人はその居心地の充実感から様々な活動を繰り広げていきます。

小さな喜びの表現から大きな創作活動まで。

”エジプトはナイルの賜物”

幸せ、絶頂のトレバーのシーンでした。

そこに突如アーリーンの夫、トレバーの父親がやってきました。

ジョン・ボン・ジョヴィが演じる夫です。

幸せの時間が崩れ去ります。

退散するシモネットをトレバーは窓からじっと見つめていました。

トレバーはとても不安げな表情をしていました。

トレバーは自室にこもり、憂鬱としするようになります。

シモネットは日課のアイロンかけに没頭して気持ちを落ち着かせていました。

アーリーンはシモネットに会いにきました。

夫を迎え入れたことを説明します。

アーリーン:「ごめんなさい、許して」

シモネット:「今さら何の用だ?」

アーリーン:「分かってほしい」

シモネット:「説明なんか必要ないよ」

アーリーン:
「そんなふうに言わないで」
「一緒に13年暮らして初めて2人ともシラフになったわ」

シモネット:「それはおめでとう」

アーリーン:「だから彼にチャンスをあげたいの」

シモネット:
「チャンス?」
「何のための?」

アーリーン:「生まれ変わってやり直すためよ」

シモネット:「トレバーと野球に行ったり父親らしく?」

アーリーン:「ええ、努力するって約束してくれたの」

シモネット:「目を覚ませよ」

アーリーン:「彼はトレバーの父親よ」

シモネット:
「君を妊娠させただけだ」
「父親とは言えない」
「暴力を振るうのが父親か?」

アーリーン:「トレバーには暴力はないわ」

シモネット:
「そうとも、君にだけにね」
「殴るのは君だけ。ずっとマシだよな」

アーリーン:「トレバーに何を聞いたの?」

シモネット:
「十分すぎるほど聞いたさ」
「やり直すなんてトレバーが哀れだ」

アーリーン:「夫は酔ってたからなの」

シモネットは何かを思い出し、込み上げた怒りが放たれます。

シモネット:
「自分への言い訳か?」
「”私を殴るのならトレバーは安心だ”と?」
「あの子はトイレにこもり、息もできず”早く終わって”と祈る」

アーリーン:「違うわ」

シモネットは買い物袋を放り出して涙を浮かべて、何かを思い出していました。

シモネット:
「君に何が分かる!」
「君の次にトレバーが殴られない保証でもあるか?」
「僕は散々見た」
「僕の父はひざまずいて母に懇願し、母はいつも父を受け入れてた」

僕はあえて「依存」という言葉は使いません。

この言葉を使うとあなたが勇気を出して人に愛をもらう行動ができなくなるからです。

アーリーンやシモネットの母親には夫しか頼る者がいなかった。

現実を冷静に考える心が疲弊しており、心の中は不安感でいっぱいでした。

周囲には”藁(わら)”しかすがるものが無かった。

シモネット:
「理解できなかった」
「母は傷だらけで父を許してた」
「父が泣いて頼んだからだ」

この父親は5歳の幼児なんですね。

体だけ大人に成長してしまった。

愛する能力のない人間です。

妻を母代わりとして甘え尽くしていました。

駄々をこねる方法が泣くことから暴力へと変わっただけ。

別れを切り出されると泣いて懇願する幼児。

妻も彼なしには生きていけない無価値感を宿した人間。

二人とも、幼児性と自己犠牲で縛られた離れられない関係です。

シモネット:
「どうなったか私に聞けよ」
「なぜ僕がこんな体になったかを」

アーリーン:「やめて」

シモネット:「”暴力を振るわれたの?”って聞けよ!」

アーリーンは同情した表情でシモネットに言われるまま尋ねました。

アーリーン:「暴力を?」

シモネット:
「長い間じゃない」
「13歳になる前に家出したよ」
「でも母が懐かしくなると会いに戻った」
「そんなある晩...」
「聞けよ。”何が起きたの?ユージーン”って」

アーリーン:「何が?」

シモネット:
「父がいた。相変わらず酔ってた」
「だが僕はもう16歳になっていて父など怖くなかった」
「僕は父を見据え”母を殴ったら殺す”と言ったんだ」
「父には分かった。僕の中にもう父は存在しないと」
「僕は家の前に立ち、母に叫んだ」
「”我慢する必要はない”」
「僕と一緒によそへ行こう”と」

妻を奪われると思ったのでしょう。

法を破り、阻止しにきました。

シモネット:
「その時、父が木材で殴りかかり、耳から血を流す僕をガレージへ引きずっていった」
「そして水を持ってくると僕にぶちまけた」
「濡れながら思った」
「”なぜだろう、どうして水が臭いのだろう”と」
「なぜか分からなかった。その時見たんだ」
「そこにはガソリンの缶が...」
「あいつのトラックのガソリンの缶」
「あいつはゆっくり僕を見て、マッチをすった」
「僕が覚えているのは忘れもしない、あいつの目だ」
「あの目にみなぎっていたのは...果てしない...満足感だった」

アーリーン:「気の毒に...」

シモネット:
「やめろ!僕に同情などするな!」
「トレバーを悲劇から守れ」

アーリーン:「リッキーはそこまでしないわ」

シモネット:
「暴力を振るわなくても同じだ...」
「...愛情がなければ」

家に居座るようになったアーリーンの夫は仕事を探さず、また酒を飲み始めました。

懐かない息子に罵声を浴びせます。

アーリーンと夫の口論にトレバーは自室に閉じこもりきりでした。

トレバーの部屋に逃げ込んだアーリーン。

おびえたトレバーの表情を見て悟りました。

アーリーン:「選択ミスね」

トレバー:「だれでもミスはあるよ」

その頃、クリスはカリフォルニアから終にはラスベガスにまで辿り着きます。


ドウダンツツジ


21.選択ミス


放課後トレバーは一人教室に残り、シモネットと話します。

シモネット:「トレバー、どうしたんだ?」

トレバー:
「”次へ渡す”のはやめたの?」
「先生はやる義務はないよ」
「どうせ失敗したし」
「でも、先生ならやるかと...」

シモネット:
「君のために喜んでやるつもりだよ」
「...その時が来ればね」

トレバー:「待ってる人がいるよ」

シモネット:「その話は...」

トレバー:「だれか分かるでしょ?」

シモネット:
「いいかい...」
「君に理解できないこともあるんだ」
「だからムリを言うな」

トレバー:「もう一度チャンスをあげてよ」

シモネット:
「...必ず次へ渡すよ」
「でもそればかりはムリなんだ」

トレバー:
「だからこそやるんだよ」
「難しいことが条件だもの」
「怒ってるだろうけど、ママを助けてあげて」

シモネット:「ママに頼まれたのか?」

トレバー:
「ママはあきらめてる...」
「でも僕はできると思う」
「先生が本当にやりたいなら...」

トレバーは理解していました。

それが本当に’可能’かどうか。

手を伸ばせば届くのか。

当人が欲しているものなのかどうか。

トレバーは涙ながらに説得します。

トレバー:
「だれかのため、僕の課題のため...」
「僕のために」

ジェリーも女性を救うために言いました。

「おれを救うために」と。

それは渡す者が条件を達成させるためだけではありません。

渡す者が「ペイ・バック」してもらうためにです。

「ペイ・フォワード」とは「ペイ・バック」されることによって2度受け取ることができる「優しさ」なのです。

3人なので4回受け取ることができる幸せの法則です。

シモネット:「彼女の決断なんだ」

アーリーン:「ママはミスだったって」

シモネット:「あとから何とでも言えるよ」

トレバー:「先生は ’次へ渡す’ なんてどうでもいいんでしょ?」

シモネット:
「そうじゃない」
「君のことはいつも気にかけているとも」

トレバー:「教師だもの、それが仕事だしね」

トレバーはシモネットに失望し、教室をあとにしました。


22.母と娘


ラスベガスに着いたクリスはシドニーに渡した老女を探し当てます。

老女:「お酒は?」

クリスはウイスキーの瓶を老女に渡しました。

老女:「話が聞きたけりゃもう1本くれないかい?」

クリス:「きっとそう言うと思ってましたよ」

クリスは懐に隠してあるもう1本を見せました。

老女は震えた手を伸ばします。

クリス:「ダメです、後で」

老女:
「私には”場所”があるのよ...」
「朝まで車を止めて寝る場所や生活する場所がある」
「私に会いたい人はそのどこかを探せばいい」

どうしてこのような言い方をするのでしょうか?

いつも自分は待っている。誰かが来てくれるのを。

暖を取りながら、誰かが渡してくれるのを。

希望を持ちながら、待っている。

そして過去のシーンに遡ります。

路上で焚き火をして暖をとる老女。

老女に会いに来たのは何とアーリーンでした。

老女はアーリーンの母だったのです。

グレイスという女性です。

アーリーン:「ママ...」

グレイスは驚いた表情で言いました。

グレイス:「何の用なの?」

アーリーン:「会いにきたの」

グレイス:「3年も来ないで...」

アーリーン:「ママのこんな生活見てられなくて」

グレイス:「車で家の前を通ったわ...」

アーリーン:「知ってるわ」

グレイス:
「あの子、あんなに大きくなって」
「何しにきたの? まさか...」
「私を施設に入れる気?」

アーリーン:「いいえ」

グレイス:「じゃ何なの?」

アーリーン:
「やらなきゃならないことがあって」
「私が子供の頃のいろいろな出来事...」
「お酒や...それに男や...ママに隠れてされた事...」

アーリーンはすべてを受け入れるように言います。

アーリーン:「人は弱いわ」

グレイス:「あんたは違う」

アーリーン:
「いいえ、弱い人間だったわ」
「私が今日来たのは...」
「ママを許すわ」

一時も目を外さずに話す娘を、その母は黙って受け入れました。

どちらも「勇気」が要ることだったでしょう。

グレイスは話す内容を変えました。

グレイス:「その髪嫌いよ」

アーリーン:「でも変えないわ」

何気ない会話の中に「こんな私でも受け入れてくれる?」

「私も昔と変わらないわよ」と2人の会話が聞こえてきそうです。

アーリーン:「たまには会いたいわ。構わない?」

グレイス:「ええ」

アーリーン:「一緒に住めない?」

グレイス:
「ムリよ」
「あんたじゃ(私は荷が重いと思うわ)」
「あの子に会ってもいい?」

アーリーン:
「シラフならね」
「せめて2時間だけでもシラフでいられる?」

グレイス:「大丈夫よ」

アーリーン:
「いいわ」
「じゃあその時は迎えに来るわね」

グレイス:「なぜこんなことをするの?」

シーンはクリスとの会話に戻りました。

グレイス:
「アーリーンはその理由を話してくれた」
「3人の人間に善い行いをしなければならないって」


カルーナ


23.誕生日プレゼント


シーンが変わり、トレバーの誕生日パーティーが開催されています。

アーリーン:
「♫ ハッピバースディ・トゥ・ユー ♫ ハッピバースディ・トゥ・ユー ♫ ハッピバースディ・ディア・トレバー ♫ ハッピバースディ・トゥ・ユー」
「♫ アンド・メニー・モア」(これからもたくさんの幸せを!)

このような続きの歌詞があるのは知らなかったですね。

おばあちゃんのグレイスが綺麗な服を着て、そっと参加しています。

考えてみると、誕生日会というのは巨大な「善意」そのものですよね。

訪問者がドアをノックする音が聞こえてきました。

シモネットではないかと思い、トレバーは玄関のドアを開けました。

それはやっと発案者の元にたどり着いたクリスでした。

トレバーは残念そうな顔をします。

トレバーはアーリーンと交代しました。

クリス:「マッキニーさん、記者のクリスです。お話を」

アーリーン:「なぜ?話すことなんかないわ」

クリス:
「お母様があなたのことを教えてくれました」
「”次へ渡せ”について記事にしたくて」

アーリーン:
「ダメよ、それは個人的なことよ」
「息子の社会科の課題だけど、失敗したの」

クリス:「社会科の課題?」

アーリーン:
「そっとしておいて。中学1年だし」
「悪いけど誕生パーティーだから」

クリス:
「はるばるロサンゼルスから取材しにやって来たんです」
「このムーブメントは今やロサンゼルスまで」

アーリーン:「ムーブメント?」

クリス:「息子さんは何を?」

そこには泡の出るスプレー缶で無邪気に遊ぶ12歳の少年がふざけていました。


24.決意


トレバーは学校の教室でインタビューを受けることになります。

クリス:「感謝します」

アーリーン:「息子が自分で決めたのよ」

クリス:
「準備OK?」
「インタビューは初めて?」
「いい顔してね」

シモネットも教室に現れ、アーリーンと顔を合わせます。

クリス:
「じゃあ、スタート」
「ユニークな中学生を紹介します」
「トレバー・マッケニー君です」
「自分が誇らしいだろ?」

トレバー:「別に」

トレバーは笑顔で答えます。

クリス:「自慢に思わない?」

トレバー:「よくわからない」

クリス:「”次へ渡せ”のムーブメントを起こしたのに?」

トレバー:
「まあね。社会科で”A”をもらったけど」
「努力が評価されただけだ」
「結果は失敗だったよ」

クリス:「でも注目をあびたね」

トレバー:
「うん、でも...」
「一生懸命、努力したけど僕は何もできなかったんだ」
「ママはできたよ」
「おばあちゃんとの仲直りは大変だったはずだ」
「僕の誕生日に来てくれてうれしかった」
「会えなくて寂しかったから」
「”次へ渡せ”が広まったのはママのお陰だよ」
「ママは勇気があった」

じっと聞いていたシモネットは目を閉じます。

トレバー:
「でも中にはとても臆病な人たちもいる」
「”変化”が怖いんだ」

シモネットはメガネを外しうつむきました。

トレバー:
「本当は世界は...思ったほどクソじゃない」
「だけど日々の暮らしに慣れ切った人たちは良くない事もなかなか変えられない」
「だから、あきらめる」
「でも、あきらめたら...負けなんだ」

インタビューののち、息子の言葉を考えながらアーリーンは外の景色を眺めていました。

シモネットが決意の表情でやって来ます。

シモネット:
「アーリーン...」
「あの子が言ってたような人間に、僕はなってしまってた」
「無意味な人生は...もう嫌だ」
「暗闇に見捨てないでくれ」

アーリーン:「もちろんよ」

シモネット:「君なしでは生きられない」

トレバーのインタビューにシモネットが勇気をもらった瞬間でした。

捨て身でアーリーンに助けを求めました。

そんな人間を誰が拒否できるでしょうか?


アイビーゼラニウム


25.ともしび


友人のアダムがまたいじめられていました。

トレバーは今度こそ「勇気」を振り絞って自転車で体当たりしました。

一人がナイフを取り出し、トレバーは刺されてしまいました。

トレバーのインタビューが全米に流されました。

ニュースの声:
「悲しいお知らせがあります」
「この少年は今夜7時35分亡くなりました」
「”次へ渡せ”はロサンゼルスを始め、今や全米各地に...」

別のニュースの声:「親のない子供たちにパソコンが届いた件も関連性を調べています」

トレバーのインタビュー:
「すごく難しいことなんだ」
「周りの人がどういう状況か...もっとよく見る努力をしなきゃ」
「守ってあげるために」
「心の声を聞くんだ」
「直してあげるチャンスだ」
「自転車とかじゃなく...」
「”人”を立ち直らせる」

クリス:「誕生日の願いは”次へ渡せ”の広がり?」

トレバー:「叶わないよ」

クリス:「どうして?」

トレバー:「もう遅いよ」

クリス:「なぜ?」

トレバー:「ローソクは吹き消したから」

アーリーンはトレバーの死を悲しみ、気力をなくし、薄暗い部屋でろうそくを灯し、やがて眠りにつきます。

シモネットは窓の外を眺めました。

シモネットは眠るアーリーンをそっと起こして、外の様子を見ました。

そこにはたくさんの人々が続々と明かりの灯ったろうそくを持って献花に訪れてきていました。

キャメラは上空に引いていきます。

無数のろうそく、その後ろには丘の上にやってくる弔問の車のランプの光りが、ラスベガスの夜景まで連なっていました。


26.世界を救うためにできること


今一度、「ペイ・フォワード」のしくみを考えてみましょう。

まとめてみます。

ルール1:自分ができることの範囲内で他の誰か(3人)に何かをしてあげる。
ルール2:贈られた人はルール1を次の人へする

3の21乗=3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3
10,460,353,203

地球の人口は70億人なので21番目で達成できるという計算です。

でもそこには障害があります。

障害1:中には守らない人がいるでしょう。
障害2:守ることが不可能な人もいるでしょう。

障害3:親切にする人が重なってしまう。
↑一時的に停滞するだけなので、やがてすべての人に「善意」が行き渡ると思います。

次は「ペイ・フォワード」をする目的や意義についてです。

目的1:世界をよくしたい(人のため)
目的2:自分が良い世界に住みたい(自分のため)
目的3:恩を返したい(自分のため)

意義1:世界平和
意義2:幸福を平等に
意義3:自己肯定感を得たり、自己実現の達成ができる
意義4:ボランティア精神の育み
意義5:世界と関わりを持てる。コスモポリタンなのだと感じる

ではその難易度を見てみましょう。

難易度1:他人の悩みを見つけることができるのか?
→その人を本当に理解することが必要。

難易度2:悩みを解決することができるのか?
→自分ができることに限られる。
→お金で解決できることもたくさんある。
→☆受け取る「勇気」、贈る「勇気」が必要。変化が伴う。☆

この時、人を幸せにするには?

大きく分けて3つだと思います。

「心理的解決」ーーー貧困者や幼い子供でも可能。
「金銭的解決」ーーー富のある者が可能。
「専門的解決」ーーー技術、知識ある者が可能。

この作品は「世界と関わること」と「勇気」がテーマだと思います。

自分の「能力」と「勇気」をどれだけ人のために使うことができるか?...です。

「返報性の法則」というものがあります。

友人や近所の人に何かをしてもらった時や物をいただいた時に何か違う形でお返しをしなければいけないという心情です。

本心からお返しをしてあげたいと思う人、

相手が見返りを求めているだろうと想像する人、

慣習だから仕方がないと思う人、

恩の返し方は様々で、心に善意がない場合もあります。

それでも、誰もが世界をよくしたい。

皆さんそう思われています。

一人ひとりが心の底で願っています。

災害、貧困者、戦争被害者、難治性の病人への募金。

献血。

街の清掃。

世界には「優しい」方々がたくさんおられます。

しかし、達成の難しさを私たちは知っています。

不足する物資、資金、技術、心理的ケア、セーフティーネット。

では、難しくしているのは何なのでしょうか?

自分自身がまず一番に救われたいという切迫した状況があります。

健康な人であれ、お金持ちであれ、著名人であれ、誰もが心に不幸を宿しています。

「不安常住」

救いたいという前に救われたいという欲望との葛藤がいつも繰り広げられています。

そしてもう一つ、救いたいけれど傷つきたくないという葛藤があります。

チャンスは一瞬なんです。

救われた瞬間に誰かを救うことです。

感謝の心があるうちに...。

多幸感があるうちに...。

心のろうそくの火が燃え盛っているうちに...。

自分が満たされているからこそ「おすそ分け」できるんです。

「ペイフォワード」が優れているのは、心が冷めないうちに「先へ贈る」というタイミングでもあります。

贈る者は「勇気」が必要です。

ジェリーはトレバーのお小遣いで服を買い、食事をし、生きる意欲を一時的に取り戻します。

ですが薬物依存という強敵が立ちはだかります。

それに打ち勝たないと誰かに「ペイ・フォワード」できないのです。

貰ったものは「きっかけ」なのだと思います。

希望の「種火」です。

心の救いを贈られたと同時に、「勇気」を捧げることを強いられる聖なる条件です。

車のバッテリーが消耗し、他の車に電気を流してもらう。

ですが、エンジンをかけるのは自分です。

ギアをあげるのも自分です。

他力からやがて自力へ。

最初からこの「勇気」を自分を救う力として使用すれば、他人に救いを贈られる必要はないと思われるかもしれません。

ですが、打ちひしがれた人の「勇気」のロウソクは風前のともし火です。

消えかかっているのです。

人は億人億色です。

人によって境遇が違います。

貧困、病気、事故、家庭環境、別離。

必要としているものが異なります。

不足している能力や知識、技術、考え方。

求めるものが違います。

だから多様な何本もの「ろうそく」の火が必要なのです。

「ろうそく」の火を他人に分けることで、自分の火が弱まるでしょうか?

消えてなくなるでしょうか?

心の火はそのような性質のものではありません。

もし消えてしまうとすれば、それは「自己犠牲」です。

ルール違反なのです。自分が精一杯できることが条件です。

「善意」「親切心」「勇気」...「優しさ」は無限大です。

広がる、伝播するという性質があるのです。

自身の心の中で自己肯定感が増し、どんどん燃え上がります。

心の火は消費し尽くすものではないのです。

自分の心の中にある絶えず燃えているもの、「生の欲望」がある限り命とともに燃え続けてくれます。

アーリーンは母グレイスに幼少期の過ちを許しました。

その心の火はどこから来たのかわかるでしょうか?

それは息子のトレバーが気づかせてくれたことです。

トレバーのつらい気持ちを共感し、そばに居てくれることへの感謝し、その「優しさ」がアーリーンの心の底にあった母への思いのドアをノックして、母を許すことを「ペイ・フォワード」に選んだのだと思います。

もう一つ、シモネットの感情を探ってみます。

「防衛単純化」という言葉があります。

彼にとっての「とらわれ」は家族に愛されなかったことです。

心無い父親から身体にガソリンをかけられ火を付けられたことです。

体のやけどが消えることのない焼け痕となりました。

同時に彼の心にも消火できない、親への愛と憎しみが生まれます。

シモネットはやけどの傷痕に執着することで、すべての世の憂いをそのせいにしてしまいます。

杭に繋がれている犬が杭の周りを回ります。

次第に紐の半径が短くなり、杭に絡みついて身動きが取れなくなります。

シモネットはそういう状態でした。

他人との心のふれあいを避け、毎日決まった規則正しい生活を課し、他を寄せ付けない文語口調で我が心を触れさせぬように自身を守ります。

彼にもまた「勇気」が必要でした。

「生の欲望」を心の奥底から掘り出してくれたのはトレバーでした。

シモネットには克服しなくてはならないものがありました。

彼に必要なのはただただ「行動」することです。

浮かんでくる不安、恐怖、怒りに「あるがまま」耐えて行動することです。

「先に贈る」ためには何ができるのでしょうか?

ホームレスのジェリー自身はドラッグを断つ「勇気」。

次の相手の自殺志願女性に対してできることは、

彼女の心に共感すること。

それでも生きた方がいいという理由を心から彼女に示すこと。

ジェリーはジェリー自身のために彼女に生きてほしいと言いました。

コーヒーという何気ない幸せ。

人との触れ合いを提案することができました。

ホームレスのジェリーにもこれだけのことができるのです。

いいえ、人より多く傷ついた者だからこそ、他人により共感できます。

「優しさ」を贈ることが彼には可能でした。

シドニーには何ができたか?

彼は救急病院で負傷の痛みを我慢し、弁護士の娘の命を救いました。

自身のダメージと眼の前の他人のダメージを比べ、臨機応変に順番を譲ります。

彼の機転と少々の横暴性のおかげで、弁護士の娘に順番が回されました。

トレバーは自ら考案した「ペイ・フォワード」の実現可能性について悩みます。

友人のアダムがいじめられているのを助けることができませんでした。

「勇気」が出せないのです。

世界をよくしたい、よい世界に住みたいと思ってはいましたが、彼は発案者なので、誰からも贈られてませんでした。

母、父、ジェリー、シモネットへの「諦め」、そして世界への「諦め」。

勇気が出せない自分への「諦め」。

すべてクソな世界。

しかし母親、祖母、友人たちに囲まれて祝ってもらった誕生日会。

母が「勇気」を出して祖母を許したと知ります。

アーリーンは母グレイスとの仲直りすることで、知らない内にトレバーに「贈って」いました。

トレバーに「勇気」の炎が灯り、アダムを助けに行きました。

結果はとても残酷で悲しいものになりました。

しかし「ペイ・フォワード」するのに必要なものは決して「自己犠牲」ではありません。

「優しさ」を贈ることに「自己犠牲」は必要ありません。

そこに「自己犠牲」があったとすれば、自分の無価値感から来るものです。

存在価値を他人に認めさせる行為です。

それは「優しさ」ではありません。

必要なものはトレバーがインタビューで言った「変化を恐れない心」です。

救われるというのは同時に「変化」を強いられることなのです。

今、自分は悲惨な世界の中にいる。

それでも、これ以上の不幸は来てほしくないという「恐れ」がまだあります。

現状が地獄なのにそれ以上の地獄に堕ちるかもしれないという不安。

なので人は「変化」を拒みます。

全身が震えてしまい、その一歩が出せません。

「優しさ」は自分が相手のために「能力」と「勇気」を使って精一杯することです。

私はそれを「感謝」の気持ちから来るものだと思っています。

人は満ち足りた気分に「感謝」した時、誰かに分け与えたいと自然に思います。

そういう人間本来の性質として「優しさは無限大」なのです。

お気づきかと思いますが、この「感謝」は人から贈られるだけのものではありません。

自然の美しさを見て感謝する。

植物の生命を感じて感謝する。

動物のまなざしを受け止めて感謝する。

一杯のコーヒーやお茶を楽しめることに感謝する。

出会えた本に感謝する。

手足が動くことに感謝する。

仕事がうまく行ったことに感謝する。

身近な人の笑顔に感謝する。

なにげない些細な幸せでも「感謝」することでろうそくの種火となりボワッと燃え広がります。

他人の人生に関わること。

おせっかい?

大きなお世話?

他人の人生を背負うな?

ではなぜ人は他人に共感する力を持つのでしょうか?

「誰でも不幸を背負ってるんだ。お前だけじゃない。我慢しろよ。」と言うためでしょうか?

「優しさ」を受けると嬉しいし、「優しさ」を贈ることも嬉しいし、二人の間で「優しさ」が無限に跳ね返り続け、3人、4人、5人と伝播して心地よい暖かな世界になるからではないのでしょうか?

自分と他人との境界はとても大事です。

恩着せがましくなったり、贈り物が間違っていたり、相手の時間を奪ってしまったり。

見返りを求めたり、贈り物にケチをつけたり、自分の時間を削りすぎてしまったり。

「ペイ・フォワード」は自己犠牲せず、自分の価値を押し付けず、相手の気持ちになって、勇気を出せば、きっと成し遂げられる行為だと信じます。

この作品では家を尋ねるシーンが数多く出てきます。

家主は愛情深い笑みで「 Come in! 」と出迎えてくれることでしょう。

長文をお付き合いくださり、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

今の世の中、各種SNSで人の心を比較的簡単に知ることができます。

もしあなたがこれから出会う人の思いに共感することができたならば、その思いに”いいね”を押すことで次に渡すことができるのではないでしょうか?

今回もお読みくださり大変ありがとうございました。

また次に作品でもお会いしたいです。

いつもだれかに「ペイ・フォワード」。

それでは、また。

アキノキリンソウ


27.関連作品


『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ロバート・ゼメキス監督
『ホーム・アローン』クリス・コロンバス監督
『ベルリン・天使の詩』ヴィム・ヴェンダース監督


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