人間


「健全な精神は、健全な肉体に宿る。」

その通りである。
皮肉を窓際に並べる人は、
皮肉を綺麗に並べる余裕しかない。

賛辞を述べるものは
自ずとたたずまいを魅了し、
表情にも華があるものだ。

「健全な精神は、健全な肉体に宿る。」

だが、それに該当するのは動物だけではないか?
植物も基本的には当てはまる。
だが、"ヤツ"はどうであろうか。
"ヤツ"は枯渇した地でも、
灼熱のもと生きながらえる。
"ヤツ"は無茶苦茶インスタ映えで、
観賞する人の心を癒す。

…何を隠そう、"ヤツ"とはサボテンだ。
なんだあいつ、すごくない?

「健全な精神は、健全な肉体に宿る。」

サボテンは本当に健全なのか?
灼熱の下、なぜそこに留まれるのか。
なぜ水分を要さないのか。

「健全な肉体に、健全な精神は宿る。」

世界を放浪している私は、
サボテンの街にたどり着く。
暑さの中微動だにしない彼等に向かって
「暑くないん?」
と、態度デカ目にに問いかける。
バイト先の先輩が新人くんに
「どう?慣れた?」と先輩面するときのテンションで。
待てど暮らせど返事はない。
だが、絶対に聞こえている。
私の直感はそう言った。
この暑さの中返事するのが面倒なだけだ。
暑さと闘い、悟りの境地に達している感を出しているだけに過ぎないのだ。

こうなれば私も負けてられない。
足元を見ながら相手を威嚇するように舌打ちをし、
「暑くないんってきいてるやん?」
昭和のヤンキー張りのテンションで問いかけた。
それでもサボテンは沈黙を貫き通したのだ。

カッとなった私は、
「ちょっとそこで待っときな」
と言い放ち、目の前で足を使い、相撲の土俵を書いた。
即席の土俵がそこにはできた。
強制的にサボテンを土俵に連れ込み、
呆れ返ったサボテンの顔を見ながら相撲を始めた。
しかし、その間に気付いてしまったのだ。

「あれ。試合する相手、違ったやん。」

サボテンはサボテンという機能を与えられたなか、サボテンとして生きる。
人間もそれに過ぎないではないか。
どうやら暑さに対する自己防衛の末路が、
まさかのサボテンへの八つ当たりだった。
この太陽は汗とともにこの答えをもたらした。
もっと早く気づくべきだった。

だが、今頃辞めるわけにはいかない。
自分から始めたこの試合を、
急に辞めて謝るなんて恥知らずだ---。


「健全な肉体に、健全な精神は宿る。」


あれから何ヶ月たっただろう。
もといた場所に戻った私は、
夜の静寂に包まれながらあの日のことを思い出す。
カエルの鳴き声が静かさをかきけし、
寂しさのみを置き去りにした夜。




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