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「ミッドサマー」ネタバレあらすじ感想最後にダニーはなぜあの表情を見せたのか?


0,基本情報

日本では2020年に公開されたこの作品、監督は「ヘレディタリー/継承」を手がけるアリ・アスターが、配給に関して、米国では本年4月に発表されるアカデミー賞の有力候補と名高い「ミナリ」などを抱えるA24が、日本では現在公開されている「あの頃。」などを抱えるファントムフィルムが担当している。上映時間はレンタルDVDで2時間26分となっている。日本国内最大級の映画レビューサイト、Filmarksには6万件以上のレビューが寄せられ、5点満点中3.6点となっている。


1,予告編


2,ネタバレあらすじ

本作は古い壁画のようなシーンから幕を開ける。冒頭、フローレンス・ピュー演じるダニーは妹からの連絡がないことに不安を感じ、恋愛パートナーであるクリスチャンに連絡するが、言いたいことは言えない。クリスチャンも一方的に連絡を取り、不安や悩みをぶつけてくるダニーとの冷めた関係に区切りを打つか迷っているところであった。そんな矢先、ダニーは家族の遺書とも取れるメッセージが送られていることに気づき、間もなく両親と妹が死んでしまったという知らせを受け、悲しみの叫びをあげながら涙する。
その後ダニーは、クリスチャンの友人とのパーティに同行し、そこで彼が自分に内緒で友人ペレの故郷があるスウェーデンに他の友人と行こうとしていたことを知る。その事実にダニーは傷つくが、半ば強引にスウェーデンへの旅に同行する。直近の悲しい出来事やドラッグの効果に時々悩まされながらも、なんとかペレの故郷、ホルガ村に到着する。
白い服を着たホルガ村の住人にダニーら7人?を加え早速夏至祭、そして村の儀式が始まる。軽い食事を済ませた後に一行が目撃したのは、ホルガ村の住人2人が高所から飛び降りるというなんとも恐ろしい光景だった!しかも二人目の住人は飛び降りても奇跡的に生存していたが、他の住人がハンマーで顔面を砕き、完全に息の根を止めるという殺人の光景まで見せられたのであった。恐ろしい光景を見せられ、不安な気持ちが高まり村を出たがるダニーに招待した張本人であるペレは寄り添う。
翌日、マークはホルガ村で全ての村の故人に繋がるとされている先祖の木に用を足してしまい、ホルガ村の住人一人から責め立てられる。一方、ダニーと共に村に来たコニーは昨日の恐ろしい光景を見て村を出て行くと荷物をまとめたが、パートナーのサイモンはコニーを置いて村を出たと村の住人から告げられる。その夜、大学の論文テーマをホルガ村に設定していたジョシュは村に置かれている聖書を撮影するというタブーを犯し、それが住人に見つかって背後から棒で殴られてしまう。翌朝、ジョシュだけでなくマークの姿も寝床より消えていた。
その日、ダニーは謎の飲みものを口にし、最後まで踊り続けられた者が女王になれるというダンスの大会のようなものに参加し、見事女王となる。女王となったダニーが儀式を行っているなか、クリスチャンは村の女性住人と性行為に及んでいた。自分のパートナーが他の女性と性行為に及んでいる状況を目撃したダニーはひどくショックを受ける。行為を終えたクリスチャンは逃げ惑い小屋の中へと入るが、そこには体をひどく引き裂かれたひどい状態のサイモンの遺体があった。それに夢中になっていたクリスチャンは背後から近寄る住人達に気づかず、謎の粉末を吹きかけられ意識を失ってしまう。
意識を取り戻すと、最後の儀式その詳細について明かされる。内容はホルガ村内部の人間4人と外部の人間4人、そして女王が候補から選んだ1人を足した合計9人が生け贄として捧げられるというものだった。既にサイモンとコニー、マークとジョシュは死んでいたのである。ホルガ村内部の候補1人と外部の候補クリスチャンからダニーが選択したのはクリスチャンであった。ダニーは9人の生け贄が捧げられた建物が火に包まれていく様子を見て、はじめは叫びをあげるものの、ホルガ村の住人達の叫びを聞いて見て、崩壊していく建物を見ながら最後には笑みを浮かべるのだった…


3,感想(さらに詳細なネタバレ有)

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まず感じたのは、伏線が非常に多いという点である。本作は開始一秒から伏線が張られるので一秒たりとも油断できない。何を意味しているか全くわからず、ついつい存在を忘れてしまうこのシーン、これはこれから起こる出来事を要約したものだと考えられる。この衝撃といったら他にない。他にも、上の画像もまた伏線の一つで右側はクリスチャンがこれから取る行動、左側はその結末を表しているものと考えられる。これらが置かれている場所はカルト的な村なので設定上の不整合性はあまり感じず、自然な形かつわかりやすく伏線が張られていた。一回目では見逃したり、意味がわからなかった絵やシーンも二回三回と見ていく内に気づくことがあるかもしれない。何度でも楽しめる作品の代表格だろう。


次に本作の魅力として、明るい恐怖というものがあると思う。ホルガ村の住人は夏至祭に白を主体にした服を着ている点、夏至という1年で最も太陽が顔を出す明るい日、中盤以降昼のシーンが多い、楽しいダンスのシーンなど、映像自体は明るいがどこか漂う不穏な雰囲気が印象的だ。見た目には現れない暗さがそのような雰囲気を生み出しているのだろうか。例えば、作中にオトギリソウだと考えられる花が登場する。黄色という明るい色の花瓶をつけた美しい花だが、花言葉は「迷信」「敵意」「秘密」「恨み」と明るいとは言えないものである。


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明るい恐怖の例として、このペレという人物が挙げられると思う。彼は表面上はホルガ村内部の人間ではないクリスチャンやマークらの良き友人である。だが、冒頭ではホルガ村にいく理由を旅行や90年に一度行われる夏至祭としていながら、彼はホルガ村の出身であるので、当然ながら儀式で生け贄を捧げることは知っているにもかかわらず、その内容を仲間に詳しく話すことはなかった。ここから、ペレは近親相姦がタブーとされているホルガ村に外部の血をもたらしホルガ村を存続させるため、そして何よりも夏至祭の儀式に必要な外部の血を持つ生け贄を捧げるためにホルガ村に呼んだ黒幕なのではないかという考察が浮上するように思われる。

そしてこれらの要素は、バイオリンの不協和音やホルガ村の住人が話すスウェーデン語・謎の言語、ルーン文字の不透明さによってさらに強くなっていた。


映像的に興味を持ったのは対称的なシーンが多いことである。タイトル「MIDSOMMAR」(スウェーデン語で夏至の意)に対して始まりの季節は冬。良い意味で期待を裏切られた。さらに幻覚や思い込みとダニーの心情変化という観点から、序盤でダニーがドラッグのようなものを摂取した際、幻覚が見えたり、変な思い込みで彼女自身の心が大きく乱れてしまった。だが、中盤のダンス大会の前に同じくドラッグに似たものが入った飲料を摂取し、同じように視界がおかしくなるなどの変化が出てしまうが、ここではむしろ気分が高揚して楽しさや明るさが見え、暴走するほどの不安は感情とは無縁であった。この変化を見るに、物語を見て鑑賞者が考える感情曲線がプラスからマイナスへ、知り合いの人数が減っていくという頂点から底辺まで墜ちていく流れと真逆で、ダニーの感情曲線は序盤で底辺に墜ちてから上がり続けている。これらは先述した明るい恐怖という相反する二つの概念の共生、繋がりを想起させる。

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本作で最も印象的だったのはこの画像のシーン。恋のパートナーであるクリスチャンが自分ではない女性と性行為に及んでいるシーンを目撃し、悲しみに嘆くところをホルガ村の女性が寄り添ってダニーと同じように悲しみの叫びを挙げながら彼女の感情を共有するシーンである。物語序盤はダニーは序盤は過去のトラウマや不安な気持ちを思いだしてしまった時、トイレに行ったり友人のもとから離れたりと、自らの感情を爆発させるときには孤独になっていた。中盤からはダニーにまずペリーは寄り添い、このシーンではさらに多くの人間がダニーに寄り添っている。これまで自分の感情をシャウトできなかったダニーが自らを理解せずとも共感はしてくれる他人を見つけた瞬間であった。


最後に、全鑑賞者にとって衝撃的なシーンとなったダニーの笑顔について記述する。ダニーが笑顔を見せた理由、それは「決別と安心感」からだと私は思う。ダニーのつらい気持ちを真摯に想像せず、面倒くさいのでクリスチャンとの交際を終わらせた方が良いと考えた者は全員生け贄として捧げられて死に、ホルガ村の夏至祭、最初の儀式にてご老人2人が崖から飛び降りた際、ダニーが大きな叫び声を上げ、他人の痛みや感情を想像した存在者が生き残った。神聖な場所の中に居る村外部の人間と外に居る村外部の人間は、他人の感情を共有してあげられる者とそうでない者という区別で隔てた。また、それがホルガ村の家族と部外者という区別にもなった。自分の感情を打ち明けられる居場所を見つけた安心感、そして対して自分のことを気にかけてくれなかった者、表向きの関係との決別とありったけの皮肉の意を込め、彼女は最後に笑顔を見せたのではないだろうか。物語中盤にてダニーが見た、他の友人が自分を置いて村を出る悪夢は、良い夢として正夢になったのである


SNS等を見る限り、胸糞映画だと言われている本作だが、私はあえてこの言葉を贈りたい。

この映画はハッピーエンディングだ。


画像元・引用・参考

映画「ミッドサマー」公式サイト

MOJIの映画レビュー「「ミッドサマー」ネタバレ解説5 生贄の儀式、クマの意味、ラストシーンの意味」

花言葉ー由来「オトギリソウの花言葉」

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