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NCT#03|NCTの世界観考察 全体観篇

NCTの魅力は彼らの音楽性、人間性だけではない。NCTの世界観は実はとても壮大で、”夢”を基軸にした大規模なストーリー設計の中で繰り広げられる。彼らがカムバックするたびに伏線回収が行われることから、おそらくこの大規模な世界観は彼らがデビューした時から緻密に練り上げられたもので、この先もさらに深く繰り広げられていくものと想像する。

メンバーそれぞれの役割や起きた出来事に対する因果が時を経るごとに紐解かれ、さらなる展開を見せていく壮大なNCTの世界観。これがNCTの魅力の一つ。音楽性、人間性はもちろんのこと、それらが象られ、彩られ、生きる土台となる世界観の奥深さにも目を向けてほしい。今回はそんなNCTの世界観について、ファンダムの中で唱えられている説や自分なりの考察を体系立ててまとめてみたいと思う。
※あくまで個人の考察にとどまります。
※「NCT 2021」の考察は別の記事で書こうと思います。(一部本記事でも言及)

NCTの世界観

NCTの世界観で重要なキーワードは、”Dream(夢)”と”Empathy(共感)”。2018年2月に公開された「NCTmentary」で語られている。

NCT는 꿈을 공유한다. 
NCT는 각자의 꿈속에서 음(音)을 가진다. 
비로소 음들은 하나 되어 음악이 된다. 
우리는 꿈속에서 공감한다. 

NCTは夢を共有する。
NCTは夢の中でひとつの音を持つ。
音は1つになって初めて音楽になる。
僕らは夢の中で共感する。
NCTmentary EP1. Dream Lab

世界各地には”夢”を共有することができるNCTがいる。NCTは開放性と拡張性に焦点を当てたグループで、メンバー数に制限がなく、様々な組み合わせで構成することができる。NCTを繋いでいるのは”夢”であり、彼らは”夢”を介していつでも会うことができる。そして、”夢”の中で”共感”し、”音楽”でひとつになる。( - NCTmentary EP1. Dream Lab

つまり、NCTメンバーは、一人ひとりが夢の中でひとつの”音”を持ち、彼らの”音”が一つになることで”音楽”が生まれる。メンバーの数だけ音の数が増え、多様で多彩な音楽が誕生するため、メンバー数や組み合わせに制限はないのだ。

彼らが夢の中で出会うことができるのは、”共感”を感じたとき。私たちは日々、様々な状況に直面し、その中で様々な思考をする。そして時に、それらの考えや思考が交わりあうことがある。それは言葉で表すとするなら”共感”。”共感”を感じたとき、彼らは”夢”の中で出会うことができるのである。( - NCTmentary EP3. Empathy

NCTの世界観”夢”とは

夢の概要
”夢”とは、実現させたい希望、理想、一連の思考、イメージ、感覚。睡眠中の人の心に発生する。夢を見ている間、脳の中では記憶の映像作用が起こる。夢は無意識の表出で、過去の経験、日常生活などに影響を受ける。睡眠は5段階に分かれていて、1段階~4段階は”ノンレム睡眠”、5段階は”レム睡眠”を意味し、ほどんどの夢はレム睡眠時に見られる。睡眠の循環周期は90分。( - NCTmentary EP1. Dream Lab

■レム睡眠
骨格筋が弛緩して休息状態にあるが、脳は活動し覚醒状態である。運動機能は制止されているが、大脳皮質は覚醒時よりもむしろ強く活動しており、脳の強い活動の反映として夢を見る。このとき脳波は覚醒時と同様の振幅を示す。新生児期は睡眠時間のおよそ半分を占めるが、年齢と共に徐々に減少していく。睡眠の深さ(脳波の活動性)によってステージ1~4(浅い→深い)の4段階に分けられる。
櫻井武『睡眠の科学』講談社, 2017より改変
厚生労働省『e-ヘルスネット』より抜粋

レム睡眠は幼いほど長いとされており、デビュー当時全員が未成年だったNCT DREAMのメンバーは深い眠りの中にいる様子が見られる。

NCTmentary EP1. Dream Lab

夢の階層構造
NCTの世界は5階層から成り、この階層構造については、「NCTmentary EP5. Back to the Reality」の中で語られている。

ある時点で、現実は限界を持つ世界となった。現実では、想像力と無限の可能性は限界の中に閉じ込められている。そんな現実の限界を打破し、夢を現実のものにするために『DREAM LAB』はつくられた。23個(=メンバー23人,2021年時点)の夢の欠片は互いに出会い、他の階層の夢へと進み再び現実に戻る。宇宙よりも広く深い夢を通して出会った彼らは、現実に制限されず、風よりも軽く、夢の終わりまで飛んでいける。
NCTmentary EP5. Back to the Reality

このことから、『DERAM LAB』はいわゆる夢実験室で、NCTメンバーは実験対象者なのだろう。おそらく彼らはお互いの夢を行き来したり、繋いだりする実験の対象となっているのではないか。そしてそれらの様子はモニターを通して観察・監視されている。つまり、彼らの活動は彼らの夢の中で形成される出来事であり、私たちはそれらを世界観の外から見ているのだ。

夢の階層構造はPhase1~Phase5で、各階層の状態は以下の通り。
Phase1:Reality(現実)
・いわゆる一般的な現実ではない(※後述)
・眠っていない状態
・理想や目標のない無力な状態

Phase2:Dream(夢)
・一般的な夢
・ただ夢を見ている状態

Phase3:Synchronization of Dreams(共有夢)
・夢は記憶を通して繋がる

Phase4:Dream in a dream(夢中夢)
・共有夢を介してより深い夢を見る
・この段階で夢は現実に影響を与える

Phase5:Back to the Reality(現実回帰)
・深い夢のあとの現実は、夢の前の現実と少し違う
・共有夢を介して繋がった夢の中で共感を感じ、
 共有夢を介して失われた現実の欠片が一つにつなぎ合わされる。
 そしてそれが現実になる。
・理想を実現できる状態

一般的にいう”夢”は”現実”の世界で見る。そして目覚めると再び”現実”を意識するだけであって、実際に”現実”そのものに変化はない。しかし、NCTの世界観はそれとは異なり、”夢”→お互いに出会う”共有夢”→さらに深い夢の中の夢”夢中夢”と垂直的に深い階層へと潜っていく仕組みになっている。彼らは共感を通して夢の中で出会い、どんなことも実行できる。まさに”無限”と”拡張”の世界なのだ。そして、重要なのは、彼らの世界観では、”夢から覚めるとそれが現実になる”ということ。彼らが共有夢を介して繋がり、実現させたい希望や理想、一連の思考、イメージ、感覚それらを成し遂げようと実行し目覚めることができれば、それらは現実のこととなるのである。

NCTの世界観の基調『INCEPTION』

NCTの世界観は、クリストファー・ノーラン監督の映画『INCEPTION(インセプション)』を基調としていると考えられる。

『INCEPTION』は「他人の夢に侵入し、秘密を抜き取るプロが、他人の夢の秘密を盗む代わりに相手の潜在意識にアイデアを植え付けるという危険なミッションに挑戦する(Netflixあらすじより改変)」映画。ここではNCTの世界観を理解するのに重要な部分を抜粋していく。
(※以下、映画のネタバレになる可能性があります)


夢の世界は多階層構造。第一階層の夢の世界で夢を見ると第二階層へ、第二階層で夢を見ると第三階層へ…という構造になっており、深くなればなるほど時間の経過は遅くなる。夢の世界では現実世界の20倍時間が遅く、現実世界の10時間が夢の第一階層では1週間、第二階層では6カ月、第三階層では10年近くに凝縮されていく。各階層はそれぞれ上の階層の影響を大きく受けるため、深い階層に潜れば潜るほど、上の階層の影響(の連鎖)で夢は不安定になる。

KICK(キック)
夢から覚めるための手法。睡眠状態でも人間の三半規管は機能しているため、平衡感覚を崩すことで強制的に眠りから覚ますことができる。例えば、水が張られたバスタブに落下する、椅子を倒す、ジャンプして落下する、など。

DREAMER(ドリーマー)
その夢の主(ホスト)のこと。夢の世界は複数人で共有することができるが、夢の各階層ごとにドリーマーが必要で、ドリーマーが死亡すると階層は崩壊する。ドリーマーは夢共有装置で共有する人全員を眠らせ、自分はそこにとどまり、キックでみんなを目覚めさせる重要な役割を持つ。

夢の世界の構造・設計
夢の設計には遺伝学者ライオネル・ペンローズと数学者ロジャー・ペンローズ親子が考案した『ペンローズの階段』を応用した理論が実践される。これは、エッシャーの絵画でも有名な一種の騙し絵で、三次元では存在し得ない無限に上昇する階段である。『INCEPTION』では、ミッション遂行がストーリーの大筋であるため、ミッションのターゲットが存在し、ターゲットに夢の階層を意識させないために用いられている。

鎮静剤
夢の世界を安定させるためのもの。深い階層に行くほど敏感になり起きやすくなるため、より強力な鎮静剤が必要となる。鎮静剤を用いて長い間夢へ潜り込むことができるが、鎮静剤が強いとキックでしか覚醒ができなくなる。

TOTEM(トーテム)
夢の中にいるのか現実世界にいるのかを判断するための道具。コレと決まっているわけではなく人によって異なる。劇中では、主人公はコマを愛用しており、回り続ければ夢の中、途中で止まれば現実という設定だ。

『INCEPTION』から見るNCTの世界観(考察)

NCTで行われている夢実験の概要
映画『INCEPTION』では主人公がこう語るシーンがある。

夢っていうのは見ている時は現実だと思っている。目が覚めて初めて変だと思うんだ。君だってそうだろう。ここからが夢って分かって見てる夢なんて無いはずだ。いつだって気付くと、夢の世界に入ってる。彼らにとっては夢が現実なんだ。
映画『INCEPTION』

”夢”と”現実”は意外と曖昧なものだ。NCTの世界観でもこの考え方は多分に表現されており、”Phase1:Reality(現実)”は、おそらく、いわゆる一般的な”現実”ではない。『DREAM LAB』では物が宙に浮いており、重力が狂っていることが分かる。実験対象者であるNCTメンバーに”夢”だと気づかれないためにあえて”現実”と説明しているのではないだろうか(メンバーに気づかれないようファンをも騙しているのではないか)。『INCEPTION』ではドリーマーの状況が夢の世界に影響を与えており、物理法則が崩れ重力異常が生じていた。夢の世界は重力や天気が乱れたり異常を起こすという前提に立つと、おそらく夢実験室である『DREAM LAB』もいわゆる一般的な現実ではないと考えられる。繰り返すが、彼らの世界観は我々が今いる”一般的な世界”とは異なる、あくまで彼らだけが感じられる世界観であり、私たちはそれらを世界観の外から見ている。そして、重要なのは、おそらくNCTメンバーである彼ら自身が、自分たちが繰り返し深い夢を見ているということそのものを認識していない状態であるということである。

”Phase1:Reality(現実)”と言われている実験室『DREAM LAB』は、マークが“EVERYTHING IS POSSIBLE, HERE IN MY DREAM”と言っていることから、”Phase1:Reality(現実)”はマークの夢の中であり、マークが夢の主(ドリーマー)だろう。マークはNCT 127, NCT DREAM, NCT U全てに属しているため、NCT全員を繋ぐ役割を担うことができ、ドリーマーとして適任。世界観を表現する映像コンテンツの多くで始まりと終わりはマークのナレーションになっていることからも、NCTの夢実験における重要な役割を果たしていることは明確。

“EVERYTHING IS POSSIBLE, HERE IN MY DREAM”

また「NCTmentary」中で、ジャニとヘチャンの役割についても明言されている。ジャニは”experimenter(実験者)”で、5階層の”レム睡眠”から夢を見ているメンバーたちをフィルムを通して観察・監視している。ヘチャンは”chronicler(記録者)”で、”공감을 느낀날 이면 우리는 꿈에서 만나곤 했다. (共感を感じた日には、僕たちは夢で会ったりした)”と語っており、すでに起きたことに対して語る様子が見られる。ヘチャンもマーク同様全てのユニットに属していることから傍観側の役回りに適任。このことからジャニとヘチャンは夢実験が行われていることを理解していることが分かる。ただし、2人が実験室の階層自体も夢であると認識しているかは定かではない。

夢の階層を行き来する装置
「NCTmentary」の中で、ルーカスが”Dream”と書かれた装置を接続し、より深い夢の中へ落ちていくことが描かれている。おそらく”Dream”と書かれた装置によって彼らは夢の階層を行き来できるものと考えられる。ただし、これ以来“スイッチ”が強調されることはあまりない。

もう一つがエレベーター。『INCEPTION』では、他人の夢に潜り込む際にエレベーターを用いるシーンが登場するが、NCTのMVにも度々登場している。NCT 127「Elevator」, WayV「之城  (Moonwalk)」で登場する他、「NCTmentary」ではドヨンがエレベーターに乗り込むタイミングで”Dream”の文字が現れる。また、NCT 2020でもVisual Teaserにエレベーターらしきものが登場。「Elevator」のMVではメンバーの乗った3つのエレベーターが上下に動く演出となっており、夢の階層移動やメンバーが同じ夢の階層にいることを示唆していると読み取れる。

夢共有装置
『INCEPTION』ではトランク型の夢共有装置を用いて夢(潜在意識)を共有しているが、NCTの世界観でも、おそらく夢の共有装置ではないかと思われるものが「NCT 2020 YearParty」から解釈できる。映像はNCT 2020からの加入メンバーソンチャンが、ICチップのようなカードをポケットにしまい、一つの装置が中心に置かれた広い空間を、装置に向かって歩き出すところから始まり、NCTの共鳴音が響く(1段目)。この時、メンバーが着ている服は濃いブルーの衣装。ICチップはメンバーの数23個分あるように見え、おそらく個々人が携帯するのではないだろうか(2段目)。彼らがレーザーのような光にスキャンされると、着ている服は薄いブルーに変わる(3段目)。濃いブルーの衣装を着たテヨンが中心に置かれた装置に入ると、衣装は薄いブルーに変化し、再び共鳴音が響く(4段目)。装置の中で薄いブルーの衣装を纏ったルーカスが目を開ける(5段目左)。大掛かりな宇宙船のような装置の中に薄いブルーの衣装を纏ったメンバー23人が登場し(5段目右)、NCT 2020からのもう一人の追加メンバーショウタロウが装置にICチップをセットすると、装置全体がスキャンされるかのように異空間に転じる(6段目)。そして、それぞれに席が割り当てられていた状態から、全員に隔たりがない状態になり、テヨンが手を合わせると共鳴音が響く(7段目)。また、NCT 2021のVisual Teaserでも類似の装置にメンバー個々人が入っているビジュアルが公開されており、ここから、彼ら一人ひとりがこの装置に入ると共感を通じて、全員が繋がった状態、つまり、夢を共有している状態になるのではないかと読み解ける。

NCT 2021 Visual Teaser

夢の世界の構造・設計
『INCEPTION』では、夢の設計に『ペンローズの階段』を応用した理論が実践されていると上述したが、NCT 2021でNCTの世界観にもそれが適用されていることが明らかになった。ここから見るに、NCTの夢の階層移動は無限に上昇し、永遠に夢の中を彷徨い続け、抜け出せないことを表していると捉えられる。また、エスカレーターが用いられていることから、夢の階層移動はエスカレーターでも行えるようだ。「NCTmentary」でも似たような階段が登場し、ユウタの”見慣れない空間でひとり不安がっていた僕はずっと君を探して彷徨っていた”というナレーションが重なることから、この抜け出せない構造の中で彼らが彷徨っていることが伺える。

NCT 2021 Visual Teaser

夢の境界:水
NCTの世界観では”水”は重要な要素。NCTの誕生を描いた「#1. The origin」では、少年が最後足元の海水を通してテヨンとウィンウィンの姿を感じるシーンがあり、“水”を象徴的に表しているほか、最後の場面では少年が砂浜に佇み地平線を眺めるなど、“海”, “水”は象徴的に登場する。「NCTmentary」ではマークが水に触れると、夢の階層に影響を及ぼし、崩れ始める様子が見られる。このことから、夢の境界線は“水”なのではないだろうか。

また、「NCTmentary」では強調されて“海”や“水”が表現される。ウィンウィンが壁の向こうに海を見つけると”REM ON”が浮かび上がる。ジェヒョンがいるコインランドリーの洗濯機には、水の入った袋を両手に持って海辺に佇むマークの姿があり、ウィンウィンが持つコップには何やら上から水が降ってくる。チソンとジェノは水の入った花瓶のような容れ物の中に”WAKE ME UP”と書かれた石が浮かんでいるのを眺めている。地上が90度回転した海に佇むチソン、ランドリーで眠るジェヒョン。Ep1-Ep5に渡る映像の中で繰り返し強調されて登場する“海”と“水”。ジェヒョンはおそらく現実の階層でランドリーにいて、水によってマークのいる世界つまり、夢の階層につながったと考えられる。そうなると尚更、“水”は現実と夢、夢と夢中夢の境界線を示しているのではないだろうか。

各階層の夢の境界線が“水”なのだとすると、彼らは水の中にいることになる。NCTの夢の世界観が水の中に存在しているのか否かは現段階では疑問ではあるものの、NCT 2018の中のNCT DREAM「We Go Up」では冒頭水の中にいるような音がし、MV全体でその音が聞こえる。最初に出てきた水の泡が彼らの空間にも漂い続け、マークが金魚鉢を眺めたり海が登場したりと“水”が強調されて登場する。また、同じくNCT 2018のNCT U「YESTODAY」ではメンバーのいる空間を魚が泳ぎ、2019年に発表されたNCT 127「Superhuman」でも“水”の表現が多出する。ジョンウのいる空間には水の泡が漂い、彼らが踊る床に広がる輪は水の波及の輪のようにも見える。2018年から継続的に“水”は表現され、彼らが水の中にいるかのような場面も多いことから、少なくとも“水”が夢の中を意味することは間違いない。

夢を象徴する色の三原色:赤・青・黄
NCTの世界観で非常に重要な要素が“赤青黄”の色の三原色だ。これは、Debut Teaser「#1. The origin」から始まり(後述)、その後公開されたNCT(NCT U)のデビュー曲「일곱 번째 감각 (The 7th Sense)」のMVで象徴的に描かれ、NCTの世界観を彩る上で重要な要素であることが暗示されていくのだが、その後の彼らの活動の中でもこれが重要であることは明確に表現される。それぞれの色が持つ意味はまだ明確ではないが、“赤青黄”の色の三原色が登場するときは彼らが夢の中にいることを意味していることは確実である。

夢と現実の境界線を曖昧にする象徴:蝶
NCTの”夢”を主軸とする世界観で重要なのが”蝶”。蝶は”夢と現実の境界線を曖昧にする象徴”、”夢の媒介”を意味していると考えられており、実際に、NCT 127「Favorite (Vampire)」のMV鑑賞動画にてドヨンが「蝶を介して夢が合わさる」と言及している。なぜ蝶が夢と現実の境界を曖昧にする象徴なのか。”蝶”というと荘子に由来する故事成語『胡蝶の夢』を想起する。『胡蝶の夢』は、夢の中で蝶になり飛んでいたところ目が覚め、自分が蝶になった夢を見ていたのか、今の自分は蝶が見ている夢なのかと分からなくなったという説話から”夢の中の自分が現実なのか、現実の自分が夢なのか”ということのたとえを言う。おそらくNCTの世界観もこの『胡蝶の夢』から由来しているのではないだろうか。初めに蝶が登場したのはDebut Teaser「# 3. 7th Sense」で、ウィンウィンが「#1. The origin」「# 2. Synchronization of your dreams」の映像を感じ、自分自身もNCTのメンバーだと自覚している場面に”白い蝶”が存在している。また、NCT 2018に収録されるテンのソロ曲「夢中夢 (몽중몽; Dream In A Dream)」では、眠っているルーカスのところに現れ、NCT 127「Favorite (Vampire)」では重要な存在として強調され繰り返し登場する。『INCEPTION』では、夢の中にいるのか現実にいるのかを判断するための道具として”TOTEM(トーテム)”が登場するが、NCTの世界観では、”蝶”はその逆の”夢と現実を曖昧にする象徴”として登場する。

深い夢を見る、見続けるための鎮静剤:ガム・アメ
『INCEPTION』では夢の世界を安定させるために鎮静剤を用いる。各階層は上の階層の影響を受けるため、深い階層に行くほど連鎖的に影響を受けて不安定になり、そのためより強力な鎮静剤が必要となる。それに基づいて考えると、NCTの世界観でも彼らが深い階層に長い間いるためには、鎮静剤が必要だ。その役割を果たしているのが、おそらく”ガム”や”アメ”(時にはアイスクリーム?)のように見受けられる。NCT DREAM「Chewing Gum」, NCT U「無限的我 (무한적아;Limitless)」, NCT DERAM「GO」, NCT 127「Irregular Office」の映像, NCT 127「Wakey-Wakey」に登場し、彼らが意図してガムやアメを食べているように見える。

夢の中で移動する手段:車・列車
NCTの世界観では、”車”, “列車“が頻繁に登場し、重要な要素の一つとなっている。『INCEPTION』を参考にすると、実際に劇中ではメンバーが車中で眠りにつき、共有装置を用いて夢を共有する。車や列車は座ることができるので”夢を見るため(眠るため)の手段”としても捉えられるが、NCTの世界観では”夢の中で移動する手段”として表現するほうが適しているように感じる。前述した階層移動というよりは、夢の中での移動や、夢を共有しているメンバーが一緒に夢の中を移動する手段となっているのではないだろうか。ただし、NCT DREAMにおいては“車”の表現は重要であり、彼らの成長と共に“車”の意味も変化しているように感じるため、それは「楽曲篇」で考察しようと思う。

夢を見やすい場所・夢へ誘うツール?:椅子
NCT 2018を機に“椅子”が頻繁に登場する。「NCTmentary」でドヨンはコンサートホールにいて、“僕が歌を歌う時、観客のほうを見る時、…僕がしたいことは、感情は、共感して共有すること”と言っていることから、”共感して共有する”は共有夢のことを指し、椅子が夢の世界観と強い関連性があることは間違いないが、厳密にどのような役割を果たすのかはまだこの時点では推測の域を出ない。ただ、登場するのは彼らが夢を見ているときのため、おそらくは夢を見やすい場所、夢へ誘うツールのような役割を担っていると推測する。

夢から覚める、上階層に移動する方法:KICK(キック)
『INCEPTION』では、夢から覚めるための手法として”KICK(キック)”が用いられる。睡眠状態でも平衡感覚を崩すことで強制的に眠りから覚ますという原理。劇中では夢の中の深い階層から一つ上の階層へ移動する方法として高層ビルの窓から飛び降りるシーンが描かれている。NCT 127「Regular (Korean Ver.)」(2018/10)ではウィンウィンが屋上らしきところから飛び降りる場面が描かれ(1段目)、翌月公開されたNCT 127「Simon Says」(2018/11)でも同様に空間に落ちていく場面が描かれている。このタイミングでウィンウィンはWayVに専念するためNCT 127の活動には不参加と発表された(現在もNCT 127の活動には参加していないが、公式からの明確な休止・脱退への言及はない)。ウィンウィンはNCT 127の夢の階層から、WayVの夢の階層へと移動したのではないかと考える。

夢か現実かを確かめるTOTEM(トーテム):砂・笛?
『INCEPTION』では、夢の中にいるのか現実世界にいるのかを判断するための道具が登場する。何がトーテムなのかは人によって様々で、劇中では、主人公はコマを愛用し、回り続ければ夢の中、途中で止まれば現実という設定。NCTの世界観でトーテムらしいものは登場するものの、明確にそれが夢と現実を区別するために使われているようなシーンは描かれてこなかった。例えば、「NCTmentary」に登場するリング、NCT 127「Sticker」のTeaser「Who is STICKER」のジェヒョンのハンドスピナーだ。そして、明確にはまだ分からないものの、「NCT 2021 YearDream」では“砂”と“笛”が登場し、トーテムのような役割を果たす。Debut Teaser「#1. The origin」の砂漠、「# 2. Synchronization of your dreams」のテヨンが砂を手に握ったまま目覚めるシーンなども登場し、ここでも眠っていたテヨンが砂を握ったまま目を覚ます。このことから、おそらく砂はトーテムなのだろう。つまり、砂があるときは夢の世界だ。さらに、“笛”が登場する。テヨン、ソンチャン、ヘンドリー、ジェミンが笛を吹き共感を感じている様子が見られることから、厳密には、笛はトーテムというよりは夢の中で繋がっていることを確信するツールと捉えるのが適切ではないだろうか。

夢の世界観における”僕”と”君”
NCTの歌詞では、”僕”と”君”が頻繁に登場し、相手の存在をいわゆる”性別”で語ることはない。これは、”性”に対して固定観念や先入観を持たないまさにネオな価値観とも捉えられるが、もう一つの捉え方として、”僕”と”君”を同一か類似の存在と認識しているとも考えられる。NCTの世界観と照らして考えると、”現実の自分と夢の自分”もしくは”夢の中の相反する思考を持つ自分”とも読み取れる。実際に、NCT DREAM「BOOM」では以下のように歌われ、“自分自身が自分自身の夢を叶えることができる人だ”という捉え方が反映されているように見える。その他の場面でも、NCTが指す“君”は“もう一人の自分自身”や“投影された自分自身”を意味していることが多い。

난 너의 꿈이자 僕は君の夢だ
꿈에 닿는 통로가 돼 夢へ辿り着く道になれる
너의 꿈을 君の夢を
손에 쥐여줄 수 있어 Oh 手に掴ませてあげられる Oh

余談だが、彼ら自身の日常的な発言においてはジェンダーや性への多様性に対しての意識を強く感じる場面が多く、固定観念や先入観を持たないスタンスが非常に多くの場面で見られる。彼らは常に、NCTという世界にいて、フラットでニュートラルなスタイルであると感じることも彼らの魅力の一つだと感じている。

NCT DREAMの世界観(考察)

NCTの世界観は映画『INCEPTION』を基調としていると考えられるが、その構造の中でさらにNCT DREAMは映画『Miss Peregrine's Home for Peculiar Children(ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち)』を基調としていると考えられている。ここでも同様にNCT DREAMの世界観を理解するのに重要な部分のみ抜粋していく。
(※以下、映画のネタバレになる可能性があります)

映画『Miss Peregrine's Home for Peculiar Children』
本作は、2017年に公開されたティム・バートン監督によるアメリカのダーク・ファンタジー映画。

ドイツ軍の爆撃により死んでしまう(施設のある島にドイツ軍が空爆に来るため)直前で時間を1日巻き戻し、1943年の9月3日を毎日繰り返すことでループしながら施設で生活する特殊能力を持つ子どもたちが描かれている。劇中では、食事の後に子どもたちのうち一人の特殊能力により、彼の見た夢をみんなで鑑賞する上映会が開かれ、鑑賞後、1日の最後に時間を戻す儀式が行われる。

7DREAMは時間をループする
「NCTmentary」の中ではDREAMのメンバー7人がモニタを通して夢鑑賞をするシーンが描かれている。チソンが最後に部屋に入ってきて椅子に座ると、部屋の日差しが明るくなったり陰ったりすることから、彼らも1日をループしていると捉えられる。チソンのみがこちらを向いたところでNCTの共鳴音が鳴るが、これは再びループが起点に戻ったこと、つまり彼らは決まった時間の中で生きていることを示唆しているのではないか。さらに、時間が巻き戻る様子も描かれており、彼らが同じ時点の時間を繰り返しているであろうことは明白だ。DREAMの場面でのみメトロノームが登場するが、メトロノームは同じ店 テンポで止まることなく繰り返しリズムを刻むということからも、彼らがどこかの時点に留まり繰り返し時間を過ごすということを示唆しているように感じられる。

また、劇中で時間を巻き戻すのは、1943年9月3日になる直前の“9月2日 夜9時過ぎ”なのだが、「NCTmentary」でも“9時過ぎ”を示す時計がDREAMのシーンで登場する。「We Young」では女の子が寝る部屋の窓から見える時計台の時刻が9時過ぎ、「 (Hot Sauce)」のジェノのVisual Teaserに映り込む時計の時刻が9時過ぎ。

家の中に居続けるDREAMたち
NCT DREAMのMVは「Chewing Gum」から「BOOM」まで室内や何らかの空間に留まっていることが多い。もちろんそれ以降の楽曲にも室内のみに留まるものは存在するし、「BOOM」以前のものに外のシーンが一切出ないという訳でもない。ただ、彼らが家の中に留まり続けることを象徴的に表現することは多く、時間のループの強調表現なのではないかと捉えられる。彼らがループを抜けたのは「BOOM」が起点と考えられており、これは「楽曲篇」で詳しく見ていこうと思う。

マークとヘチャンの立ち位置
劇中では、1943年をループし続ける子どもたちはループを抜け出して現代に行くと堆積されていた分の歳をとって死んでしまうという設定。それを基に考えると、DREAMの7人もこのループを抜け出すことはできないということになるが、NCT全体の夢の主(ドリーマー)であるマークと記録者であるヘチャンは映画の主人公のように現代とDREAMの時間ループを行き来しても人生に支障がないと考えられる。そのため、NCT 127の活動も同時に行うことが可能。

爆撃を受けたDREAMの家
劇中ではループが過ぎたとき施設は爆撃を受けループが閉じ、1943年の時が動き出してしまうシーンがある。「NCTmentary」ではテンがいる世界に緑の屋根の家があるが、この家は最後倒壊している。この家はおそらくDREAMが時間をループしていた家だ。ジェミンが”少し不思議な感じがした。何かに導かれていったみたいで煙に包まれたような感じ。なんだか癒された。”と話していること、彼らが煙の中を走っていることから、DREAMの家も爆撃によって崩壊したのではないだろうか。テンは共有夢も夢中夢も見れるメンバーであるため(楽曲篇で解説)、DREAMの過ごしている夢も見ることができたと考えられる。

NCT誕生の世界観(考察)

NCT全体の大枠の世界観は映画『INCEPTION』を、その中でNCT DERAMは映画『Miss Peregrine's Home for Peculiar Children』を基調に紐解けるが、NCT誕生の世界観については、2016年1月に公開されたDebut Teaser「#1. The origin」から紐解くことができる。

NCTの誕生
果てしなく広がる砂漠の中を、白い服を着た少年が一人歩いており、少年が砂漠に赤い旗を立てるとNCTの共鳴音が響く。共鳴音が鳴っていることからこの世界観そのものがすでに夢の中なのかもしれない。”赤”はNCT 127の象徴となる色で、赤い旗を立てたということは、NCTの基盤となるチームがその後デビューすることになるNCT 127であることを暗示していたのではないかと考えられる。また、そのタイミングで共鳴音が鳴っていることから、世界各地にいるNCTが砂漠に旗を立てたタイミングで共感し、NCTが誕生したということなのではないだろうか。また、NCTの世界観では、”赤”は”夢”を表すと考えられていることからも、この段階で彼らの”夢”を土台とした世界観が誕生したとも捉えられる。

NCTの世界観を象徴する赤・青・黄の三原色の誕生
少年が紙に黒のみで”太陽”と”地上”の絵を描いていると、黒い服を纏った女性が現れ”赤”・”黄”・”青”のクレヨンを差し出す。少年は青のクレヨンで絵に”海”を描き足す。その後公開されたNCT(NCT U)のデビュー曲「일곱 번째 감각 (The 7th Sense)」のMVではこの三原色が基調となっており、NCTの世界観を彩る上で重要な要素であることが暗示されている。赤はNCT 127のシンボルカラーであることから、この先3つのチームが誕生することを示唆していたとも読み取れる(NCT DREAM・WayVのことなのか?)。

海・空が表現する“無限拡張”の世界観の誕生
少年と女性は砂漠を歩き、少年は自分が描いた絵を紙飛行機にして空に放つ。飛んでいく紙飛行機を夢中で追いかけ、ハッと振り返ると砂煙が立ち込め女性の姿は消えていた。その後少年は砂漠の中で倒れ、目が覚めると日が落ちかけている。佇んでいると共鳴音が鳴り、少年は足元に海水を見つける。そして、それを通してテヨンとウィンウィンの姿を感じる。これは、共感により夢で既に繋がっているNCTの世界を表現し、共感したことで少年が砂漠に突如として無限に広がっていく海を見つけたということから、”海”, “水”が彼らの世界観において重要な役割を担っているであろうことが読み解ける。最後、少年は砂浜に佇み、果てしなく続く空と海、地平線に沈んでいく太陽を眺めている場面で映像は終わるが、空や海、地平線は果てしなく続く終わりのないことを意味することから、”無限拡張”を謳うNCTの世界観を象徴しているのだろう。

NCTの”Universe(宇宙)”の基本構造の誕生
また、少年が青色で絵に海を描いたことで、絵に描かれているものが空・海・地上・山であると区別できるようになる。NCTのグループカラーは”ネオンイエロー”, ”ネオングリーン”で、”緑”で表されることが多いのだが、赤=太陽、黄色=月、青=水だと仮定すると、緑=大地とも考えられ、女性に渡された3色のクレヨンにより、”Universe(宇宙)”の基本構造が完成したとも捉えられる。そして、これはギリシャ神話に出てくる地母神”ガイア”を想起する。ガイアとは、カオスから生まれ世界の始まりの時から存在した原初神であり、自らの力で天の神、海の神、山の神を産んだ地母神。少年の絵にも、天(空)、海、山が描かれていることから、ギリシャ神話でいう”始まり”を意味し、すなわち、少年がこの絵を書いたことによりNCTの世界観がここを原点に動き出したことを意味しているとも捉えられる。

NCTの世界観における時空間
#1. The origin」は、三段砂時計が登場して始まる。砂時計は一般的に”時間”を表すシンボルとして使用されるが、NCTの世界観の中でも”時間”は重要な要素だ。彼らのMVでは度々、時計が登場したり、時間が巻き戻されたり、時空間が描かれる。Debut Teaserが砂時計で始まるということは、彼らが”時間”に囚われていることを象徴しているのではないだろうか。そして、この砂時計が一般的な二段のものではなく三段であるとうことは、砂が落ちてもまた更に下に落ち続けるという、階層構造による時間の流れや、時間のループを繰り返すということも暗示しているように感じられる。(厳密には三段かどうかは分からず、永遠に続く構造の可能性もある。)

彼らが繋がっていることを示唆するスーパームーン
ここで登場する重要な要素の一つが”月(スーパームーン)”。Debut Teaser「#1. The origin」はスーパームーンが地上に急接近しているシーンから始まる。後にNCT DERAM「We Young」やNCT 2018のテンのソロ曲「夢中夢 (몽중몽; Dream In A Dream)」, WayV「之城 (Moonwalk)」にも継続的に登場していることから、彼らを繋ぐアイテムの一つであることが読み取れる。スーパームーンが地上に急接近していたり、ルーカスの手の中に収まっていることから、NCTの世界は、我々が今いる一般的な”世界”とは異なり、彼らだけが共有する別の世界だということが強調されているのではないか。

Debut Teaser「#1. The origin」の少年とNCTとの関係
Debut Teaser「#1. The origin」で登場する少年は誰なのか。これは同じくDebut Teaser「# 2. Synchronization of your dreams」から読み解ける。「#1. The origin」で少年が着ていた白い服と似たような服を着たテヨンが砂を手に掴んだまま眠っており、眠りから覚めるとNCTの共鳴音が鳴る。ここから「#1. The origin」の少年はテヨンであると仮定することができる。また、砂漠の夢から覚めると現実の自分の手にも砂を握っていたこと、室内にも砂が広がっていることから、”夢から覚めるとそれが現実になる”という夢の構造を暗に示していたと考えられる。そして、ここでのテヨンの”眠りから覚める”ということは、”いわゆる現実”を自覚したということではなく、”自分自身の存在意義や役割を夢の中で認識(自覚)した”という理解が適切な気がする。目覚めたテヨンは悟ったように白い光の中に向かって歩き、NCT(NCT U)のデビュー曲「일곱 번째 감각 (The 7th Sense)」が流れるとともに、メンバーたちがそれぞれ部屋の中で踊っている様子が描かれる。”第七感”とは”音楽を通じて互いの夢を感じ、繋がることができる感覚”と明言されており、つまり彼らが共感したことを告げる共鳴音がなり、すでに彼らが”第七感”を通じて繋がっているということを示唆していると考えられる。おそらく、彼ら自身はそのことを認識しており、この”第七感”は、NCTの世界観の中で彼らだけが持っている特別な感覚である。NCTの世界観は、この彼らだけが持つ”第七感”で創られている。そして、テヨンが向かっていった白い光は夢の象徴であり、テヨンは一番初めに共感を覚え、共有夢に入り、NCTの世界観を開いた人物なのだ。

少年の存在意義と黒い衣装の女性の存在
#1. The origin」で砂漠にいた少年がテヨンであろうことは推測できるが、”少年の存在”とは。これはNCT 127「無限的我 (무한적아;Limitless)」の日本語Verと合わせて推測が可能。MVでは聖母マリアの絵画が登場するが、一つは『The Secret of the Rosary』という著書の表紙絵で、聖母マリアの胸に『クール・イマキュレ(聖母マリアの汚れなき御心)』と呼ばれる心臓が描かれ、心臓からは愛の炎が噴き出し、イエスの受難を目の当たりにした悲しみと苦しみを意味する剣が貫いている絵画である。二つ目は2種類の絵画からなる『聖母戴冠』と思われる絵。ここから、NCTの世界観に聖書の考え方が関連していることは明確である。その他のMVでも、それを思わせる絵画や『最後の晩餐』を想起させるシーン、実際の絵画まで登場し、継続的に表現されている。ここから推測するに、おそらく「#1. The origin」に登場する黒い服の女性は聖母マリアなのではないだろうか。そして、砂漠、冒頭に登場する群れからはぐれる仔牛、黒のみでしか絵を描けない少年などから、そこは無機質で色味のない世界に感じられ、少年は、夢を土台とした世界観が生まれる前のNCT、つまり、まだ夢をまだ知らない姿なのではないかと考えられる。旧約聖書の『創世記』には、人間は生まれながらにして原罪を持っていることが記されており、少年(=NCT)は原罪を持って生まれてきた夢がない無力な状態と考察できる。少年の元に聖母マリアが現れ、赤・青・黄のクレヨンを差し出したことで、少年は絵に海を描くことができるようになった。これは、聖母マリアによって原罪から解放され、夢を見られるようになったということなのではないか。厳密には、イエス・キリストが十字架の磔によって処刑されることで原罪を償い、人間を罪の束縛から救ったのだが、聖母マリアが『受胎告知』(『新約聖書』より)を受けたことが人類の救いにつながったという見方をすれば、聖母マリアにより少年が救われるという間接的な原罪からの救済を表現したと考えてもよいだろう。

聖母マリアから赤・青、黄の三色を受け、少年(=NCT)は夢を見られるようになり、ここでNCTの世界観で重要な夢の象徴が誕生する。また、絵画では聖母マリアの衣装は”神の慈愛”を表す赤と”天の真実”を表す青で描かれることが多いという事実からも、聖母マリアとの関連性を強く感じる。女性が忽然と姿を消した後、蛇が登場するが、これは少年が原罪から自由になったということを意味しているのではないか。『失楽園』では”蛇”に唆されたイヴが神の禁を破り”善悪の知識の実(禁断の果実)”を食べ、エデンの園を追放されることから、蛇は原罪の象徴とされるからである。このような背景から、「# 2. Synchronization of your dreams」でのテヨンの”眠りから覚める”ということは、”いわゆる現実”を自覚したということではなく、”自分自身の存在意義や役割”、すなわち、”NCTの夢の世界観を開くこと”を夢の中で認識(自覚)したと理解するほうが適切だろう。

一方で、蛇は”悪魔の象徴”とは真逆の意味を持つこともある。『旧約聖書』の『民数記』では古代イスラエルの民族指導者モーセが”青銅の蛇”を作った話が記されており、ユダヤ人にとって蛇は信仰の対象であったと考えられている。そして、罪を肩代わりしたイエス・キリストの象徴ともされ、脱皮することから”復活の象徴”、”不死”, ”治癒”, ”罪からの癒し”の象徴とされている。また、ギリシャ神話に登場する”医学の神”アスクレピオスが持っている一匹の蛇が巻きついた杖『アスクレピオスの杖』は医療・医術のシンボルマークとして用いられ、WHO(世界保健機関)などのエンブレムにも用いられている。そして、NCT 127のエンブレムもこれに非常に酷似する。また、”尾を飲み込む蛇”を”ウロボロス”と表現され、ここでも脱皮して大きく成長することや長期の飢餓状態にも耐える強い生命力を持つことから”死と再生”, ”不老不死”, ”始まりも終わりもない完全なもの”としての象徴的意味を持っている。他にも、”循環性”, ”永続性”, ”原始性”, ”無限性”などを意味することもあり、いずれもNCTの世界観とリンクする要素が多い重要な登場人物であることは明白だ。

上:NCT 127の公式エンブレム 下:WHOの公式エンブレム(HPより拝借)

無限に広がるNCTの世界観
Debut Teaser「# 3. 7th Sense」では、ウィンウィンは「#1. The origin」「# 2. Synchronization of your dreams」の映像を感じている様子が示されていることから、彼は別の世界にいて、そのことを認識していると見える。そして、それにより自分自身がNCTのメンバーだと自覚している。そこに”白い蝶”が現れるが、NCTの世界観において”蝶”は”夢と現実の境界線を曖昧にする象徴”であり、”白”は”真実”を意味する。その後、踊っていたウィンウィンはNCTの誕生やテヨンを感じ、共鳴音が響く。つまり、”ウィンウィンは第七感を通してNCTの他のメンバーたち(この段階ではテヨンのみ?)と夢を共有した状態である”ということを、”白い蝶”と”共鳴音”が示唆しているのだろう。再度白い蝶が羽ばたくと、現代のソウルの練習室にいるNCTの誰かの姿が映し出されて映像は終わる。ウィンウィンがいる中国とNCTの誰かがいるソウルは第七感で繋がっていること、NCTの無限に広い世界観が1つに繋がっているということを表現していると考えられる。そして、ウィンウィンは初めて少年(テヨン)と共感を交わした人物であり、NCTの世界観においてテヨンに続くキーパーソンであることは間違いない。

最後に

ここで書いていることはあくまで考察および推測の域を出ない。まだまだ謎は多く、考察同士が矛盾したり、過去推測していた内容が後に公開されたMVやコンテンツにより読みが変わることもある。また、ファンダムの中ではさまざまな考察が語られ、公式も解釈の幅を持たせる表現にとどまっていることを考えると、もはやどこまで行っても正解も不正解もないのかもしれないとも思う。彼らの世界観に深く目を向け、彼らの表現に五感と思考で向き合うことができることそのものが、NCTがファンととともに築き上げていきたい世界なのではないだろうか。彼らの活動が進めば進むほど、彼らの世界観を垣間見えていく楽しさとともに、その世界観の中で存分に表現を通して羽ばたく彼らを今後も心から応援したいと思うし、多くの人がそうであることを一個人として願っている。

P.S.
NCT 2021では再びこの夢の世界観へ言及するようなコンテンツが登場しているため、それはまた別の記事で続きを書こうと思う。また、各MVには随所随所に細かな世界観の要素が散りばめられているため、それは「楽曲篇」で複数回に分け、時系列で考察していく。

※画像:公式より

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