ある日の通知
私は重度のスマホ依存である。
それはずっと自覚していたことだ。
何度もスマホ依存を解消しようとして、あらゆる手段を考えた。
ある日はiPhoneのアプリを全部消したり、
ある日はスーツケースの中に閉じ込めてみたり。
でもスマホがない生活は不便であり、落ち着かなくて、結局長くは続かない。
そんな時に「スマやめ」というアプリをインストールしてみた。
このアプリは、スマホを触っていない間に、アプリ上の魚がコインやハート(餌)を取ってきて、そのコインやハートで魚を成長させたり、新しい魚を育てることができる。
しかし、途中でスマホに触ってしまうと、魚の努力が水の泡になってしまう。(海だけに)
人の魚に対する罪悪感によってスマホ依存をやめさせるとは、なんと巧みな。
実際にやってみると、もともと生き物が好きというのもあり、インストールして1週間ほどは脱スマホができた。
特に育てる魚に一つ一つ名前をつけられるのが楽しかった。
まず初めにカクレクマノミを育てた。
名前を直感で「はなこ」とつけた。
次に、オヤビッチャという魚を育てた。
これもまた直感で「きゅーたろー」とつけた。
そして、次にクリオネを購入。
今回も直感でつけた。
浮かんできた言葉は、
「ビコイドタンパク質」
(ビコイドタンパク質とは、ショウジョウバエの前後軸を濃度勾配により決定するものである。)
ちょうどその時期に、生物の教科書の発生のところを読んでいたからだろうか。
なぜこの名前にしたのかは未だ不明だが、
こうして、私はビコイドタンパク質をスマホで飼うことになった。
この写真でわかる通り、私は買ってからかれこれ2ヶ月以上放置し、存在すら忘れていた。
そんな時、こんな通知が来た。
一瞬文章の意味が理解できず、思考停止。
そしてすぐにあの日の記憶が蘇った。
懐かしさと罪悪感と共に。
ごめんね、ビコイドタンパク質。
スマホに別れを告げて、今度はちゃんと育てるから。
もう一度通知に目をやる。
大きく成長させて、海に放すことになった暁には、「ビコイドタンパク質」が私の人生の前後軸も決定し、今よりもっと未来が明確になっているのかな。(は?)
そんなことを考えながら、私はタイマーをスタートさせた。
我ながら「ビコイドタンパク質」って名前悪くないな。
なんてね。
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