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私だけの特捜最前線→18「裸の街Ⅰ・Ⅱ~おやっさんの妻が病魔に倒れた時」

※このコラムはネタバレがあります。出演者は敬称略

「おやっさん(船村刑事)」こと大滝秀治さんは、特捜最前線に長くレギュラーとして出演していましたが、1年間だけ降板していた時期がありました。映画「影武者」出演のためだったそうです。

その降板劇となったのが、「裸の街Ⅰ・Ⅱ」の前後編でした。サブタイトルにはⅠが「首のない男!」、Ⅱが「最後の刑事!」となっており、とくに後編は人間・船村刑事の真骨頂とも言えるドラマです。

船村の告白が容疑者を揺さぶった!

切断された男性の遺体が発見され、麻薬中毒ということで組織や暴力団の関与が疑われる事件でしたが、船村刑事は男性に献身的に尽くしてきた妻(日色ともゑ)を不審に思い、独自の捜査をしていました。

そんな時、船村の女房が倒れ、末期の胃がんと診断されてしまいます。苦痛に喘ぐ女房は「私を殺して」と訴えかけ、船村は動揺しました。そんな体験をしたことで、男性の妻の犯行動機が分かったのです。

男性も末期がんで、痛みから逃れるために妻が麻薬を打っていました。取調室で「私の気持ちは分からないでしょ」と言う妻に、船村は「私の妻もがんなんです」と告白し、心情を話し始めたのです。

船村も、女房を殺してあげたいという衝動にかられました。だが、殺さなかった。その理由は、1日のほんのわずかな時間でも、女房が笑顔を見せる時がある。笑顔が見られるうちは、私は決して殺さないんだと・・・

その告白が妻の心を揺さぶり、ついに全面自供を引き出したのです。ただ、衝撃を受けたのは容疑者だけでなく、取り調べを見ていた神代課長(二谷英明)はじめ、特命課全員も同じでした。

船村は、女房を故郷の高山に連れて帰り、最期の時を共に過ごしたいとして退職を決断します。はなむけの言葉もかけられず、事件の経過報告しかできない神代課長は、涙を浮かべながら船村を見送ったのでした。

情と非情を使い分ける船村の捜査

このドラマでは、船村刑事の「情」の部分と、刑事として「非情」に徹する部分の両面が見られます。「情」だけに突っ走りがちの滝刑事(桜木健一)とコンビを組んでいたので、それが一層浮き彫りになりました。

船村は妻を励まそうとして、滝とともに牛肉持参で妻の自宅を訪れ、すき焼きを振る舞います。明るく酔いながら、つつましい暮らしをする妻をたたえる船村。しかし、それは表向きの顔でしかなかったのです。

犯行現場を自宅内だと睨んだ船村は、浴室のカーテンに血が付いているのを発見し、物証として密かに持ち出します。妻の自宅を出た直後、滝にカーテンの鑑定をするよう指示したのです。

滝は「汚いやり方だ」と激しい口調で罵りますが、船村の脳裏には「事件の真相解明」しかありません。この物証がきっかけで、妻の自宅や周辺の捜査が繰り広げられ、逮捕容疑が固まっていきました。

おそらく船村は、夫殺しを一生隠し通さねばならないと考える妻に対し、罪を償わせたうえで、次の人生を切り開いてあげようと思ったのではないでしょうか。それは船村の心の奥底にある「情」であると私は思います。

ちなみに、船村の捜査方法に違和感を持った滝は、やがて刑事や警察の仕事そのものにも違和感を抱き始め、降板劇へとつながっていくのです。もっとも、降板の理由は桜木氏の多忙にあったとも言われていますが(笑)

noteでは連載コラム、エッセイをほぼ毎日書いています。フリーランスのライターとして活動中ですが、お仕事が・・・ご支援よろしくお願いいたします!