酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第55回「姫路で見つけた個性派の立ち飲み酒場」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第55回「姫路で見つけた個性派の立ち飲み酒場」である。
はじめに
兵庫県姫路市は国宝・姫路城があり、いつも観光客でにぎわっている印象がある。でも考えてみれば大阪や神戸は通勤圏内だ。関東の人間の勝手な想像だが、東京近郊で言えば八王子市や川越市、木更津市・・・そんな感じかな?
大阪や神戸に近いこともあってか、調べてみると結構立ち飲みや大衆酒場は多そう。そして、ご当地グルメの姫路おでんもある。観光都市として立ち寄ったが、お高い郷土料理ではなく、おでんで一杯やれるのは嬉しい限りだ。
昼は観光、夜は飲み歩きといきますか。
姫路「山本酒店」~姫路にもあった激渋角打ち
酒場巡りのスタートは姫路おでんからいきたいところ。ご当地グルメを目指すのは観光客のサガである。ネットで調べてみると、おでんの専門店やおでんが有名な飲食店は数多い。それらの店がある繁華街へ足が向くはずだったのだが・・・
口開けに訪れたのは、宿泊するホテルからほど近い角打ち「山本酒店」。大通りに面しているが、飲食店が並ぶようなエリアではない。しかも店構えは昭和レトロを感じさせ、大都市でもめったに出会わない、これぞ「ザ・角打ち」という酒場だ。
切り盛りしているのは年配のお母さん一人。これはなかなか渋い。いや激渋だ。店内はご常連のおっちゃんばかり。当然だが観光客の姿は皆無。観光都市の姫路で、こういう酒場に出会えるとはなあ。
怯んでいても仕方ない。お母さんに声をかけ、瓶ビールとおでんの大根、スジ、厚揚げをお願いする。「もしかすると一般的な普通のおでんかも」と脳裏をよぎったが、次の瞬間その心配は消え去った。
皿盛りのおでんにお母さんがショウガ醤油をぶっかけた。
このショウガ醤油こそが、姫路おでん最大の特徴である。薄い色の出汁で煮込まれたおでんは、たちまち真っ黒に染まる。その劇的な変化に一瞬ビクつくが、郷に入れば郷に従えのごとし。大根を口に含むと、ショウガのピリッとしたアクセントが心地よい。
穴場中の穴場というよりも、典型的なご常連酒場である角打ち。一見客には場違いと思いきや、店内で飲んでいると馴染んでくるもの。ご常連も店のお母さんも別に気にしない。口開けからベストチョイスができたのは嬉しい限りだな。
姫路「酒鐉亭灘菊かっぱ亭」~もう一丁、姫路おでんを食す
山本酒店のまわりには酒場がないので、姫路駅近くの繁華街へと歩を進める。立ち飲みも居酒屋も料理屋も選び放題で楽しそう。せっかくなので欲をかいて、もう一軒だけ姫路おでんを食べさせてくれる店に行こう。
やってきたのは「酒鐉亭灘菊かっぱ亭」だ。ここは灘菊酒造直営の姫路おでんの店で、ネットでも宣伝している有名店。結構お客さんが入っていたが、何とか席に着けた。注文はもちろん、灘菊の熱燗、それから店名物の大串おでんを頂戴する。
大串おでん・・・「チビ太のおでん」のジャンボサイズ。
赤塚不二夫の漫画「おそ松くん」に登場するチビ太の好物が串に刺さったおでんだが、この店はこんにゃく、スジ、玉子、厚揚げ、ゴボ天が突き刺さるジャンボサイズ。もちろん、姫路おでんの定番であるショウガ醤油がかかっている。
話題性という点ではインパクト十分。山本酒店の地域密着オーソドックスおでんとの比較対照も面白い。もちろん、味は甲乙つけがたい。恐るべき姫路おでんぞ。
姫路「与太呂」~酔客たちを見るのも愉快
スタートから2軒、飲み歩きは上々の滑り出しだったが、そんなに世の中うまくいくものではない。このあと約1時間は「トホホタイム」となる。
まずは駅ビル内の「試」という日本酒バーに行ったが、パソコン画面での注文システムがさっぱり分からず、あっさりと退散。続いて山陽鉄道のガード下を徘徊するが、これといった店が見つからず、パッとしない飲み屋で軽く飲んで退散する始末・・・
そんなこんなで、ふらりと入った立ち飲み「与太呂」。おばあちゃん、オヤジさん、兄さんの3世代で営む家族経営の小さな店だが、お客さんたちが賑やかに飲んでいてとても楽しそう。ここは乗り遅れてはなるまい。
官兵衛という銘柄の冷酒を注文。官兵衛とは戦国時代の豊臣秀吉の軍師・黒田官兵衛のこと。姫路ゆかりの人物であることは言うまでもない。肴は、ホタルイカ、板わさ、串カツの豚、レンコン、シシトウをいただく。串カツがあるのは関西っぽい。
カウンターの隣には中年のカップル。その隣の入り口近くに紳士っぽい男性が一人。カップルはご常連のようだが、紳士は一見さんかつ、立ち飲みはあまり慣れていない感じ。カップルのおばちゃんは随分酔っ払っているようで、時々紳士にちょっかいを出している。
こういう酔客同士の会話は見ていて楽しい。
おばちゃんに絡まれ、相方のおっちゃんに茶々を入れられた紳士、たまらず勘定を払って退散する。おばちゃんは、次に私をターゲットにしようと絡んでくるが、紳士と違ってこういう酒場は百戦錬磨だよ。かるーくいなしておこう。
いい加減飲み飽きたカップルが店を出てしばらく経ち、閉店時間に差し掛かってきた頃、さっきの紳士が懲りずに「もう一杯飲ませて」と再度やって来た。退散はしたものの、本人のなかには中途半端な思いがあったのだろう。でも未練がましいよ。
すかさず店主、「勘定したし、店じまいだからだめだよ」とキッパリ。
すごすごと退散する紳士を見て「まだまだ飲み歩き修業が足りないようだな」と、密かにニヤリと笑う呑んべえ。他の客がいなくなってからは、三世代としばし語らいながら喧騒の余韻に浸っていたが、そろそろお開きの頃合いかな。
中抜けにはなったが、姫路の飲み歩き、なかなか楽しかったぞ。
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2014年4月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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