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私だけの特捜最前線→50「死体番号6001のミステリー!~殺されたと主張するおやっさんの真意とは」

※このコラムはネタバレがあります。

私だけの特捜最前線も50回を迎えました。また、noteとブログ版の同時掲載がスタートします。今回は個人的な一押し作品である「死体番号6001のミステリー!」(塙五郎脚本)を紹介します。

炎に包まれた男性は他殺か自殺か

冒頭からバッハの「トッカータとフーガ ニ短調」の悲劇的なテーマが流れ、自作の詩集を売る少女と、それを買う老紳士。場面が変わり、その老紳士が炎に包まれるというショッキングな映像でドラマが始まります。

第一発見者の管理人(内藤武敏)は、老紳士を「マラソン選手がゴールインした時のように両手を挙げ、まるで神々しい姿だった」と語ります。老紳士は殺されたのか、自殺だったのか、特命課が捜査を始めます。

老紳士は浮浪者だったと分かり、さらに10年前、突然25年間勤めていた会社を辞め、蒸発した男性である可能性が浮上しました。しかし、捜査を続けていた船村刑事(大滝秀治)は意外な真相に直面します。

蒸発した男性こそ管理人その人であり、老紳士とは別人だったのです。老紳士は、若い男に有り金を奪い取られ、絶望して自殺に走りました。少女に託したテープには自殺をほのめかす「遺言」が残されていたのです。

船村は「自殺じゃない、殺されたんだ」と主張し、「あの人を追いつめた人間がいる」と語気を強めます。「社会が悪い」と冷めた口調の吉野刑事を一喝し、「殺した人間を必ず突き止めてみせる」と言い切りました。

俺はいったい何をしてきたのか

この回では、事件性を探る刑事ドラマの面白さと同時に、奥の深い人間ドラマが展開されています。焼死した老紳士を、蒸発した自分に置き換えようとした管理人の心情が、丁寧に描写されているのです。

家族の思いを知りたかった管理人は、船村や叶刑事(夏夕介)から、遺体確認に来た息子が「定年までたった5年も我慢できなかったのか」と、今も蒸発した自分を許していないことが分かってしまいます。

管理人は切々と訴えます。「ふと思うのです。ある日突然、俺はいったい何をしてきたのか。俺という人間が生きてきた痕跡はどこかにあるのか」と。その言葉は同世代の船村の心にも深く突き刺さったのです。

これより前、船村は男性が勤めていた会社を訪れますが、専務は「会社は機械で、人間は部品だ。必要なのは能力だけ」とにべもありません。男性が全てを捨てて蒸発した理由が垣間見られた気がします。

ドラマの時代背景に、ひたすら生きていくために働き続け、高度成長期を担ってきた人々の悲哀を感じずにはいられません。この専務も、実は部品の一つに過ぎないということを忘れてはならないのです。

同世代に思いを込めて・・・

私がこのエピソードを一押し作品に挙げた理由は、管理人や船村刑事、身元不明のまま終わった老紳士と、自分が同じような年齢になっていたことで、その心情がとてもよく理解できたからです。

ドラマを重厚なものにしたのは、内藤武敏さんと大滝秀治さんの名演技でした。とくに叶刑事を交えて3人で語らうシーンは、とても見ごたえがあり、内藤さんの語り口には心を打たれました。

老紳士が何者だったのかは明かされませんでした。彼は、もしかすると死ぬきっかけを探していたのかもしれません。炎に包まれた神々しい姿は、辛いこの世から解放された喜びの現れだったでしょうか。

なお、個性派俳優として活躍中の遠藤憲一さんが、若い男の役で出演しています。私と遠藤さんは同世代なので、「リアルタイムで特捜最前線を見ていた時、俺も若造だったんだな」と苦笑してしまいました。


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