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私だけの特捜最前線→66「サンタクロース殺人事件!~1つの事件から複数の人間ドラマを描く」

※このコラムはネタバレがあります。

特捜最前線のなかで、クリスマスにちなんだ作品のひとつに「サンタクロース殺人事件!」というドラマがあります。人間模様を描かせたら右に出る者はいない塙五郎さんが脚本を手掛けています。

このドラマの最大の特徴は、特命課の刑事たちそれぞれに見せ場を作っていることです。ストーリー解説の中で触れていきますが、そのなかで主役に据えているのは吉野刑事(誠直也)です。

殺人犯はサンタクロース!

芸能プロを装ったやくざが何者かに殺されます。通報したのは、家出人と思われる少年で、同じころ、橘刑事(本郷功次郎)の息子が家出したとの連絡があり、橘は息子かもしれないと胸騒ぎがするのです。

見つかった少年が息子ではなく、ひとまず安堵する橘。少年の証言で、通報を促したのが浮浪者と分かり、紅林刑事(横光克彦)が消息を追います。その結果、浮浪者は広域指名手配の男だったことが判明したのです。

一方、吉野刑事は行きつけのケーキ屋の女店員が万引きするところを目撃し、一緒に品物を返却して謝罪に歩きます。女店員は警官の兄と二人暮らしで、芸能界へのデビューを目指していました。

やくざが殺される数日前に手帳を紛失していたと知り、遺失物係を訪ねた吉野の前に表れたのは、左遷されてきた蒲生警視(長門裕之)。蒲生の協力で、やくざが落とした手帳が発見されたのです。

手帳のメモから、女店員の兄が容疑者として浮かび上がります。警官は、慰問のためサンタクロースの衣装を借りており、「サンタクロースが殺人犯だ」という浮浪者の目撃証言とも一致しました。

女店員に新宿駅での待ち合わせ時間を電話で指示してきた警官。吉野からの連絡を受けて、特命課の刑事たちが張り込みをします。そこに、サンタクロース姿の男がやって来たのです・・・

サイドストーリーとエンディング

ここまで書いたストーリーとは別に、桜井刑事(藤岡弘、)のエピソードも挿入されていました。それは、当初やくざを殺した容疑者として逮捕された対立組織のチンピラ(磯村健治)の存在です。

チンピラもやくざを殺そうと狙っていましたが、何者かに先にやられてしまいました。メンツなのか、自暴自棄なのか、殺人を「自分がやった」と主張していたのです。

桜井は、死産になってしまった妻のためにも、チンピラに足を洗うよう促します。チンピラは、組織の連中にボコボコにされながらも脱退し、人生をやり直すために新宿駅へと向かったのです。

新宿駅・・・特命課が張り込み、サンタクロースの格好をした警官が現れた場所でした。警官は刑事たちの姿を見て逃げ出し、刑事たちは追いかけます。チンピラの目の前に逃走犯と刑事の姿が見えたのです。

桜井に恩返しをするため、警官の前に立ちふさがろうとしたチンピラ。しかし、刃物を持った警官に刺されてしまいます。さらに警官は逃げまどい、通行人の女性に刃物を突き立てる暴挙に出たのです。

そこに居合わせた蒲生警視。警官を組み伏せて逮捕しようとしますが、手錠を持っていないことに気づきます。吉野らに取り押さえられた警官。その姿を見て「お兄ちゃんのバカ」とつぶやき、女店員は立ち去ったのでした。

複数のドラマが作れるほどのシナリオ

ストーリーの流れを書いてきましたが、かなり強引にラストシーンへドラマを終結させたという印象はありますが、一つ一つの人間模様は単独でもドラマが作れるほどの中身で、塙脚本の真骨頂とも言えます。

橘刑事と少年とのやり取りでは、同じ長崎出身ということで、長崎弁で会話をする二人。少年に息子の面影を感じながら、できるだけ少年の気持ちに寄り添おうとする橘の父性愛を感じずにはいられません。

橘が新宿駅での張り込み中、高杉府警(関谷ますみ)に連れられた少年に対し、売店で買ったケーキを「お母さんのクリスマスプレゼントに持っていけ」と渡すシーンは、なかなか味のある演出だと思いました。

蒲生警視の場面も、別のドラマにしたいほどでした。冒頭で神代課長(二谷英明)に「俺は辞める」と言っておきながら、前言撤回して「警視総監じきじきの栄転」と強がる姿は、蒲生の面目躍如といったところ。

同じ「たたき上げ」として蒲生を尊敬している吉野にとって、蒲生の左遷は我がことのように悔しかったでしょう。遺失物を探しながら、その気持ちをぶつけても平然とする蒲生。二人の関係性を物語る名場面でした。

一つだけ個人的に残念だったのは、チンピラが警官に刺されるシーンをなぜ入れたのか。あれではまるっきりの犬死ですし、後味の悪いドラマをより一層激辛にしてしまいましたね(苦笑)


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