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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第38回「会津若松の名酒場で腰を据えて飲む」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第38回「会津若松の名酒場で腰を据えて飲む」である。

はじめに

会津若松への2度目のひとり旅。ここは幕末・維新の歴史好きなら、絶対に欠かせない旅先なのだ。折しも2013年は大河ドラマ「八重の桜」が放送され、前半の舞台となったのが会津若松。主役の新島八重の出身地である。

歴史語りを始めると、エッセイが歴史探訪になってしまう。あくまでも酒場探訪でなければならない。そんなわけで会津若松、いったいどんな酒場が待ち受けているのか。夜の飲み歩きだって楽しみなのだ。

美味い酒と肴が、酔いどれ男を待ち受けている。

会津若松「籠太」~元料亭の居酒屋で腰を据えて飲む

知らないまちで飲み歩く時、あらかじめ情報収集をしてから繰り出すのだが、基本的に店選びは気分次第、というか「行き当たりばったり」である。そのため、良さげな店でも行ってみたら満席だったことも珍しくない。

今回は旅程の関係で会津若松市に2泊できる。2日目の夜に「行き当たりばったり」ができるので、1日目は人気店を予約して訪れることにしよう。私としては珍しいパターンだが、予約してまでも行きたい店、それが居酒屋「籠太」なのだ。

予約済みなので、日帰り温泉にのんびり浸かってから、タクシーを使って店まで連れてきてもらった。お目当ての「籠太」の前に到着したのだが・・・
居酒屋と聞いていたのに、まるで料亭だ。

一瞬、財布の中身が気になりビビッてしまった。

だが「籠太」の看板は出ているし、タクシーが間違えるはずがない。店に入っても、やっぱり料亭っぽい雰囲気。その傍らにカウンター席があり、どうやらここで飲めるらしい。片隅に座ろう。

女将さんにおススメの酒を聞き、泉川を所望。会津の郷土料理であるニシンの山椒漬け、馬刺の「けとばし」を頂戴する。泉川はさっぱりしていて体にしみいる。

面白いおつまみはないか聞くと、女将さんは「塩豆腐」を出してくれた。豆腐の冷ややっこを塩で食べるだけだが、シンプルさゆえに豆腐も塩もこだわり抜いている。これは酒も追加せねばならない。国権奥会津を頂戴する。

気がつくと、次々にお客がやって来て、いつの間にかカウンターは埋まっていく。やはり人気店で、予約なしでは入れなかった。いつもなら、そろそろ次の店へ向かうところだが、本日ばかりは腰を据えて飲もう。

豆腐料理をもう一品、厚揚げ田楽を注文。合わせる酒は、全国的にも有名な飛露喜の「愛山」という銘柄。この酒は強烈である。吟醸香漂い、ガツーンと来るのど越し。同じ酒蔵なのに、最初に飲んだ泉川とは好対照だ。さすがは奥が深いぞ。

美味い地酒を3杯も飲めれば十分だ。満足して店を後にする。ホテルまでの帰りは、翌日の飲み歩きに備え、酒場の下調べをしながらフラフラと歩く。もう一軒だけ寄って、軽く飲ませてもらい、一日目の夜を終えた。

会津若松「てんぐ家」~隠れ家のような名酒場を見つけたぞ

さあ、会津若松2日目の夜。昨日「籠太」で地酒と郷土料理は堪能した。でも後悔はしたくない。下調べをしていたら、吉田類さんが立ち寄った店があることが分かり、ダメ元で行ってみることにした。カウンター7席だけの小さな酒場「てんぐ家」だ。

店の場所は非常に分かりにくい。繁華街から外れた路地の一角にある。一見がいきなり入るのは難しそうな、まるで隠れ家のような酒場。屋号の由来は店内に飾られた天狗のお面から来ているようだ。

女将さんに「地酒を飲みたい」とリクエストし、まずは花泉から。会津塗の洒落たグラスで1杯ずつ飲ませてくれる。これは楽しめそうだ。肴は手作り豆腐の酒かす漬け。今宵も飲み歩くのではなく、腰を据えることになりそうな予感がする。

次の地酒は宮泉酒造の写楽生酒。合わせる肴には、店の名物「桜肉の石焼き」を勧められた。馬肉といえば馬刺しという固定観念があるが、女将さん曰く「フタエゴという脂身の多い内バラ肉なので、少し火を通して食べた方がおいしい」。

食べてみると、脂がジューシーで本当に美味い。

富士山の岩石で作ったという石焼に乗せるのが「てんぐ家」流。もともと焼き肉店をやっていた頃の名残だという。さらに、この料理を考案したのはお客さんとか。女将さんは「常連さんが店の雰囲気を作ってくださる」と感謝している。

そういう店なので、一見の旅人がやって来てもすぐに馴染める。後から来店した一人客も一見さんらしく「昨日もここで飲ませてもらったよ」と嬉しそう。3杯目の国権とニシンの山椒漬けをいただきながら、しばし語らう。

そのうちにご常連もやって来て、カウンターが埋まっていく。酒もどんどんと進み、小原酒造の蔵粋(クラシック)、さらに末廣の燗酒をチビチビと飲む。

だいぶ飲んだ。そろそろシメにしようかと思っていたところに、会津若松のご当地グルメ「カレー焼きそば」の情報をキャッチ。よし、シメはそれにしよう。

会津若松「明華苑」~そして2日目の夜は更けていく

てんぐ家のすぐ近くにある中華料理屋「明華苑」で食べられると聞き、早速来店する。注文はもちろんカレー焼きそば、それと生ビールである。

てんぐ家のご常連によると、昔は小腹をすかせた学生たちが食べるファーストフードだったそうだが、近年ご当地グルメとして売り出すようになったとのこと。焼きそばの上にカレールーをかけるというシンプルな食べ物である。

が、これが美味い。店も「まち中華」ぽくっていい。地元の方から得られる情報は実にありがたい。シメにもピッタリなカレー焼きそばも食べた。お開きにしてもよかったが、もう一軒だけ、ショットバーに寄って軽く飲んでからホテルに戻るとするか。

会津若松・・・まだまだ名酒場が隠れていそうだな。

今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2013年4月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

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