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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第33回「屋台巡りだけでは分からない福岡の味わい」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第33回「屋台巡りだけでは分からない福岡の味わい」である。

はじめに

11月は大相撲九州場所が福岡市で行われる。2008年から3年連続で観戦に出かけているが、2010年の九州行は、第29回「九州場所中に大関魁皇のふるさと直方市に行ってみた」で、直方市での飲み歩きを書かせてもらった。

今回はその1年前、2009年の九州場所観戦。飲み歩きのエッセイなので、観戦を終えてホテルにチェックインしたところから始めたい。ホテルは福岡市指折りの繁華街「天神」の親不孝通り近く。夜のお楽しみは何が待っているのだろう。

さてと、1年ぶりの福岡の夜の街へと繰り出すか。

天神「魚末」~嬉しい不意打ちに遭遇

福岡にはひとり旅や友人との旅行で何度か来ている。これまでは中洲や博多駅界隈で飲んでいるが、天神界隈は初めてとなる。そして福岡と言ったら、外せないのが屋台。今宵も屋台で飲もうかと考えている。その前に博多湾や玄界灘の海の幸をいただこう。

というわけでやって来たのは居酒屋「魚末」。天然の魚を食わせてくれる店と聞いており、かなり期待していた。まずは日本酒「庭のうぐいす」という銘柄の甘口の酒を注文する。それから品書きを眺め、この日のおすすめをチェックする。

おいおい、アラの刺身があるじゃないか。

アラとは、この地方独特の呼び名で、一般的にはクエの名で知られている大型魚だ。実は一度だけ和歌山県串本でクエ鍋をいただいたことがある。一人前ではなかなか出せない魚なので、よもや刺身があるとは嬉しすぎる不意打ちだ。

白身の刺身は淡泊だが、上品に脂が乗っている。フグよりも美味い魚の王様と呼ばれるだけのことはある。いきなりアラに遭遇でき、最高の滑り出しとなったぞ。

追加したのは旬のアマダイ。京都では一塩物が有名なようだが、この店では生のアマダイを焼いてくれた。これもほこほこしていて美味い。酒も進む。追加は大分の辛口「黒鬼」。焼酎の本場九州でも、魚料理はやっぱり日本酒だな。

天神の屋台めぐり~雰囲気に合うか、合わないか

海の幸を堪能し、上機嫌となった。次はいよいよ福岡の屋台に繰り出す番。この日は日曜日なので、営業している屋台は平日と比べて少ない。そこにお客が集中するのだから、どこも満員御礼でなかなか入り込む余地はない。

運良く1軒の屋台に空席を見つけたので、暖簾をくぐる。「華」という屋号で若者が切り盛りをしていた。早速、芋焼酎と明太子天ぷら、おでんの大根とはんぺんを注文する。明太子の天ぷらは珍しい。ご当地グルメといったところだな。

福岡の屋台は、中洲から博多駅にかけてのエリアと天神周辺のエリアに集中している。今や福岡観光の目玉の一つになっており、観光客が目立つほどだ。そのためか、なかにはボッタクリに近いような店もあると聞く。断っておくが、この日訪れた店ではない。

あとから屋台に入ってきたおばちゃん2人組が、焼きラーメンと高菜チャーハンを注文した。これがとても美味そうで、思わず私も頼んでしまいそうになった。が、踏みとどまり、代わりに麦焼酎をおかわりした。飲み歩きのシメにはまだ早いのだ。

屋台行脚はさらに続く。

次は「都」という屋号の店に入る。ここではそば焼酎とホルモン焼きをいただきながら一献傾ける。落ち着いて飲むぞと思ったのだが、若いお客さんばかりでかなり賑やか。が、聞き耳を立てても話について行かれない。大衆酒場ならいいが、狭い屋台ではちょっと五月蠅いな。

屋台というと、渋く酒を飲むイメージがあるが、福岡の屋台は必ずしもそうとは限らない。店主やお客同士の話が弾むのは悪くない。ただ、コンパクトなスペースの中なので、雰囲気に合わなければ居心地が悪くなってしまう。残念だが、店を出よう。

天神「オールドタイム」~ご当地情報をたっぷり聞いたぞ

さらに屋台のはしごをしようかとも思ったが、なかなか踏ん切りがつかないまま、繁華街をさまよい歩いていた。こうなったら、ショットバーにでも潜り込むしかない。予備知識はないので、出たとこ勝負だ。

というわけで、ショットバー「オールドタイム」に来店。私と同世代くらいのマスターが一人で切り盛りしており、先客は30代ほどの女性客一人だった。まずはご挨拶代わりにジントリックを一杯。ここでも太田和彦氏の流儀を真似てみる。

今夜は、客同士が近い屋台で大相撲の話でもできればいいなと密かに思っていた。ところが、2軒の屋台ではそれがかなわず、悶々としていたところだった。ショットバーでようやく落ち着いたこともあり、女性客を交えてトークタイムに突入していく。

まずは屋台の話題である。福岡に住む二人は「屋台には地元住民はほとんど行かないよ」と口をそろえる。理由は簡単明瞭。値段が高いのだ。同じ酒を飲み、肴を食うのであれば、居酒屋へ行けばいいだけの話なのである。

福岡の屋台が、観光誘客のツールになっていることは否めない。確かに、観光客の姿が目立つし、地元客も屋台御用達の常連さんっぽい。それはそれで、いいのかもしれないが。

観光客と言えば、福岡のご当地麺は「長浜ラーメン」と思っている人が多い。私もそうだった。しかし、地元住民はラーメンよりも「うどん」を好むのだそうだ。そして、福岡の名物うどんには強烈なインパクトがあるのだと自慢する。

それは「食べているのに麺が増えるうどん」。

思わず「そんなバカな」と言ってしまったが、マスターはしきりに「百聞は一見に如かずだよ」と勧める。そんなうどんが本当にあるのだろうか。明日確かめてみよう。

ジントニックは二杯しか飲んでいないが、トークがどんどんヒートアップして、ハイテンションになってきた・・・っと、横を見れば女性客はいつの間にか撃沈している。まだまだしゃべり足りないけど、そろそろお開きの時間だな。

福岡の夜、楽しかったぞ。おやすみなさい!

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2009年11月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

★店舗情報などを載せています→ブログ「ひとり旅で一人酒」

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「ひとり旅で全国を巡ろう!旅道楽ノススメ」→note連載中の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」もヨロシク!


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