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食事は人生のメモリアル

今日は、晴れ。

幼稚園から帰ると、机の上には山盛りのナポリタンがあった。

ベランダから部屋へと降りそそぐ太陽の光を集めるかの様に、パスタのてっぺんは黄金色に瞬いている。

そう、例えるならば初日の出の富士山。


すぐに食べ始めようとする私に、お母さんは「お手て洗って!お着替えも!」と一喝するんだ。

超特急で手を洗って制服を脱ぎ、アンパンマンのシールが貼られたお気に入りのフォークを握るまでかかった時間はきっと30秒。

あ~・・・フォーク、”ドラえもん持ち”してよく怒られたな。

いただきますーーっ!という声と共に動き出す私の右手はもはや条件反射。口の位置が自分で把握しきれていないのか、ソースがあっちこっちに飛び散った。

みるみると、赤いソースに染っていく私の口元。

お父さんはこんな私の姿を見て、ナポリタンに「口真っ赤スパゲッティー」と名付けたのだった。
横文字は覚えられなかったのに、なぜかこれはすんなり覚えられた。

でもね。食べるのが下手だったのもあるけれど、多分私、「もう何やってるの〜!」と笑いながらケチャップソースを拭き取ってくれるお母さんが好きだったの。


ナポリタンを「口真っ赤スパゲティー」と呼んでいた私も今年で20歳になった。


大人達が口を揃えて「人生は流れ星」と例える意味が、今になって胃に落ちる。

さすがに10年以上も前のことを、昨日の事のように感じるとは言えないが、幼稚園の頃大好物だったナポリタン。これを食べれば、当時の記憶の引き出しはすんなりと開けることができる。

記憶の戸棚をノックするような食べ物が、あなたはありますか?

ゅるちゅるるる~〜ッッ!!!!!!!!!!


すっかり日没した18時の吉祥寺。私は相変わらず、1人気前よくナポリタンを食していた。

この店は吉祥寺から徒歩15分ほどの所にある。

思わず通り過ぎてしまいそうになるほど狭い出入り口は、「隠れ家」という言葉が自然と頭に浮かんでくる。無事に入口を見つけたとしても、その先に待ち受けているのは傾斜が挑戦的な、階段。ヒールを履いて訪れるならば、よろけないように注意するべし。

やっとの事で登り終えると、数メートル離れた場所にノスタルジックなドアが。
【営業中】と吊るされた白い札が、ん〜痺れる。

ドアを開けると、落ち着きとモダンを調和させた数々のアンティークが‘’昭和レトロ‘’のいい雰囲気を醸し出していた。あまりにも素敵なものだから、店内を十分に見渡せるように、私は角席へと腰を下ろした。

メニュー表にはナポリタン、ハンバーグ、オムライス、トーストセットatc…。このド定番のラインナップ、ナイスグッジョブだ。

ここまで来ると、定番を貫きたくなる欲求に苛まれ、私はナポリタンを注文した。(誰でも様々な【定番】が存在すると思うが、私の中では純喫茶=ナポリタンである笑)

トントントントン

ザクッッ 、ザクッッ

ジュウワァア・・・・

狭い店は空腹の天敵、料理音が響いて仕方がない。まだか、まだかとカウンター席の向こうを除き込みに行きたくなるが、そんな気持ちを押さえるかのように「グゥ」となるお腹に手を当てた。

「はい、おまちどうさま~」

はう…////おいし、そ・・・・・・/////

具は少なめの、麺を食わすタイプのナポリタン。

クルクルクルクルクルクルクルクルクルクル~~~~~

(このときの私は空腹が最高潮に達していたため、フォークにパスタ麺を絡める動作で世界大会があったら、きっといい線までいけたと思う。)

パクっっ


ッッあー・・・!!!!!これだよっっっこれっっ!!!!!!!

ほっ…とするような安心感。同じ味だ。

(・・・同じ?私は一体誰の味と面影を重ねたのだろうか。)

ナポリタンと言えばもちもちとした麺が印象的。だが、ここはまさかのアルデンテ(笑)むしろこの適度な硬さが、喉に詰まることなくゴクゴク麺を食べてしまう。

基本はケチャップベースだが、少しウスターソースのようなしょっぱみを感じる。それにしても、この胃もたれとは程遠い優しい味付けが最高だ。なんてたって私は外食をするとすぐ胃を壊す。防腐剤や着色料、化学調味料にすこぶる弱いため、ポーチの中にはいつでもセンロック(胃腸薬)が常駐している。そんな胃の弱い私だが、このナポリタンにセンロック警報は鳴らない。

これは勘だが、最後の仕上げに有塩バターを入れているような…気がする。バターはコクを生み出す魔法の素材だ。

こんな時、きっと私のお母さんならば、少し得意げに料理の隠し味を自慢してくるだろうな。

なんて妄想が頭に浮かんだとき、私は自分のお母さんの味と、このナポリタンを重ねていたことに気づいた。

そして同時に、ナポリタンを「口真っ赤スパゲティー」と呼んでいた頃を思い出した──。

そろそろナポリタンもあと3分の1。水も飲まずに駆け抜けた。

あれは使わないのかって?

NO!NO!半分を過ぎてから使うのが私流。

ふふふふ、、、(にやり)

あれとは、そう!!!!!!

タバスコ&粉チーーーーーーーーズ!!!!!!!

これがなくてはナポリタンは完結しないといっても過言では無い。辛いのが苦手な私でも、タバスコはノリノリで振りかけてしまうから不思議なものだ。

以前なにかの本で読んだのだが、人は「味わいの動き」に美味しいと感じるものらしい。ナポリタンは、タバスコと粉チーズをかけるだけでまた違った美味しさを出してくる。これは成長するにあたって見つけることができた楽しさだ。

「 辛ァ!!!! 」

テンションに任せてタバスコ振るなかれ。

これが本日の教訓だ。

はぁ~~…食べた。

今度はパンパンになったお腹を擦りながら、店内の流れる音楽に身を任せ、食後の余韻に浸っていた。

不意に、瞬きのように感じる人生の中で、一体これから何度食事をしていくのだろうかと疑問に思った。

人生100年時代なんて言われているけど、今の食事が最後の晩餐になるかもしれないし、そんなことは誰にも答えはわからない。

わからないからこそ、1食1食に芽生える感情を零すこと無く記憶に刻んでいきたいと思った。時には嬉しいことだけでなく、悔しさや悲しみを思い出す食べ物もでてくることだろう。なんにせよ、食べることは人生録に変わりない。

それに、記憶に刺激的な食事を増やしていった方が人生楽しいと思うんだ。旅行先での食事が思い出に残るように、日々の食事の中だって新しい発見や感情で溢れているはずだ。そう思ったら、この儚いまでに流れゆく人生も、遙かに豊かなものに感じてはこないだろうか?

私はそう思うようになってから、食事が楽しくて仕方が無い。

五感は歳を重ねるうちに衰えてしまう。悲しいけど、生物学上仕方が無い。だから私は五感が働く内に、この溢れる正直な思いをnoteに書き残していきたい。

あ、そうなると必然的に私の記憶の戸棚を開けながらの遠回りな食レポなると思うがぜひお付き合いして頂けると大変嬉しい(笑)

今日のナポリタンもきっと忘れない。

あまりにも居心地がいいもんだから、ずっと座っていると寝てしまいそうだ。なんならお風呂に入ってもう寝たい。

大きな背伸びをしたら、

口の周りのソースをペロリと舐めてこの店を後した。

今回行ったお店は、「ロゼ」でした。


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