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日経平均株価はバブルの最高値を超えるか?

経済・金融レポート2024年1月 

監修:株式会社myコンサルティング

日本の株価の上昇が特に昨年から目立ち始めています。海外勢からの投資も目立ち、2024年は日本株へのマネー流入がさらに拡大しそうです。

この日本株ブームはなぜ生まれたのか。その要因を探りながら、今後の市場見通しをしてみます。


日経平均株価は2023年の年初に25,000円台でしたが、順調な各企業の業績を反映して上昇し、7月に一時年初来高値の33,753円を付け、11月以降は33,800円台と33年ぶりにバブル以降の最高値に乗せました。

日経平均株価の過去の最高値は1989年12月29日の38,915円87銭です。
最近の株価の高騰から、この最高値を超えるという予測も多くなりました。では、この好調さを支えている要因を眺めてみます。

1.日米の金融政策と金利安定

昨秋からの株価上昇の要因にまず挙げられるのは、「米国の金利引き上げの停止」です。2024年の米国はインフレが緩やかに減速し、金融政策も利下げへと転じることで、雇用環境や景気も大幅な悪化を回避するというソフトランディングを狙っています。

世界的に見ても、今年は利下げの年になりそうです。各国の中央銀行は2022年から2023年にかけて過去数十年で最も積極的な引き締めキャンペーンを展開しましたが、インフレの後退が続く中、金融緩和を開始する構えです。

このように世界的に続いている政策金利の引き上げがいったん落ち着くのではないかという期待があります。それによって、資金を調達する際のコストが下がり、株式市場に対してさらに資金が流入するのではないか、外国人投資家を中心とした多くの投資家が日本株に割安感を感じてお金を入れてくれるのではないか、そんなところが影響しているかと思います。

2.米国市場の好調

2023年の米国株は全般に好調でした。2022年から米国では景気が過熱してきたために中央銀行が利上げやQT(量的縮小)などの金融引き締めを行い、それらを要因に株価が下がる状態)が続いており、2023年も同じような軟調ムードで始まりました。

そして、金利上昇に伴う国債価格の下落によって国債の含み損を抱える銀行が増える中で、3月にシリコンバレー銀行(SVB)が破綻し、市場を取り巻く環境は一変しました。

さらに続いてシグネチャー銀行のなどの破綻、伝統あるクレディ・スイスが危機に瀕して吸収合併され、預金が急激に流出するという危機によって株価は急落しました。

しかし、その後、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融危機に発展しないように「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)(FRBが金融機関を対象に米国債や住宅ローン担保証券を担保として最長1年の融資をする仕組み)」を実施します。

その効果でマネタリーベースは再び拡大に向かい、株式市場は危機が起これば中央銀行が対応してくれるのではないかという安心感を得て、その後の株価は上昇していきました。

2023年12月にNYダウは2022年1月初旬につけた過去最高値を更新するなど、市場に好調な1年という印象をあたえました。

アップル[AAPL]やマイクロソフト[MSFT]が過去最大の時価総額を記録しています。
この米国市場の好調さを受け、日本の株式市場も株価上昇を維持しました。

米国市場は2023年から2024年にかけ、ニューヨークダウ平均株価は33,000ドルから37,000ドル台、ナスダック総合指数も12,000から15,000台と好調で、ハイテク企業がけん引役を担っています。そしてこれに連れて、日本市場も過去の最高値に迫る勢いを続けています。

3.国内投資の拡大要因

国内の投資拡大の要因として大きな期待が寄せられているのが新NISAです。
これまでのNISA(旧NISA)での買付が2023年末で終了し、2024年からは新NISAがスタートしました。

これまでのNISA(旧NISA)と新NISAの違いの概要を記します。

SBI証券資料より (現行NISAと書いてあるのは2023年末までの旧NISA)

旧NISAは、つみたてNISA・一般NISA・ジュニアNISAの3種類に分類されていました。しかし、新NISAではそれらが統合され、新NISAの中で「つみたて投資枠」と「成長投資枠」という2種類の枠ができました。(ジュニアNISAは廃止)

特に大きな変更点
①年間投資額が大幅アップ
旧NISAでは、つみたてNISAか一般NISAのどちらかを選択し、つみたてNISAの場合は年間40万円、一般NISAの場合は年間120万円が上限となっていました。
これが新NISAの場合、つみたて投資枠年間120万円、成長投資枠年間240万円が上限で、さらにこれらを併用することもできるので、最大で年間360万円の投資が可能になりました。

今までつみたてNISAだけをしていた人は、新NISAのつみたて投資枠を使うだけでも3倍の金額が投資可能、一般NISAをしていた人が成長投資枠だけ使うだけでも2倍の金額が投資可能と単純に適用される金額が大幅にアップしたことで、一般投資家がさらに多くの資金を投資に回しやすくなりました。

②非課税保有期間が無期限に
旧NISAの場合、つみたてNISAの非課税保有期間は最長で20年、一般NISAは5年とされていました。例えば、昨年末までに一般NISA枠で買った株を5年以上持ち続けた場合、非課税ではなくなってしまうということになります。しかし、新NISAでは非課税保有期間が無期限になり、今年以降NISA枠で買った株に関しては今後どのタイミングで売ったとしても非課税となります。

③投資枠の再利用が翌年以降可能に
旧NISAでは、最大投資可能額のうち投資した株を売却した分の投資枠は使えなくなるとされていて、売買をするのも少し慎重に行う必要がありました。しかし、新NISAでは売却しても翌年にその元本価格分の生涯投資枠が再利用できるようになります。これによって、最大投資可能額をあまり気にせずに売買をすることが可能になりました。

これらの変更点は、私たち一般投資家からすれば非常にメリットが大きく、実際に新NISAによって国内投資家の資金が株に一気に流入しました。

【参考】
ただし、1月4日~12日までの資金流入額の首位は、三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS Slim(オール・カントリー)」、次いで同じく三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」となっており、逆に日経225からは資金が流出していることが分かっています。
ですので、今後若年層への浸透など新NISAに期待はできますが、「新NISA=日本株の上昇」という相関性はまだ出ていません。

(日本経済新聞より)

4.外国人投資家の参入増加

(1)欧米からの投資拡大

2023年4月、ウォーレン・バフェット氏が来日し、日本の総合商社のトップらと会談しました。その後、彼の率いる投資会社バークシャー・ハサウェイの株主総会でも日本への株主投資に意欲を見せました。

同投資会社が保有している日本の5大商社の発行済み株式数は同年6月までに平均8%超を超えたともいわれ、これが外国人投資家に日本株への関心を一層高めるきっかけにもなりました。

バフェット氏の株の運用手法の柱は、バリュー(割安)投資です。これまで日本株は米国などに比べて評価が低かったのですが、今その見直しが始まりました。

日本の「失われた30年」に対し海外投資家は、この間にリストラとコスト削減、企業ガバナンスなどの内部改革が進み、業績が好調になったと評価し始めたのです。

もう一つ評価しているのが、日本人の勤勉さ、真面目さで、そこから生まれる製品、サービスの質の高さです。「メイドインジャパン」のブランド評価は高く、さらに日本のイノベーション力にも期待は大きいのです。

さらに海外投資家は、日本の個人の生産性の向上も求め、そのために成果主義を導入し、年功序列から抜けた賃上げをする必要性も指摘しています。

2024年は米国大統領選挙があります。「トランプリスク」とも言われる大統領選挙は、結果はどうあれ、米国の金融、政治、司法システムに大きな変動を与えるリスクもあります。

そのために史上最高値を付けるなど絶好調ともいえる米国株ですが、運用の中心を見直すながれもあり、地政学的に安定した日本株は、「アジアの先進国株」の中心として、さらに注目を集めそうです。

東京証券取引所などの2022年度の全国上場企業の株主分布状況調査によると、金額ベースでみた外国人の保有比率は30.1%で、3年連続で3割台を維持し、増加傾向にあります=下のグラフ(日経新聞より)を参照

(2)中国人投資家の資金が日本株ETFに大量流入

先日、香港に拠点を置く中国の資産運用会社である「チャイナ・アセット・マネジメント」が運用する「チャイナAMC野村日経225」上場投資信託(ETF)のプレミアムが一時23%にまで急上昇しました。

これを受け、同社は「やみくもに投資すれば多額の損失を被る可能性がある」と警告し、同ETFの取引を一時停止する事態に陥りました。実は2023年5月にも同様のことが起こっており、投資家に対して注意喚起をしていました。

こういったニュースからも、中国人投資家の資金が日本株に大量に流入し、加熱していることがお分かりいただけるかと思います。

この背景にあるのは中国経済、中国株の株価低迷です。 
 

(香港ハンセン指数=HISの月足チャート)

上のグラフで分かるように2024年1月現在、香港市場の株価は2021年2月から約3年でほぼ半値まで下落しています。ではその要因と考えられるものをいくつか挙げてみます。

(3)中国株価低迷の原因

 ①中国恒大集団(エバーグランデ)の負債問題(2021年~)
中国の大手不動産デベロッパー「中国恒大集団」の巨額負債が表面化したのが2021年、そして米連邦破産法15条の適用を申請したのが2023年8月17日でした。

その後、中国の最大手不動産デベロッパー「碧桂園(カントリーガーデン)」も巨額の赤字を出し、デフォルト危機に陥っているとの報道が流れました。

これまで不動産業界は中国経済の急成長を牽引してきましたが、その最大手の一角である中国恒大の実態が高いレバレッジをかけた自転車操業であったことなどが発覚、さらには同じ業界最大手の碧桂園も多額の負債を抱えてデフォルト危機である、といったニュースは市場の信頼を大きく損ねる重大な出来事となりました。

②中国政府による規制強化
中国が急速な経済発展の中で台頭してきたアリババやテンセントといった企業は、世界的に見ても最大規模のプラットフォーマーとなりました。

ここまでの企業に成長できたのは、これまでの政府の方針として、規制をかけすぎるとイノベーションを阻害してしまうので寛容な姿勢をとっていたというのが背景としてあります。

これは1985年頃から鄧小平氏が唱えた改革開放の基本原則である「先富論(豊かになれる者から先に豊かになり、貧しい人たちを助ける)」に則った考えと言えるでしょう。

日本を含め、現在先進国と呼ばれる国々は資本主義で目覚ましい発展を遂げてきたわけですが、実際に中国も先富論を掲げて市場経済化を進めた結果、今や世界第2位の経済大国と言われるまでに成長しました。

しかし、一方で経済格差が拡大し、上位1%の富裕層に全体の30%の富が集中するという資本主義国同様の格差問題を中国も抱えることになりました。さらに、米国ですら上位1%が家計全体の総資産のうち25%を占めるといわれていますから、中国はそれ以上に経済格差が広がり、習近平政権も見過ごせないほどに問題が大きくなっています。

そこで、習近平政権はこれまでの「先富論」から転換をしていく時期に入ったとみて、2020年12月の中央経済工作会議では「独占禁止および資本の無秩序な拡張防止の強化」を重点課題として提示し、2021年8月の中国共産党中央財経委員会では「共同富裕」を推進していくという強い姿勢を見せました。

実際に2020年11月には史上最大の資金調達となると目されていたアリババグループの金融関連会社アント・グループの香港でのIPOが直前で延期となったり、その後もアリババやテンセントに対して独占禁止法違反にあたるとして罰金処分を課したりと大手プラットフォーマーに対する規制も強めています。

③米中対立
米中関係について、2021年3月の記者会見で米バイデン大統領は「21世紀における民主政治と独裁政治の間の戦争」と発言し、現在の米中対立は「新冷戦」とも揶揄されるほど、こうした米中間の緊張関係は投資家の不安を煽る要因となっています。

また、台湾有事などの地政学的リスクも投資家心理を悪化させており、香港など中国市場から日本市場への資金流入の要因になっています。

5.長期の株価予測

以上のような要因をみてきましたが、少し長期的に株価動向を見てみます。

1989年のバブル期最高値からの上の日経平均株価のチャートを見てみると、2024年1月の株価は2012年から続くチャネル(紫)を上抜けしています。

2020年4月にはコロナショックによって一時下抜けていますが、すぐにチャネルに戻す動きをしているので10年以上ほとんどこのチャネル内での推移をしてきたことになります。

コロナショック以降のチャートは非常に強い上昇を示しており、バブル最高値の38915円も視野に入っています。

今年2024年中にバブル最高値を試してくるようなチャートになっていて、一旦は意識されて多少下落もあるとは思いますが、上昇の勢いが強く上抜けすることが予想されます。

そうした場合の目安としてはここまで10年単位で上昇してきたチャネルと同じ幅のチャネル上限(紫)と、コロナショックからの上昇チャネル(オレンジ)の上限が重なる4万6000円前後が目安になってくるかと思います。時期的には2025年10月あたりが考えられます。

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