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気になる「不便益」という言葉〜強烈に心に残っている初めてのパリの思い出

「不便益」という概念

この前、知り合いから「面白いよ、コレ!」と紹介され「旅と学びの協議会」というオンラインのシンポジウムを拝聴させていただいた。

その中でとても印象的だった言葉がこの「不便益」という言葉。

体験型の商品を「便利(物質的な豊かさ)⇔不便」と「精神的豊かさを味わえる⇔不快」を軸に考えた4つの概念に分類し、説明。
・便利益(便利で快適・かつ精神的に満足できる)
・便利害(便利で快適・しかし精神的満足はいまひとつ)
・不便害(不便で・かつ精神的満足もいまひとつ)
・不便益(不便・なのに精神的に満足できる)

不便を積極的に活かし、そうすることでしか得られない効用」というが、不便益。
アジアが好きな自分にはこの意味がすごくわかって、もしかして世の中の<インド好き>とかはほとんどこの快感を味わいたいがために旅行を繰り返しているのではないか、とさえ思った。
世界的なネットの普及で、世の中ここまで便利が浸透してくると、何もかもがスムースすぎてつまらない、こともある。恋愛だってそうだ。困難な環境だからこその熱い盛り上がりがある(例:「愛の不時着」をはじめほとんどの韓流ドラマ)
だからこれからの時代は、<不便益>こそが、多少お金を払ってでも体験したくなることなんじゃないだいろうか?そしてなによりヒトを育てていくのに重要な要素がいっぱい含まれているような気がする。

だから何回かに分けて僕目線の不便益について書くことにする。

僕のヒドイはじめてのパリ旅行

自分で言うのもなんだが、僕は運がそう悪くはないと思っている。悪運が強い、というのか、何だか自分で望んでいない方向に行ったりする割に
最後の最後で笑い話になったりするとぼけたオチとなることが少なくない。

僕の初めてのパリは、今現在旅行会社を経営していることが信じられないくらい、行き当たりばったりで無計画この上ない危険な旅だった。

あれはまだ会社に入って間もない24.5歳くらいの時、パリで働く日本人の友人Aさんを訪ねて初のヨーロッパ、パリに行く時のこと。

日本出発の前日、「数日前にパリでAさんと会ってきたよ!」という会社の同僚から
「コレ、○○さんの会社の場所の地図置いとくね。ここに行けば会えるよ!」と確か残業した23時頃、折りたたんだメモを預かった。
僕は中も見ずに財布に入れ、終電ギリギリでうちに帰ってから旅の準備をした。


初のディレイに興奮


さて 翌日・・・飛行機はいきなり半日の遅延(ディレイ)。
若かったせいか、はじめてのアクシデントに半ば興奮しつつ、4時間ほどの待ち時間の間にちょうど同年齢位で「パリにパティシエの勉強に行く」という女の子B子さんとすっかり仲良くなってしまう。そして搭乗。

B子さんと隣の席にしてもらい、機中でも様々な話で盛り上がっていた頃
彼女から、「ところでパリのどこに行くの?」と質問され、
僕は同僚からもらったメモを開いて、そこで初めてまじまじと中身を見た。
メモは、パリ市内全体の地図のコピーの真ん中右寄り上位のところに、
ポンと丸印がしてあるだけの恐ろしくシンプルなものだった。
「あれ!?電話番号とか書いてないんだ」とその時はじめて少々ドキドキ。
でも「ま、行きゃなんとかなるね〜 アハハ」(超前向きな若き自分)

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パリに着いたのは、夜9時過ぎ


市内まではB子さんと出来るだけ一緒に行動しようと、バスで。
とりあえず彼女を迎えに来ているというパリ在住の男性に挨拶して、メモを見せればすぐに行けるだろうと、たかをくくっていた。
待ち合わせの場所に背広姿のB子さんの出迎えの方が。
「あのー、僕ここに行きたいんですけどぉ」男性はメモを見てすぐさま
「パリは路地が多いから、この地図じゃタクシーではわからないよ。ちょっと待って。僕の持ってる地図で住所を解読してあげる。」
現地のさらに詳しい地図を広げて
「うーん、○区○○の・・・最後の番地はどうしてもわからない。もし迷っちゃたら僕に電話ちょうだい」
と親切にも電話番号を渡してくれた。
場所はマレ地区の一角。

けれど若かりし僕はこの時点でもうすっかり安心しきって、もしかした「俺って旅上手だナ」とまで思い上がっていたと思う。
<若さ>や<知らない強さ>さって絶対ある!
この時点でも僕は全く怖くはなかった。

さて タクシーに乗って、住所を見せた瞬間、よくわからないフランス訛りの英語で「ラストの番地がわからないから行けない!」の一点張り。
それでも「絶対着ける!」と僕の気持ちは変わらず、強引に車を出してもらう。
そして到着したのは夜のマレ地区。


「この1ブロックのどっかだよ、たぶん」ばりでタクシーを降ろされ、
私は大きなリュックしょったまま、歩き始めた。1辺が300mほどのブロックを1周…2周・・・
パリの友人のオフィスに電話するはずが、番号わからず、しかも半日遅延。
その時になって初めて「あ、そういえば俺(友達の)会社名も知らないじゃん!」
僕は本当に何も知らない、無準備で、しかも初めてのパリの市内まで来てしまったのだった。
それから何周あたりを回ったろうか・・・・
街中の家の1階部分はほとんどが門やガレージでまったく人気がない。
「こんな時間に働くフランス人はいないけど、日本人ならありうる」
「Aさん(日本人女性)は僕から連絡がこないのをおかしいと思って、絶対待っててくれている」
そんな勝手な確信だけを持ち、明かりの灯る2階より上の部屋に目を凝らしながら何周も何周もブロックを歩き続けた。
そして十何周目かで、偶然にもある場所の2Fの窓に黒髪の女性の後ろ姿を一瞬見た気がした。

「あそこだーーーっ!」
なぜか、黒髪だけで勝手に決めつけて、僕は自分の持っているありとあらゆる紙を丸めて、その2Fの窓めがけて勢いよく投げ始めたのだった。

すると、中にいたフランス人のおばちゃんが、窓を開けて私に「やめなさいっ!」みたいなそぶりで窓から怒り始めた。
「Aさんはココにいる」と勝手に確信を持っている僕はそれでも紙屑を投げることをやめなかった。

そしたら‥
奥から出てきた!
Aさん!!

そして僕は両手を思いっきり振った。
「こんばんわーっ!」

ふーっ 一件落着!

ちなみに怒ってきたフランス人おばさんは、僕が石を投げつけてると思ったらしい。

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若気の至り・・・にしては本当にアホで危険すぎた


ただ運だけ良くトラブルにも巻き込まれず、無事 目的をはたせた。

もちろんさすがにこんな旅は最初で最後。
けれどこの旅で学んだ教訓はほんとに多かった。
そして何より、忘れられない

「不便益」の一例としてはかなりギリギリの事例だろうが、これこそが旅のもつ効用だと思っている。

トラベル(旅)の語源


有名な話だが、元々「トラベル」はフランス語のtravailler 。トラバイユは「苦難」とか「苦労」の意味。昔の旅は馬や船、徒歩の移動であったし、道中に盗賊などがいたり治安が悪いなどといった事情で「旅=危険なもの」であったため、トラベルの由来になったという。

だから、当時からすると格段に安全かつ便利に移動できる現代だからこそ、〈(安全な前提で)不便が体験できる旅〉はまたとない生きている間の貴重な体験だ。
誰かか「移動距離がヒトを創る」と言っていたけれど、ほんとにそう思う。

「不便益」。しばらくはこのワードに大注目したい

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