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しあわせを感じる蒼い朝

蒼い時間

歳のせいか、近頃は必ずと言って良いほど朝5時頃一度目を覚ましてトイレに行く。
ダブルベッドに寝ているのだが、横にはパートナーのほかに犬が4匹あちこちに寝ていて、
今朝もいつも僕にお尻のあたりを寄せて眠る犬の着ているスカートの裾が僕の鼻をくすぐって目を覚ました。

まだ薄暗い蒼い朝。
パートナーのイビキ。
犬たちの寝息。

目覚めた時、僕はなんてしあわせなんだろうと、
毎回この光景を見て、想う。

ある日の夢

この間、夢をみた。
夢の中の主人公は、やり場のない孤独を感じるひとりぼっちの僕だった。

目覚めた時、いつもの雑魚寝の光景だったことに、どれだけホッとしたことか。

おじいちゃんとの別れ

昨夏から半年間、僕が介護のヘルパーとして毎日伺わせていただいたおじいちゃんがいた。
昔はとても偉い方だったようで、以前は怒ると怖かったし、デイサービスでも他の人達とは中々馴染めなかったとケアマネが話していた。

大きな家だった。
すごく立派で、キッチン周りは比較的新しかったけれど、他は全て昭和を感じさせる贅沢な造り。
段差も多く、風呂は狭い給湯式。トイレは寒い。
おじいちゃんはその家で、朝8時頃から夜22時頃まで.いつもひとりぼっちで過ごされていた。
広くて、寂しいし、やる事がないから、時々外に出てしまう。

一度、どこかで転んだか、顔が血だらけだったことがあった。
けれど、本人はどうしてそうなったか覚えていない。

僕は昼間と夕方と夜の3回、そのおじいちゃんの家に行って、掃除や洗濯、お風呂のお世話、そしてご飯を作っていた。

人の好き嫌いが多く、用心深いおじいちゃんも、僕のことは何となく許してくれていたようで、いつも優しかった。
雨の日など、自分の上着を持ってきて「寒いだろう」と肩にかけてくれた。
夜は夜食を食べながら、TVニュースを見ながら政治の話を時々ふたりでした。何かをしてあげた時、「恐れ入りやの鬼子母神」などと言って笑っていらした。

けれど、とにかく夜眠ってくれず、夜中にウロウロガタガタやるらしく、同居の一人息子が大変だとのこと。
半年間にさまざまな睡眠薬を試してみた。

「痴呆が進んでいる」といっても、
全てが終わったわけでは、ない。

ある日突然、ケアマネより、おじいちゃんが入院することを告げられる。

この地域では有名な精神病院の特別個室だという。
最後の朝、僕は支度にいつもより早くに伺わせていただいた。
「今日は良い天気だし、お出かけですよ。」と言って、新しいオムツに履き替え、お気に入りの服に着替えていただいた。
大好きなハンチングを渡したら喜んで、おしゃれに被った。

迎えのタクシーに親戚の方と乗る。
窓から手を振ってくれた。

おじいちゃんの朝

今、おじいちゃんはどんな朝を迎えているのだろう。

時々、僕はおじいちゃんのことを思い出して、自分の朝がどんなにしあわせなことかを、噛み締めている。

ひとの人生の終わりは、誰しもが、「やがて悲しき時」を迎えるという。
怖がってばかりではいけない。
今を楽しみ、幸せを感じながら家族との時間を大切にしなければ。

そう思う、蒼い朝。

僕がしあわせであることを教えてくれたおじいちゃん。
どうかしあわせな朝を迎えておりますように。

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