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瞑想を妨げるもの

 仕事を辞め、瞑想センターと同じような生活リズムで一日を過ごして身体を慣らしておきたい、と思っていた。朝は3時半に起床。午前中に二食。午後は飲み物だけにする。午後食事を摂らないというのは、瞑想センターでは守るべき八戒に含まれているので、それに備えておくために行っていた(その時には八戒の詳しい中身まではよく知らなかった)。
 ここで八戒とはどんなものかを挙げておこう。

 一.生き物を殺さないという戒を守ります。
 二.与えられていないものを取らないという戒を守ります。
 三.私は非梵行から離れるという戒を守ります。
 四.嘘をつかないという戒を守ります。
 五.放逸の原因である人を酔わせる酒類・麻薬類を取らないという戒を守ります。
 六.私は時間外の食事をすることから離れるという戒を守ります。
 七.私は修行の妨げになる踊り・歌・音楽を見たり聴いたり、装飾の原因である花飾りをつけたり、香(化粧クリーム)を塗ったり、アクセサリーをつけたり、着飾ったりすることから離れるという戒を守ります。
 八.私は高い寝床や立派な寝床に寝ることから離れるという戒を守ります。
  (西澤卓美著 「ミャンマーのマインドフルネス」サンガ出版 より)

 これは瞑想センターで修行する在家の人向けの戒で、出家した方にはもっと多くの戒があるのだが、在家には関係ないことなのでここでは触れない(また、一応言っておくけれど上座部仏教の戒なので、日本ではどうなのかはよく知りません。分断に繋がらないよう気を付けたいところです)。

 家にいる時、3時半起床は私には厳しくて4時半くらいに起きていたような気がする。また何かと雑事があったりして家の中で長く瞑想に集中するのは難しく感じたので、朝起きてすぐにパーリ語の勉強をしていた。上座部仏教の経典はパーリ語で書かれているので、基本的な言葉を知っていた方がいいし、お坊さんから戒を授かるときに必要だろう。経典を読めるに越したことはない(文法はラテン語に似ている)。もちろん瞑想の時間もなるべく取るようにしていた。
 この時はひとり暮らしだったので、こういう生活をしていることは誰にも知られなかった。

 「ミャンマーに瞑想に行きたい」
 この話を自分に近い関係にあるA氏に伝えた時――ここではA氏どういう関係なのかはお伝えすることはできない。ネット上に私的なことを書くのは非常識だと考える人なので――非常に驚かれてしまった。ミャンマーなどという国に行くなんて。当時も軍主導の政権下にあって、アウンサンスーチー氏は軟禁されていたし、それ以外のイメージといえばジャングルしかない最貧国だし、そんな不穏な場所にひとりで行くのはダメだというのである。やりたければ家でやればよいと言う。また、A氏はキリスト教文化の中で育った人間なので、仏教のことは何も知らない。瞑想といえば暇人のする怪しいものくらいの認識だったようだ。
 放っておいて行ってしまうというのもひとつの手なのだけれど、やはり一度は説得を試みた方がいいだろうと思った。実際の瞑想センターの様子や、ミャンマーの写真などを見せれば少しは気が変わるかもしれない。そう思ったがA氏はインターネットを見ない人なので見せる手段がない。新聞やテレビで伝わってくるミャンマーにいい話はない。困ってしまった。
 そこで上座部仏教について簡単に説明した。ミャンマーやタイ、スリランカなどに伝わっている仏教で日本の仏教とは経典から違うこと。日本であれば観音様とか阿弥陀様とか色々信仰対象があるが、上座部では仏陀のみであること(過去仏の仏像もある)。ミャンマーには外国人を受け入れている瞑想センターがあってそこに居れば外部との接触はほぼなく生活できるため安全であること。
 …など言ってみたのだが、ひとりでは危ないという一点張りでなかなか話が伝わる様子がない。しかもひとまず三か月というのが長すぎるとのこと。そうなのかなあ。
 ということで、何故かA氏も一緒にミャンマーに行くことになってしまった。

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