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#394 あのラッスンゴレライを忘れない

2023.7.26.
ひとつ、昔話でもしようか。


むかーしむかし、あるところに、アラサーで教員になった先生がいたそうな。子供に混じりておにごっこをしつつ、教員としてよろづのことを学ぶ日々を送りけり。名をば、みゃーとなむ言ひける。

みゃーは、それはそれは一生懸命な先生で、いろいろ試しては失敗し、うまくいかないと教員室で喚き、指導案が書けなくて1時間トイレに籠もっていたところを先輩に保護されるような始末だった。周りには非常に優しく協力的な先輩方がたくさんいて、1/23の確率で初任研授業者トップバッターを引き当てた際には、何人もの先輩が自分のクラスを自習にして授業の様子を見にきてくれたそうな。


そんなみゃーが超若手教員だった頃、クラスにAくんという男の子がいた。Aくんは物知りで、周りに負けるのが大嫌いで、好きなことには猪突猛進で、じっと座っていることは苦手で、気持ちのコントロールも苦手で、少しのことでイライラしておさまらなくなってしまったり、周りとトラブルになると手を出してしまったりすることがあった。

別のところにクールダウンの場所を作る。予定の変更は早めに伝えておく。座っていられなさそうなときは先生の手伝いとしていろいろ動いてもらう。あの手この手でAくんの対応を考えるみゃー。

でも、こちらにも余裕がないときは正面衝突になってしまうことも。注意したらカチンと来るような返答をされて、子供同士のけんかかのごとく言い争いになったり。(アンガーマネジメントに失敗…)Aくんの怒りが爆発して、教室のいろんなものが壊されたり。



その年の3学期。保護者とも管理職とも相談を重ねてはきたが、もすうぐ1年も終わるという時期に、みゃーとAくんの関係はあまりうまくはいっていなかった。1時間に1回は起こるAくんの癇癪。指導の言葉も彼には届かず、暴れるのを止めようと対応しているうちに、みゃーのすねには青痣が…。

その日も、いつものごとくAくんが爆発した。大声で暴言を吐くので、これでは授業にならない…と、いくつかの選択肢の中から、みゃーは「廊下にAくんを出す」を選択した。

怒りが治まらず廊下から大声を出し続けるAくん。力まかせに教室のドアを叩く。うるさいし危ないし、でもこの状態で教室には入れられないしで、ドア越しに「そんなに叩いたら危ないよ。やめなさい。」と伝えるみゃー。

そのとき、なんとドアについていたガラスが…

割れた。


自分にガラスの破片が降り注いでくるというシーンを、初めて見た。

私も驚いたが、割れたガラス越しに、もっと驚いた表情のAくんを見た。彼も、こんなことになるとは思ってもみなかったようだ。驚き、そして動けずにいた。

急にバリーンとガラスが割れたので、教室にいた他の子たちも大騒ぎになった。みゃーの手や腕がガラスで数か所切れ、血が出ていた。「先生、血がでてる!!!」と気付くと、泣き出す子までいた。

みゃーは大変なことになってしまったと思いながらも、周りがパニックだったので自分は冷静だった。ガラスで切れているところも、全然大したケガではない。でも…

この教室の空気はまずい。何とかしなければ。


実は、この後この割れたガラスをどうしたのかとか、誰かヘルプを呼びに行ったとか、Aくんにどう対応したのかとか…全く記憶にない。当時を知る方がいたらいつか聞いてみたいものである。実はそのくらい私も動転していたのかもしれない。

とりあえず自分の手の傷に絆創膏を貼らなければならず、「大丈夫だよー」と声をかけるが、あまり雰囲気は変わらない。

「えーと…誰か何か…
楽しいことしてくれる人、いる?」

困り果ててアバウトな問いかけをしてしまった。しかしそこで、手が挙がったのだ。BくんとCくんだった。彼らは、活発でときに調子に乗り、クラスでも人気者だった。例えるなら、ちびまる子ちゃんに出てくる大野くんと杉山くんみたいな感じである。

彼らである

「先生、オレたち…ラッスンゴレライやります!!!」



未だかつて、こんなにウケなさそうなステージでラッスンゴレライをやった小学生はいただろうか。お通夜のような雰囲気の中、黒板の前に出てきた2人。そして彼らは…フル尺のラッスンゴレライを披露したのだ。

提案から始まり、この状況で全力ラッスンゴレライをやるシュールさに、みゃーは大爆笑。普段から練習していたようで、ネタのコピーぶりも素晴らしく、淀みなく進める2人。あんなにめちゃくちゃだった教室も、みんな真剣にネタを見ていて、私と一緒に笑い始めた子もいた。

満身創痍のみゃーの心に残った感想はただ一つ。

BくんCくんに…めちゃくちゃ助けられたなあ。



若手の頃に子供たちに救われた記憶。

私は、あのラッスンゴレライを忘れないだろう。



#教員エッセイ
#若手の思い出
#ラッスンゴレライ

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