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DIYにアラズ(台湾入院日記—日本編—)

何日かにいっぺん、22時ごろ更新。初めて行った台湾でバイクにはねられ、足を骨折。現地での入院、手術を経て這々の体で帰国した女の、日本でも続く入院・治療譚です。

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「ほな次回、金具の情報持ってきてな」

宿題が出た、前回の診察。自分の身体に埋まっている医療器具の詳細を教えてもらう。たったそれだけのこと。そう、これが日本国内ですむ話ならば、だ。

相手は鉄壁のガードを誇る台湾国軍病院。一筋縄ではいかないことを、これまでの経験から知っていた。先が思いやられたが、診察中に送っておいた問い合わせに対して、翌日の昼ごろに保険会社から第一報が届いた。

「担当医師・看護師とも8月21日まで不在のため、すぐの回答ができないと病院より連絡がありました」

なるほど。
なるほどね。

夏休みだ。

そういう時期だもんね。大事。夏休み大事。日ごろから人命をかけて戦っている医療関係者こそ、ぞんぶんに休んでほしい。麻酔科の戴先生はきっと、きらめく海にダイビングをしに行くのだろう。知らんけど。

とはいえ、数日を経てなお先方の中でこの話が生きているのか。それはそれはもう、心配だった。日が経つごとに「そんな患者おったかな?」となるのではないか。いや、ここに運ばれてくる日本人は相当レアだったと思うけど、爪痕を残してやったというほどの手応えは、ない。

耐えかねて、22日の午後に保険会社へ探りを入れる。次の診察は29日、猶予はあと1週間。

その日の夕方。

「病院から情報きたで!(超要約)」

おおぉぉ!金具のメーカーに加えて、プレートとボルトのサイズも。やった!完璧だ!この返事を筆文字で大きく書きつけた紙を掲げて、走り出したい。走れ走れ!外では報道カメラが待ち構えてるぞ!世の中に勝利を知らしめろ!

メールは普通にプリンターで印刷した。

翌週。「どうだ!」とばかりに、鼻息荒く宿題を差し出す。うまくいけば、9月初旬には再手術できちゃうんじゃないの?おもわず身体が前のめりになる。

ところが、診察の前に撮ったレントゲン写真を舐めるように見ているY先生の表情は、ふだんの朗らかさから程遠くシブい。え?なになに?怖い。

渋い顔の先にある画面には帰国した日に撮ったレントゲンと、さっき撮ったレントゲンが横に並んでいる。

青い矢印は再手術の説明用

「ええところを探してんねけどなぁ。見当たらんわ」

豪速球のどストレート投げ込んでくるやんか。

とどのつまり、「骨の治りが悪い」ということだ。事故に遭ってから1ヶ月。一般的に折れた骨が治癒するには6週間かかると言われているらしいが、その経過が芳しくない。治癒状況にええところが見当たらないというのだ。

顔の骨を折った時は、治りが早すぎて金具を取り出す手術で難儀したというのに。あたらしくできた骨で覆われてしまったネジ山を露出させるために、ドリルで削られるという顔面大工事を受けてしまったというのに。悲しいかな、ちゃんと25年ぶん加齢していた。

「6週間経った頃に、もっぺん診よか」

6週間経ったころとは、つまり9月の中旬をさしていた。そこから再手術の調整となると、9月下旬から月末になるのでは…。

なんとしても10月14日に入れたい取材があったのだけど、暗雲が立ち込める。意気消沈するわたしの隣には、わずかに台湾の空気をまとった「ゆく女」こと、例の看護師さんがいた。

無事だった!
前回の診察時は単にお休みの日だったようで、Y先生がカルテを書いている間、台湾での思い出話で盛り上がる。無事でよかった、本当によかった…。

「ほな次は9月11日の週に来てくれる?」

ならば、できるだけ早くに。9月11日に決めた次の診察までに、Y先生がネジ山の詳しい形状を調べ、取り外す手術をしてくれる病院をあたってくれることになった。

医療用のボルトはメーカーによってネジ山の形がさまざま。合う工具で施術しないと、ネジ山が潰れたり途中でボルトが折れたりする危険があるのだそうだ。

DIYでの話ならね、そうなっても何とでもリカバリーできるんでしょうけども。最終的には作り直しとか、廃棄とか、パワープレイもやぶさかではない感じですけども。

一生のお付き合いの足ですのでね。

この厄介な手術を引き受けてくれるところを、2週間のうちに探してくれるのだと。Y先生は歯に衣着せぬ物言いをするが、面倒見の良い人柄が滲み出ている。

9月初旬には再手術、という希望は消えてしまった。

慎重にことを運ばなければならない状況を理解しつつも、10月14日に控えた悲願の取材に間に合わないのでは…そんな予感で悶々としていた。

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